君がいる世界 | ナノ



「久しぶりー!!ということで乾杯!!!」
「「「「乾杯!!!」」」」

居酒屋の一室を貸し切って始まった同窓会は最初から皆ハイテンションだった。高校時代の友人たちはそれぞれ少しずつ大人になっているようで、特に女の子は綺麗になっている子が多い。
一番賑やかな中心の席を離れて端の方で親友と二人並んで騒いでいる同級生を眺めていた。

「とはいえ喋りだせばあの頃と変わらないよね。」
「そりゃそうだよー。まだ卒業して十年もたってないし。」
「…凛、何かあった?」
「え?」

親友は眉を下げ気味に私を見ていた。おかしいなぁ。普通にしていたつもりなんだけど。
どうしても私は隠しきれないらしい。

「うーん…ちょっとね。」
「無理には聞かないけどさ。仕事とか?」
「違うの。…あのさ、変な事聞いていい?」
「何?」

二人がいなくなってから毎日泣いていた。仕事から帰ってきて誰もいない部屋に絶望していた。そんな日常は当たり前のことだったのに、もう前には戻れないのだ。
銀さんに好きと言えなかったこともずっと気分を沈めている原因になっている。
夢を見ていたんだと思い込もうともした。でも無理だった。部屋のあちこちにあの二人の痕跡が残っていて、それを見れば思い出が蘇ってしまう。

「会いたい人にもう会えなかったらどうする?」
「好きな人ってこと?」
「うん…。」
「何で会えないの?」
「遠くに行っちゃった…かなぁ。」

そう言えば親友は顎に手を当てて考え込む仕草をした。でもすぐに答えが出たようだ。

「会いに行けばいいじゃない。」
「すぐ行ける距離じゃなかったら?」
「それでも会いたかったら行けばいいじゃん。」
「向こうが…会いたいと思ってくれてなかったら?」

差し出したあの手を銀さんは掴んでくれなかった。
ここで、私の世界で幸せになれよと言ってくれた。
つまり、私は銀さんの世界には行けないし行っちゃいけないってことだと思うんだ。少なくとも銀さんはそう思ったから私の手を取らなかったんだろう。
だとしたら…やっぱりもう会えないんだ。私には会いに行く手段もない。


「それでも会いたいなら会ってさ、言いたいことは伝えたほうがいいんじゃない?だってそうじゃないと一生後悔するんでしょう?」
「うん…。」
「らしくないなー。あんた要領よくなんでもできる子じゃない。」
「ふわふわした雲みたいな人でさ。」
「ん?」
「本当にいたのか、夢でも見ていたのかって思ったりもするんだ。実は私が都合よく見ていた夢だったのかなって。」

目の前のグラスをじっと見つめれば横からデコピンが飛んできた。おでこを押さえれば隣の彼女はため息をついて私を睨む。

「うじうじしすぎ。あんたが信じなかったら本当に夢になっちゃうじゃないの。」
「…そっか。そうだね。」
「お、会いに行く気になった??」
「そう簡単に会えないの。でもそうだね、また会えたら伝えたいなぁ。」

私はそう呟いて目の前のお酒を飲みほした。


久しぶりにたくさんお酒を飲んで友人たちと話してふわふわといい気分で家路につく。すっかり癖になった「ただいま」を言ってももう返事はないんだけど、また言ってしまって自嘲する。

「なーんて…もう銀さん達はいないのにね。」

ふらふらとソファへ向かい思い切りダイブする。ここに銀さんよく寝てたなと思うけどもう彼の香りはしなかった。

「銀さん…銀さん…。」

クッションを抱きしめるように呟いた。どうして一言でも伝えなかったんだろう。

「本当バカだね。」

その時だった。
アラーム音と共にあの光のもやが部屋に現れたのだ。酔いすぎてついに幻覚を見ているのだろうか?それともこれも夢なのか。

「あーあ、ついに幻覚まで見るか。そうだよね。あのもやがあるわけないし…。誰も来ないし。」


『会いに行けばいいじゃない。』


親友の言葉が頭をよぎる。いやいや、会いにいけないよ。これきっと夢だし。たとえ現実だとして、このもやに入って銀さんのところへ行ける保証もないわけで。そんな危ないことしちゃだめだ。

「寝よう。もう寝てしまおう。」

それがいい。明日は休みだからお風呂は朝でいいや。化粧…落とさなきゃ…。
そう考えながら目を閉じれば少しずつ睡魔が襲ってくる。

「…ん?」

腕にひやりとした感触。目を開ければそこには見慣れない機械のようなものが腕を掴んでいた。…何これ、ロボットの手?え、何これ。

「何!?」

がしりと掴んだそれを引っ張ろうにも離れない。それはもやの中から伸びていてがっしりと私の腕を掴んでいる。

「…ぎゃあああああ!!!!!!!」

ただ掴んでいただけのそれはぐいぐいと私を引っ張った。それはもうすごい力で。抵抗なんてできるわけもなく、私はただその光の中に引き込まれることになったのである。


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