君がいる世界 | ナノ



「あはは。生きてる生きてる。え?同窓会?うん、わかった連絡待ってるね。」

久しぶりの同級生の電話に一時間近くも喋り続けてしまった。彼女とは高校の同級生でこうして時々生存確認という名の近況報告の電話がくるのだ。私は友達は多い方ではないが狭く深く付き合いがある何人かがいるだけで満足だ。

電話を切った私に銀さんと沖田君は同時にこちらを見た。二人とも電話中は気を遣ってくれたのかほとんど声を発していなかった。

「友達いたんですねィ。」
「沖田君レッドカード。」
「あーあ沖田君、乙女心傷つけたよ。罰としてプリン買ってきて二つ。」
「凛さん、プリン二つ買ってくるんで俺と二人で食べましょう。」
「待ってェェェ!沖田君待ってェェェ!銀さんのも!銀さんのもお願いします!ってかそもそも罰受ける奴がなんでプリン食えるんだよ!話の流れ的に俺と凛のだろうが!」
「俺の金で買ったやつを俺がどうしようと勝手でさァ。というわけで旦那は指咥えて見てる役決定。」

そういうや否や沖田君は財布を掴んで玄関へと向かって行った。別に傷ついてないから大丈夫だよ冗談!と言っても小腹がすいたからと言い彼はそのまま出て行った。最近銀さんと二人の時間をあえて作ってくれているのかもしれないが今はそれがひたすらに気まずい。


この前泣いた私を抱きしめた銀さんはあの後ぽんぽんと私の背を叩いていてくれた。落ち着いて離れるとすぐに夕飯の準備するかと言ってキッチンへ行ってしまい…なんだかんだうやむやになったんだけどあれはどういうことだったの!?銀さんは何も考えていないんだろうか。ただ本当に泣きそうな顔してた私を慰めるためにあんなことを?…まぁそうだよねそれが正解だよね。銀さんは困っている人を放っておけないタイプだもん。


「凛。」
「はい!?」
「何驚いてんの。茶飲むか?」
「あ、うん。」

考え込んでいた私に銀さんは変な奴だなと呟きながら立ち上がりお茶を淹れに行く。
銀さんは何とも思っていないんだなと思うと少しだけへこんだ。

「同窓会あんの?」
「そうみたいだねー。懐かしいな。」
「ろくなもんじゃねえぞ同窓会なんて。みんなありもしねぇ昔の思い出語り合うか今自分がどんだけ幸せか自慢するかのどっちかだからな。」
「銀さん…深くは聞かないけどどんだけ荒んだ同窓会に出席したの。」
「でもまぁお前の友達は良い奴そうだな。類は友を呼ぶからよ。」
「銀さん…何気に自分がろくでもないって言ってることになるけど大丈夫?類友説が正しいとなると荒んだ同窓会にでた銀さんは…。」
「違いますー。銀さんは巻き込まれただけですー!!!」

何故か目を泳がせて叫ぶ銀さんに私は攘夷の同窓会の話を思い出した。が、知らないふりをする。大人だから。

「お前はなんだかんだ人に恵まれそうな気がするわ。」
「銀さんもそうでしょ?」
「まあ否定も肯定もしないでおく。」

ただいまと玄関から声がした。ガサガサとビニール袋の音をたてて沖田君が部屋へ戻ってくる。本当にプリンを買ってきたらしい。…二個だけ。

「おいィィィィ!お前ほんっと鬼な!そんな子に育てた覚えはありません!」
「育てられた覚えもないんで大丈夫でさァ。凛さんどっちがいいです?どっちも新作って書かれてましたぜ。」
「え!新作!?」
「凛ちゃん!お願い一口だけ恵んで!一口でいいからァァァ!」
「旦那ァ、指咥えて見てる役って言ったでしょう。」

沖田君が最高に楽しそうな表情で銀さんを見ていて思わず笑ってしまった。ああ、やっぱりしばらくは三人でこうして笑いあっていたいな。銀さんに思いを伝えるのも大事かもしれないけどやっぱりもう少しこのまま…なんて我儘だろうか。
あの時抱きしめてくれた銀さんの心を聞くのも、私の思いを伝えるのもまだ怖くて一歩踏み出せないでいるけれどでも確実に自分の中でこの気持ちに気づいているから。いつかちゃんと伝えたい。たとえ別れなきゃいけないとしても。

「はいはい、銀さん一口あげるから。」
「凛ちゃーーーん!!」
「ったく凛さんはほんと旦那に甘々で。」

私がプリンを一口スプーンに掬った時のことだった。

突然大きなアラーム音が鳴り響き私達三人は身を固くした。

「!」

目がくらむほどの光が部屋中を満たしたかと思えば見覚えのある光のもやが天井付近に浮いていた。私と銀さんはそれを一度見ている。だからそれの正体を知っていた。

「銀時様、沖田様、生体反応を確認しました。直ちに二人をこちらへと回収します。」

おそらくたまさんの声だろう。すぐに機械のアームが光の中から伸びてきて二人の腕を掴んだ。そのままぐいぐいと引きずり込まれていく。

「待て!たま!あと五分!」
「銀時様。あまり時間がありません。三分だけです。」
「それでいい!」

あの時と同じだ。別れは突然やってくる。でもあの時と違うのは、これが確実に二人を見られる最後だということだ。私はまとめておいた二人の荷物を渡すと二人の手を掴んだ。

「あの!元気でね!怪我とかしないで!」
「凛さん…あんた。」
「沖田君なんて特に!仕事柄仕方ないけど怪我はなるべくしちゃだめだよ。」
「ああ。」

三分しかないと言われると何を言えばいいのかわからない。思いつく限りのことを並べるけど沖田君はそうじゃないだろうと言いたげな目をしている。でもごめんね。私これしか言えないよ。

「銀さん!銀さんも無茶しちゃだめだよ。新八君達によろしくね。ちゃんとご飯食べさせてね。」
「わぁーってる。」
「それから…それから…。」
「凛。落ち着け。…ありがとな。」

彼は私の手を腕から外すとぽんぽんと頭を撫でてくれた。その熱に一気に涙がこみあげてくる。喉の奥が熱い。痛い、苦しい。
でも本当に痛いのは心だ。

「銀時様、沖田様、もうすぐこちらへ強制的に引っ張り上げます。衝撃に備えてください。」

たまさんの声がこんなにも非情に感じるとは思わなかった。わかっているんだ。二人はもとの世界に帰るだけなんだって。私はそもそもありえない経験をしただけだってこと。わかってる。

あの時、銀さんが手を伸ばしてくれたように私は彼に手を伸ばした。その手が彼の目にうつったのが見えた。でも。銀さんは私に手を伸ばしてはくれない。
銀さんの手は私のそれを掴むことはなくひらりひらりとこちらに手を振っていた。

「本当に助かった。お前と過ごした時間は忘れねえ。達者でな。」
「銀さん!」
「旦那…。」
「沖田君、口と閉じとけ、舌噛むぞ。」
「凛さん、お世話になりました。」
「凛。」

光の中に消えていこうとする二人を見て私は何も言えずに立ち尽くしていた。
どこか悲しそうな目をした沖田君、そしていつものやる気なさそうな目の銀さん。

「幸せになれよ。」
「銀さん!」

そう最後に私に告げて、彼らは光へと帰っていった。

「銀さん…沖田君…。」

光のあったところへ手を伸ばしてもそこはもうもとの天井だった。まだ食べていないプリンは二つ、テーブルの上にある。飲みかけのコップも三つ。ああ、乾いていない洗濯物が干されたままだ。あげればよかった。
彼らの形跡はこんなにもリアルに残っているのに、もうどこにもいない。

「ぎんさ…。やだ…。」

ふわりと香る甘い匂いも、やけに耳に残るあの声も。
笑い合った思い出も何もかもそのままなのに。

「行かないでよ…。」

もう彼らはここにはいない。
もう彼らには会えない。

『幸せになれよ。』

どんな思いであなたはそう言ったんだろう。
あなたがいない今、私にそれは訪れないと知っているんだろうか。
伸ばした手を掴んでもらえなかった悲しみが伝わっているんだろうか。


そしてもう、銀さんに「好き」を伝えることはできなくなった事実に。
私は声をあげて泣いた。

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