君がいる世界 | ナノ



目が覚めて視界に見慣れない天井があった。右を見ればすやすやと眠る神楽ちゃん。さらに向こうにこちらに背を向けて寝ている銀さんが見えた。私は視線を天井へと戻す。

昨日は日用品を少し買い、スーパーで特売になっていたひき肉を大量に買って餃子パーティをした。みんなで作ってたくさん食べて、大騒ぎの時間が楽しくて。新八君は家へ帰り、その後は神楽ちゃんが三人で並んで寝る!と言い出して本当に川の字で寝たんだ。

朝ごはんを作ろうかと二人を起こさないよう静かに立ち上がり、私は台所へ向かった。でも視界に入る玄関を見てゆっくりと歩く。玄関の戸をなるべく音を立てずに開け、一歩二歩。後ろ手に戸を閉めて転落防止用であろう柵に肘をついた。朝早いがもうかぶき町は賑わっていた。万事屋は二階だから通りが見渡せるし空もよく見えた。

「夢じゃなかった…」

目覚めて外に出るまで実感が持てなかったが本当に私は彼らの世界にいる。
空に浮かぶ宇宙船もちぐはぐな町並みも私の世界ではない。なのに。

「帰りたく…ないなぁ」

その呟きの半分は勢いよく開いた戸の音にかき消された。振り向けば銀さんが焦ったような表情でこっちを見ている。銀さんの困った顔や焦った顔を見るのは初めてではないけれどどこか不安が入り混じるそれは見たことがない。

「どうしたの銀さ…」
「何してんだよ」

一瞬のことで頭が追い付かない。銀さんが伸ばした手は私を掴み引き寄せられたと思えばあっという間に腕の中だ。

「起きたらお前がいないから…戻っちまったのかと思っただろーが」
「戻れないよ銀さん」
「連れ去られたとか」
「ないない」
「とにかく!」

勝手にいなくなるな…なんて、そんなこと耳元で言わないでよ。ずるいよ銀さん。
帰そうとしているくせに、こっちに来るなと私の手を拒んだくせに。
終わりがあることがわかっているから幸せな気持ちになんてなりたくないのに。
この幸せを失ったら今度こそ自分がどうなるかわからない。

どうにか冷静さを保とうと淡々と返答しているけれど心臓は破裂しそうだった。

「こぉぉぉらぁぁ!銀時ィィィィ!!!朝から盛ってる暇があったら家賃出しなァァァ!」

一階からの大声に思わず体がびくりと反応した。銀さんも同じだったようで一度体を震わせたあと私の体を解放する。

「空気よめババア!朝から金なんか出せるかァァァ!」
「てめぇは昼も夜も出せないだろうが!追い出すぞ!」
「あと少し待ってくださいお願いしますっつってんだろ!!!!」
「人にものを頼む態度かァァァ!」

目の前で繰り広げられるコントに思わず力が抜ける。大声のせいか神楽ちゃんが眠そうに目をこすりながら様子を見に来たので私は彼女と中へ戻っていった。銀さんは放置だ。

「朝からみんなうるさいアル。お腹すいたネ」
「昨日ひき肉残しておいたからそぼろでも作ろうか」
「そぼろ!?!?」

目をキラキラさせる神楽ちゃんが可愛い。私も姉妹ほしかったなぁ。
私が料理を始めれば神楽ちゃんは隣で楽しそうに見学していた。だいたい朝ごはんが作り終わる頃に銀さんも戻ってきて三人で席につく。

「やっぱうまいわ…」
「え?」

お味噌汁をすすりながら呟く銀さんを見れば彼はこちらを見ることなく食べ続けている。神楽ちゃんはご飯に夢中で銀さんの声すら気づいていなかったようだ。

「昨日も思ったけど。お前の飯に慣れたらしばらく何食っても味気なくて二キロも痩せたんだどうしてくれんだコノヤロー」
「銀ちゃんが食欲ないと私と新八の食べる量が増えて良かったけどナ」

神楽ちゃんの言葉と銀さんの半笑いの表情に思わず笑った。

本当に銀さんはずるい。
二人同時のおかわりの合図に私は微笑んだまま立ち上がり炊飯器へ向かう。茶碗に米をよそえばすっと横から手が伸びてきた。そこにも茶碗がありなんとなく受け取って米をいれる。…と同時に気づいてしまった。この腕は誰だ?

「ふむ。そぼろもたまには良い。俺としては朝は魚と味噌汁が至高と思っているが肉も悪くはないというかトーストにスクランブルエッグでもいいと思う。なぁエリザベス?」
『何でもいいんですね桂さん!』

振り向けば私の座っていた席の隣にいつの間にか彼がいた。さらに少しだけ離れたところにプラカードを持っているあの…生物もいる。
パクパクとおかずに手を伸ばしご飯を食べているのを銀さんや神楽ちゃんが黙って見ているはずもなく。

彼は一瞬で隣の部屋へ吹っ飛んでいった。

「えーーーっと…?」
「悪いな凛。変質者だ」
「え、いや、変質者っていうか」
「ただの指名手配犯ネ。放っておくアル」
「いや、それ放っておいちゃいけないし。すごい勢いで飛んでいったけど大丈夫?」
「銀時、こいつは誰だ、共に攘夷を志す仲間か?」
「おいヅラ、冗談も休み休み言えよ。こんなか弱そうな女にそんなことできるか、ってかさせるか。毎度毎度てめぇは不法侵入してくんのやめてくんない?俺も自分ち破壊したくねえんだよ」
「何を言うんだ銀時、友が腹をすかせていたらそっとそぼろご飯を差し出す、それが仲間というも…ふぐわぁぁぁぁ!」

あ、また桂さんが飛んでいった。正直紹介してもらわなくてもわかるからいいんだけど一応してもらわないと彼が不審がるだろう。

「銀さん…あのーその方は…」
「ヅラ」
「ヅラじゃない桂だ!!!」

おお…本物が聞けたと内心感動しているわけですがそれを顔に出すわけにもいかず適当に相槌をうつ。なんやかんやで皆食事は終了したようで私はお茶を淹れながら三人の様子を見ていた。

「こいつは俺が世話になったんだ。んで色々あってしばらくここに住むことになった。凛だ」
「凛殿…」
「よろしくお願いします」
「こちらこそよろしく頼む。これは飯の礼だ」

そう言って桂さんは私の手に可愛らしい包みを置いた。多分お菓子か何かが入っているんだろう。


「さっき町で配っていたものだ。俺はあまりこういうものは食べないからな」
「ありがとう、桂さん」
「おっと誰か来たようだ」

言うや否や桂さんは玄関とは反対方向へ向かい窓枠に足をかける。何で普通に出て行かないんだろうと首を傾げるがチャイムの音と同時に手をひらひらとさせて窓からエリザベスと飛び出して行ってしまった。

「銀ちゃんお客さんヨ」
「おいおいこんな朝っぱらに来るなんて碌な奴じゃねえ、無視だ」
「いやいやそういうわけにはいかないでしょ」

仕方ないなと立ち上がり玄関へ向かう。どちらさまですかと戸を開ければ見知った顔に安心してしまった。

「おはようごぜーます」
「どうしたの沖田君、早いね」
「犬小屋の暮らしが心配になったんでさァ。飯も食えねえ状態だったら屯所へ連れ帰ろうと思いまして」
「おいおいおいおい言ってくれるじゃねえの。本当はあれだろ、沖田君も一緒に食べて並んで寝たかったんだろー?寂しかったって正直に言えば坂田家に一日だけ泊めてあげるよ。一日だけ」

いつに間にか私の後ろにいた銀さんが口を出す。本当この二人仲が良いよね。

「冗談は頭だけにしてくだせェよ旦那。誰が好き好んでこんな犬小屋でうるせえ家人と一緒に過ごさなきゃいけねェんでさァ、というわけで凛さんだけ連れていきますね」
「おいおいおいおいおいおいおいおい頭が冗談ってどういうわけだよ、ってか何連れてこうとしてんだ。おまわりさーーーーん誘拐犯がいまーーーーす!現行犯ですよーーーー!」
「旦那、俺が警察です」
「世も末じゃねえか」
「あんたらよく朝からそんなに口が回りますね…」
「あ、新八君おはよう」
「おはようございます。凛さん」

やっとツッコミが登場してくれたということでホッとする。玄関にずっといるのもなんだと私達は揃って中へ入った。神楽ちゃんは沖田君を見るなりすぐに蹴りを繰り出していたが銀さんに暴れるなら外へ行けと怒られるとどうにか新八君の隣に座って落ち着いたようだ。

「で、沖田君何しにきたの」
「凛さんの必要なものを買いに行こうと思いましてね。旦那じゃ揃えるの大変でしょうし」
「ストレートに金がないって言われてるネ銀ちゃん」
「そこに関しては一切否定ができないですね銀さん」
「俺もあっちで世話になったんでィ。それぐらいさせてくだせェよ」

私が断るよりも早くそう言われてしまっては正直頷くしかなかった。だって私は一文無しだし。仕事だってすぐにできるかわからない。この世界は着物がメインだろうし他にも必要な物はたくさんあるだろう。

「ってことで俺とまたデートしましょう、凛さん」
「もう沖田君、デートって」
「そうだぞ沖田君、当然俺達もついていきますからね、当然」
「当たり前ヨ、こいつと二人になんかしたら凛何されるかわからないネ」
「二人ともそう言いながらタッパー準備するのやめてくださいよ」
「何言ってんだ新八、お前もエコバッグもって帰りに一緒に買い物する気満々じゃねえか」

「…凛さん、まず最初に携帯を贈るんで次からは個人的にこっそりと連絡します。絶対バレないでくだせェよ」
「…なんかごめんね、沖田君」

こうして今日は五人で出かけることになってのでありました。


prev / next

[ 戻る ]



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -