君がいる世界 | ナノ



「おめでとー!!一等!温泉ペア宿泊券!!良かったなぁお嬢さん。彼氏さんも良かったね。」
「え?いや、あの彼氏じゃなくて…。」
「やったなー凛!温泉だぞ?うまいもん食ってぐーたらする予定が立ったな。」

家の近くの商店街で買い物をしていたらちょうどくじ引きをしていて。せっかくだからやってみようとした結果がこれである。
くじ運は特に良い方でもないし一等なんて当たったことない。でもガラガラと回して飛び出してきた金色の玉に私も銀さんも思わず目が点になっていた。
ニコニコと商店街のおじさんが温泉旅行の券を渡してくれて私達はそのままその近くに留まっていた。

「もう銀さん…二人しか行けないよ。沖田君どうするの。」
「何言ってんだよ凛。沖田君はもう子供じゃないんだから一人で留守番ぐらいできますー。」
「へぇ、自分が行ける気になってるたぁおめでたいや。」
「嘘です、総一郎君、話し合おうね、お願いだから傘を背中に突きつけるのやめて。」
「あ、沖田君。いつの間に。」

別行動でドラッグストアへ行ってくれていた沖田君がいつの間にか銀さんの背後に立っていた。ご丁寧に傘を突き付けている。彼が持つと傘も立派な凶器に見えるよね。

「まさか一等当てるなんて凛さんすげぇや。」
「自分でもびっくりだよ。一人分は普通に払って三人で今度の休みに行こうか。」
「温泉かぁ。のんびり行った記憶がねぇな…。」
「まぁ俺も仕事で行くことはあっても個人的に行くことはほとんどないですねィ。」

本屋によって旅行の本でも見ていこうかと話し、歩き出そうとした時だった。
くじ引きのテントから子供の大きな声とおじさんの宥めるような声が聞こえてきた。

「一等は!?一等もうでちゃったの!?」
「あぁ、さっき当たっちゃったよ。でもほら坊やもすごいよ。二等は商品券だからね。お母さんに好きなもん買ってもらいな。」
「一等じゃなきゃ意味ないんだよ!!」
「そうは言ってもねぇ。」

小学生ぐらいの男の子が困ったような顔でおじさんに訴えていた。とはいえその一等の温泉旅行券は私の手元にあるのである。彼がどんなに頼んでもおじさんにはどうしようもない。
私達は思わず顔を見合わせてしまった。小学生がそんなに温泉旅行に行きたいものなのかな。

諦めたのかとぼとぼと歩き出した男の子に思わず声をかけてしまった。

「ねぇ、君。なんで一等が良かったの?」
「え?」
「どうしても欲しかったんでしょう?」
「…俺の母さん、体弱くて入院繰り返してたんだ。でもやっと退院するから。母さんに温泉行ってもらいたくて。そうしたらもっと元気になるかもしれないだろ?」

こんな小さい子が一生懸命お母さんのことを考えるものなのか。私は物ごころつくころには親がいなくて、おばあちゃんに育てられてたから両親というものがどんなものか知らないけれど…大切な人を思う気持ちは小さくても変わらないんだな。

私は二人を振り返った。銀さんはきっと同じこと考えているだろうし沖田君もそれをわかっていたのか手を払うように振っていた。あげちゃえってことよね。

「私ね、商品券が欲しかったんだ。君さっき当ててたでしょ?」
「?」
「私の当てたやつと交換してくれないかな?」

そう言って温泉旅行と書かれた包みを差し出せば目をまん丸にしてそれを受け取る。

「いいの!?いいの!?」
「いいよ。でも交換ね?」
「いいよ!あげる!お姉ちゃん!ありがとう!!!」

顔を綻ばせて彼は大事そうにそれを抱えて走っていった。多分一刻も早くお母さんに伝えたいのだろう。楽しく家族旅行ができたらそれだけでいい。

「ほんとお人よしで困りまさァ。」
「まぁそれが凛だろ。」
「でもまぁ今度温泉行くのはいいかもね。日帰りとかでいく?」
「じゃ、やっぱ本屋よってるるぶ買ってくかぁ。」
「早速商品券使いましょうや。」

そう言えばここにいる三人は親がいないんだなとふと気が付いた。
だから余計彼に何かしてあげたかったのかもしれない。私達には孝行したい相手がいないから。
悲しいとか寂しいとかはないけれど、やっぱりいないとどこか求めてしまう部分がある。
家族や大切な人とずっと一緒にいられたら…。

少し考えながら歩いているとこつんと額をつつかれた。視線をあげれば二人が見ていてその光景にどこかほっとする。

「ぼーっとしてるとこけるぞ。」
「本屋行ったらどこかで飯でも食べていきやしょ。」

天国のお父さん、お母さん、おばあちゃん。
私は今不思議なことに巻き込まれています…が、
一人の時よりずっとずっと幸せです。

だからどうかもう少しだけ、この幸せが続きますように。


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