君がいる世界 | ナノ



「銀さん…」
「はいはい、凛ちゃんは銀さんの後ろに隠れてましょうねぇ」
「だから言ったじゃん。おとなしく屯所にいようって」

数人の男たちに囲まれながら私は額を押さえて目を閉じた。


事の発端は屯所で夕食を済ませた後、与えられた部屋でまったりと過ごしていた時だった。神楽ちゃんがお菓子を食べたいと言い出し、銀さんもつられてイチゴ牛乳が飲みたいと駄々をこねたのだ。もちろん屯所にそんなものはなく二人には我慢していただきたかったのだが止めてくれる新八君がすでに帰っていたというのもあり二人はさっさと屯所を抜け出したのだ。…私は待機したかったけど神楽ちゃんに引っ張られたのである。
夜遅くに子供三人で外を歩くのは危険だと言うのにお構いなしなんだよあの二人!

無事にコンビニで買い物をすませたものの案の定というかなんというかガラの悪い人たちに囲まれているのである。

「兄貴ぃこのガキ共も捕まえてさっさと売っちまいましょ。特に女の子なんか高く売れますぜ、いい顔してらぁ」
「男のほうは…まぁ小間使いになるだろ。天人には地球産のガキは売れるからな」

ヒヒヒと下卑た笑いで品定めしている男に思わず背筋が震えるが、横を見れば神楽ちゃんが鼻をほじっていた…って神楽ちゃぁぁぁぁん!?

「銀ちゃん、銀ちゃんは顔じゃ売れないからがんばって働け言われてるアル。精々こき使われればイイネ」
「神楽ちゃーん。銀さんの色気は大人にならないと出てこないから。むしろこんなおっさん達には伝わらないけどお姉さん達には今の俺でもキャーキャー言われるから。母性本能大爆発させるから」
「爆発するのは頭だけで十分ヨ。私と凛は先に帰るから後はよろしくネ」
「おいこら、こんな可愛い銀さんだけ置いてくつもりか。むしろお前一人でなんとかなるだろうが」
「二人とも静かにしてぇ!?」

冒頭に戻るのである。

私達の話をよく聞いてくれたよおじさん達。一応静かに聞いてくれてはいたけれどさすがにイライラしてきたのか一人二人と刃物を出してきたんです。子供相手に何してくれてんの!?早く助けにきて沖田君、山崎さん、土方さん、近藤さんでもいいから!


「お前ら商売道具に傷はつけんなよ。顔は避けろ」
「へいへーい。ほらおいで。おとなしく来たら痛いことはしないからね」
「ひっ」

横から伸びてきた手を思わず払いのければ強く手首を掴まれる。ぎりっと食い込むそれは今の自分が子供のせいかやけに痛く、強く感じる。

「おい」

私の手を掴む男の腕に銀さんが手を置いた。いつもと違って小さいそれに安心感なんて持ってはいけないのに、何故かほっとしてしまう自分がいた。銀さんは今小さいのに。

「なんだ坊主。お前もおとなしくしてたほうがいいぜ」
「それは無理だわ。お前がその汚ぇ手を離してくれなきゃ凛がゲロ吐いちまうから。こいつ汚物アレルギーなんで」
「オイィィィィ誰が汚物だこのガキ!」

私の手を離し、その男は銀さんに向かって殴りかかった。その拳をするりと避けて銀さんはその小さな手を相手の目に的確に当てる。その男が目の痛みを訴える前にさらに急所に蹴りを入れて地面に沈めていた。

「銀さ…」
「どうしたー?」

それを見て逆上した男たちが一斉に銀さんに襲い掛かる。どう見たって銀さんが劣勢なのに流れるように大きな男たちが倒れていくのが不思議で、でも当たり前に感じてしまうからもうわけがわからない。

「銀ちゃーん。お腹すいたネ。お菓子食べながら帰っていいアルか?」
「仕方ねえな、今日だけだぞ」

振り向けば神楽ちゃんの周りにも男が数人転がっていた。そうだった、よく考えなくてもこちらが劣勢なわけがなかった。

「凛、大丈夫か?」
「…小さくても強いね、銀さん」
「お前俺が小さいとき何て呼ばれてたか知らねえの?鬼だぜ鬼」

イチゴ牛乳を開けてぐびぐびと飲むその姿は明らかに小学生ぐらいで、どう見ても鬼には見えないけれど…。
自然と繋いでくれた小さな手にまたときめきをおぼえて頬に熱がたまる。

やっぱり見た目が変わっても銀さんは銀さんで私は私のままだった。
どんな時でも銀さんの言動に心が動かされてしまうし、思いは募る一方だ。
こんなことで私は、戻れるのだろうか、私の世界に。





屯所に戻った私達を待っていたのは土方さんの説教で、私達はその後すぐに寝かせられた。一日で色々あったせいか眠りに落ちるのはあっという間だった。







「…凛」
「ん…」
「凛ちゃーん。そろそろ起きたほうがいいよ」
「んーん」
「…凛ちゃん、早く起きねえと食っちまうぞ」
「何を…?」

まだ目も開かない状態で一方的に聞こえてくる声に何とか返事しているとこれが夢ではないということに気づき始めて重い瞼を開けばそこにはいつもの笑みを浮かべている銀さんがいた。

「銀さん?」
「おはよーさん。とりあえず体起こさずに俺の話聞けよ」
「…銀さん!?」
「っ!だから起きるなって言ってんだろ!」

銀さんがすっかりいつもの銀さんになっていて体が戻ったことに気づく。どうやら眠っている間に薬の効果は切れたらしい。思い切り起き上がろうとした私の両肩を押さえるように銀さんが私の上に覆いかぶさった。…覆いかぶさった!?

「え?ええ?あの、銀さん??」
「違うよ!?違う違う。だけどお前よく考えてみ?眠っている間に体が大きくなりました、はい、今お前の服装どうなってる?そのまま起き上がったらどうなっちゃう??」
「あ…」

おそらく銀さんは先に目覚めて体が戻っていることに気づき静かに着替えを済ませたのだろう。私が何も気づかずに起き上がらないようこうして教えてくれたわけだ。昨日小さな着物のまま寝ているんだもん。そりゃ今頃…はちきれてるんじゃないの?裸族?布団をめくるのが怖い。

せっかく気遣ってくれたのにこの体勢のせいで言葉がうまく出てこない。だってこんな近いの無理!!!

「あ…りがとう銀さん」
「俺外に出てるからゆっくり着替えろよ」

そう言って銀さんが離れようとした瞬間だった。何かの視線を感じて横を向けばそこには汚物を見るような目をしていた神楽ちゃんがこちらを見ているのであった。

「…」
「か…神楽ちゃん。違うよ、これは違うんだよ」
「銀ちゃん最低ヨ」

その言葉を聞いた後、私の体は軽くなった。…というか上にいたはずの銀さんが消えていた。屯所の部屋が破壊される大きな音に人が集まる前に私は素早く着替えをすませた。私が服をきちんと着ていなかったことに勘違いした神楽ちゃんがさらに銀さんへの攻撃を強めていたので大声で沖田君を呼んだ。

そして私達が元の姿に戻れたことを喜べるのは一時間も後のことになるのであった。


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