総司が微糖の缶コーヒーを買うようになったのはつい最近のことだった。
初めてそれを見た時は間違えたのかなと思ったぐらいだ。だって彼はいつもミルクティとかカフェオレとか甘い飲み物を飲んでいたから。
そして自分で買うくせにいつも眉間に皺を寄せたような苦い顔をしてそれを飲む。
その表情を見るのはもう何度目になるだろう、おそらく両の手で数えきれないぐらいになったので私はついに聞いてみることにした。

「あのさ、総司。」
「なーに?雫さん。」

総司は私のことをさん付けで呼んでいる。きっかけは大学時代。私が大学四年の時に同じ研究室に入ってきた二年の総司を指導する係になったことが始まりだった。あの時から早三年。お互い社会人になったというのにもう癖になってしまったようでなかなか抜けないんだけどたまに呼び捨てにされるとドキッとするから私は直さなくてもいいと思っている。

「何で最近それ飲んでるの。」

それを指さした先を総司は口元から離し、缶と私を交互に見た。

「何でって?僕がコーヒー飲んだらおかしい?」
「ううん、そうじゃなくて。総司はいつもカフェオレとか甘いもの飲んでたから…最初は間違えたのかと思ってたけどそうじゃないみたいだし、だからといって好んで飲んでる表情にも見えないし。」

そう言うと総司はコンッと缶をテーブルに置いてソファに座る私の隣に腰かけた。
二人掛けの白いソファは汚れるだろうなとは思いつつデザインと色合いが気にいって私が買ったものだ。
同棲を始めたのは総司が社会人になったと同時でもう半年が過ぎた。
一緒に暮らすのはいろんなリスクがあるとは聞いていたけれど今の所私達にはメリットしかない。忙しくても毎日顔が見られて幸せだ。

「そんなにまずそうな顔してる?」
「うん。眉間が土方さんみたい。」
「うわ。それは嫌だな。」

勘弁してよとため息をつく総司を見たら土方さんは怒るんだろうななんて、大学時代の共通の知り合いの名を自分から出しておいて申し訳なくなる。

「会社の同僚に言われたんだよね。」
「ん?」
「いつも甘いものばっか飲んでて子供っぽいって。」
「…え?そんなの気にするタイプだっけ?」
「ううん。普段なら笑って流せるんだけど。」

総司がソファの上で膝を抱えながら話しを続けた。
視線を逸らしているのは何かバツが悪い時の癖だ。

「そいつ、年上の彼女にはそういうの可愛く見えるかもしれないけど子供っぽ過ぎると相手にされなくなるぞなんて言ってさ。結婚とか考えていたら年上のできる男に持ってかれてもしらないぞって脅すんだよ。」
「は!?」

何を言い出すの。総司の同僚!!!
結婚も考えてないし、総司のこと子供っぽいなんて思ったこと…なくはないけれども。

「だから試しに微糖のコーヒー買ってみたんだ。」
「…でもおいしくないから苦い顔になると。」
「うん。ブラックなんて絶対無理だね。」
「そんなの気にしないからいつも通りにしなよ総司。」
「雫さんならそう言うと思って僕もやめようと思ったんだけど…。」

語尾が小さくなっていく総司の顔を覗き込むように見つめると抱えていた膝を見つめていた翡翠色の目がこちらを向いた。

「微糖ってさ。雫さんみたいでしょ。」
「私?」
「普段はしっかりしてて、さすが年上って思うんだけど、時々僕だけに可愛いところ見せてくれるじゃない?」
「なっ!?」
「そう思ったら微糖も悪くないなって…っていうか何だかやめられない中毒性みたいのがあって。」
「ひ…人を麻薬みたいに!!」
「似たようなものじゃない。」

ニヤリと笑ったと思うと総司が急に動いて私を引き寄せる。
ソファの肘置きを枕にした総司の上に覆いかぶさるように倒れた私が起き上がれないよう背に手を回す素早さったらない。

「でもやっぱり元に戻そうかな。美味しいもの飲みたいし。」
「そうしなさい。」
「微糖は雫だけで十分だもんね。」

背にあったはずの手がいつの間にか私の後頭部に移動していて、瞬きする間もなく総司の唇と私のそれが重なった。
少しだけ苦いキスもしばらくはできないなと思うと私は抵抗することも止めて甘い時間に落ちることにした。





×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -