「おーい凛。飲み行こうぜ。」
「…パス。」
「またあ!?」
仕事が早く終わり帰り支度をしていると同期の二人が私の所へやってきた。
いつもだったら三人で飲みに行くところなのだが…そういうわけにもいかない。
銀さんが家で待っている。
彼が現れてから早二週間。すっかり生活リズムができてきて平日は夕飯を作って待ってくれているのだ。家事も一通りしてもらっている。
「お前最近付き合い悪いな。」
「もしかして…彼氏!?」
「まじ!?彼氏できたのかよ!?」
「ち…違うよ。」
残念なことに同期に女の子はいない。そして彼らは私を女扱いなどしたことがない、一度たりともだ。だから彼氏ができたなんて言ったら見せろ会わせろ喋らせろと言うに決まっている。銀さんは彼氏じゃないけど彼の存在がばれるわけにはいかない。
「…ペット。」
「「は?」」
「ペット飼い始めたの。犬。」
「…お前、一人もんがそんなの飼ったら婚期がますます…ぐっ!」
「うるさいわよ、お互い様でしょうが。」
失礼な口を軽く殴り私はコートを羽織って彼らに手を振った。
ペットではない。ないけれど…。
ある意味ペットみたいかも。家でご主人様を待つ犬にも思えなくない。
仮にもマンガの主人公をペット扱いして申し訳ないけどまあマダオ状態だもんね。
さて、銀さんお腹すかせてるかな?
会社から家が近いことがありがたい。私は急いで家に帰ると部屋からカレーの香りがした。
「お、おかえり。今日は早かったな。」
「ただいま、銀さん。」
「着替えてこいよ。もりつけとく。」
「ありがとう。」
私はカバンを置くと部屋着に着替えた。本当に同棲カップルみたいだななんて思いながらリビングに戻る。この二週間であっという間に彼は私の生活に組み込まれたのだ。
テーブルにはカレーとサラダが準備されていた。銀さんは凝った料理は作れないけどそれなりにレパートリーがあっておいしい。
「「いただきまー…。」」
――ピンポーン
さあ食べようと手を合わせた時だった。
宅配便以外でうちのチャイムが鳴ることなど滅多にないのに…私はドアモニターを確認して言葉を失った。
同期二人が映っている。
「何しに来たのよ。」
モニターの向こうの二人に話しかけると二人は嬉しそうにコンビニのビニール袋を画面に映した。
「ペット見に来てやったんだろー。」
「寂しい凛ちゃんにわざわざ酒持って来てやったんだよ。さっさとあけろ。」
「はあ!?いきなり何!?帰れ。」
私はモニターのスイッチを切ってため息をついた。
「凛ちゃーん。」
「あ、ごめん。アホ同期が押し掛けてきたんだけど玄関ホール解除しなきゃこないから…。」
気付いたら銀さんが後ろに立っていて私を見下ろしていた。
「ペットって何?」
「え?あ、最近付き合い悪いって言われて…ペット飼ってるってごまかしたの。だってまさか銀さんいるって言えないじゃん。」
「俺は犬か。」
「白いふわふわしたワンコだねー。」
「あのなあ…。」
銀さんが呆れた表情で言いかけた瞬間。
ガチャリとドアの開く音がして、二人分の足音が近づいてきた。
「おーい、凛。お前玄関のカギ閉めろよ不用心だな。」
「他の住人と一緒に玄関ホール入ってきちゃっ…た…。」
What's happened?
同期が…いるんですけど。
リビングにぐいぐい入ってきてるんですけど。
全員が口を開かないため、大人四人が黙って突っ立ってるんですけど。
「え?」
「え?」
「…。」
「何…してんのよ…。」
同期が私と銀さんを交互に見て目をぱちぱちさせている。
「お前…随分大きなペット…。」
「お…お邪魔しましたー。」
二人はそそくさと帰って行った。
「銀さん…。」
「んー?」
「明日仕事行きたくない。」
「自業自得だな。」
なんでだァァァァァァァ!?
私悪いこと一切してないじゃん!これ完璧誤解されたよ!?
彼氏いるじゃんって思ってもらえたならまだしもペットで人間飼ってるって思われたらどうしてくれんだァァァァァ?!?!
「人のことペットなんて言うからだよ、ご主人様。」
「やめてください、傷口に塩ぬらないで。」
次の日、私がげっそりして帰ってくるのを銀さんは笑って迎えてくれました。
ちなみに銀さんは従兄弟ってことになってます。
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