36℃

「暑い溶ける暑い溶ける暑い溶ける。」
「やめて平助。本当に溶けそう。」

うだるような暑さにどんどん体力が吸い取られているのを感じていた。一刻も早く涼しい室内に入りたい。その気持ちだけで足を動かしているといっても過言ではない。
私の隣を歩く平助も同じなのだろう。少し虚ろな目をしつつも足だけはきちんと動いている。あ、口もだ。学校から互いの家まで他の季節ならたいして何も感じない距離も夏だけは違う。本当に学校から五分に家がある友人たちがうらやましい。


「あと…少し。」
「そうだね、平助。あと少しだからがんばろ。ほら、水飲んでがんばろ。」
「う。」

今日の気温は36℃と天気予報で言っていた。一瞬聞き間違いかと思ったけれど画面にもその数字が表示されていたとき私は倒れるかと思った。むしろ倒れて休みたかった。暑い暑いとは思っているけどまさか体温並になっているとはどうした地球。

「あ。今日俺んち親遅いんだ。」
「…ご愁傷様。家の中は灼熱地獄だね。」
「ちょ…まじかよ。ってかお前んちだってそうじゃん。」
「君と違ってタイマー設定してるので私の部屋は今頃快適ですありがとうございましたー!」
「はあああ!?ずりぃ!」

幼馴染の私たちは同じマンションのお隣さん。玄関先まで一緒っていうことにもはや違和感なんてないけれどドアtoドアで一緒だとまぁみんなに勘違いされるんだよね、付き合っているのだと。
実際私たちにそんな甘酸っぱいものはないというか恋愛ってなぁに?状態の二人だから基本関係が幼稚園から変わっていないのが現実である。

「お願いします雫様、俺を部屋にお導きください。」
「どこの神様よ私。よし、そこに跪け。」
「熱々のコンクリートは勘弁してくれよ。」
「アイス奢ってね。」
「それぐらい楽勝!!やったねー!」

そんなくだらない会話をしていると見えてきました私たちのおうち。エレベーターで上がりカバンから鍵を取り出そうとあさり始める。平助は私の家の玄関にスキップしながら向かっていった。冷房の効いた部屋がそんなに嬉しいか。

「あれー鍵どこかな。」
「早くしてれよー。」
「ねえ平助。今日36℃あるって知ってた?体温並だよ。私なんて低体温だからむしろ気温に負けてるんだよ。」
「まじかよ。」

やっと鍵を見つけ出し玄関のドアを開けた。中へ入り靴を脱ぎすて急いで自分の部屋にかけこむ。

「「天国ー!!」」

タオルで汗をぬぐいながら荷物を放り投げるとほぼ同時に平助も同じ行動をとっていてなんだか笑えてくる。行動パターン同じかよ。

「ってかお前36℃ないのかよ。」
「うん。いつもぎりぎりないね。平助は高そうだよね。子供体温ですもんね。」
「誰が子供だよ!」

どがっと床に座り込んだ平助に飲み物でも持ってきてやるかと部屋を出ようとした瞬間だった。
平助が急に立ち上がり私の腕を掴む。なんだ?と反応する前にぎゅっと音がしそうなぐらい強く抱きしめられた。

「…はい!?」
「あ、ほんとだ。お前冷たい。気持ちいい。」

腕や手をぺちぺち触るその手は熱く言っていた通り体温が高いのか外の気温でほてっているのか知らないが妙に感覚が残っていく。

「何してんの!」
「え?だって気温より低いんじゃお前冷たいんかなーって思って。」
「あほか。暑苦しい、離れるか出ていくかしろぉ!」
「何怒ってんだよ??」

きょとんと目を丸くしてこちらを見る平助に友達が「あざとい」と言っていたのを思い出した。これか、こういうところか。

「今飲み物持ってくるから座ってて、おすわり!」
「犬じゃねえし!」

ぎゃーぎゃー文句を言っている平助を置いてキッチンへ向かった。
何これ、何これ、何で…。

「心臓がうるさい。」

いや、別にこれは平助にドキドキしてるとかじゃなくて、そうだ、急にあんなことされたから。誰だってびっくりして心拍数あがるし。
そう、だから別に私はあんな奴!!
あんな奴…。

顔が熱いのは気温のせいじゃないと気づいてしまった私はしばらく部屋に戻れなかった。


「んー…意外といけるか?これ。」


冷たい体温の感覚が残った掌を見つめながら、顔を赤くした平助が呟いていたことなんて気づけるはずもなく。

私達はまだしばらくこのままの関係を続けることになる。



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -