君がいる世界 | ナノ



「…ここは戦場か。」
「そうでさァ。というわけで部外者は引っ込んでいてもらおうか。」
「そういうことだ。ここは男と男の戦いなんでね。」
「いや、ここ私の家。」

バチバチと火花が散っている…ように見える距離で二人は睨み合っていた。私の家のキッチンで。銀さんはボウルと泡だて器を持ち、沖田君はすでに包装されている箱を持っていた。いや、説明されなくてもわかる。この前のバレンタインのお返しだよね。今日ホワイトデーだし。二人とも義理堅い性格といえばそうだからお返しはくれるのかなって思ってはいたけれどなんで睨み合ってんの?沖田君はそれを私に手渡してくれれば完了だし、銀さんは何か作るのかな?まぁ作業を進めればいいだけだと思うのに。

「沖田君よぉ、手作りスイーツの破壊力知らないの?心が一番こもってるのは手作りだよ手作り。まぁ銀さんの腕には敵わないから勝負にならないだろうけどさ。」
「旦那ァ、手作りなんてどうでもいいんでさァ。うまいほうがいいに決まってらァ。それにこれは俺が作ったわけじゃねえが本職の人間が作ってるんで。確実に旦那の作り出すダークマターよりうまいんで。」
「おいおい聞き捨てならねえな、銀さんが作るのはホワイトマターだから、いや、シルバーマターだから。輝いてるから。」
「白髪だか天パだかなんだか知らねえがあんたのよりこっちのほうが凛さん喜ぶに決まってら。」
「おいィィィィィ!!どこに髪の毛の話でてきてたよ!?しかもシルバーのほう天パって変換しただろ!俺のことか!俺のことか!?」
「わかってるんなら黙って作業すすめてなせェ。俺はこれから凛さんとこれ食べるんで。凛さーん。コーヒー飲みやす?」
「あ…うん。」
「待て待て待て!銀さんのも残しておいてェェェ!」
「あんた食べる気か…。」

激しい言い合いが終わったところで沖田君が私をリビングのこたつまで引っ張っていく。座ってろと言わんばかりに肩を押されおとなしく座ると箱をこたつに置いて自分はキッチンへと戻っていった。おそらくコーヒーを持ってきてくれるんだろう。なんだかんだ沖田君は優しいのである。きっとこのお返しもなんやかんや銀さんに分けてあげるんだろう。
どうやら手作り対お店のお菓子で言い争っていたようだ。正直どっちも嬉しいし、おいしいならなおよし。銀さんお菓子作り慣れてそうだから期待できるなぁ。

「っていうか…。」

気持ちがこもっていたらそれだけで幸せなんだけどなぁ。

口元が緩みそうになるのを押さえながら私は沖田君が戻ってくるのを待っていた。彼はマグカップを二つ持ってやってきた。

「沖田君、何買ってくれたの?」
「この前チーズケーキ食べたいって言ってませんでした?」
「あ!」

包みからでてきたのはベイクドチーズケーキだった。テレビで見てどうしても食べたくなったんだけどその時は諦めたんだよね…。覚えててくれたんだ。

「嬉しい!食べていい?」
「そりゃもちろん。」

包丁を入れて切り分けてくれた沖田君はまるで執事のよう。うーん、ファンだったら卒倒しそうな行為だなぁ。拝んでおこうかな…。

「旦那来る前に食べつくしやしょう。」
「おおう…それはなかなかハードなミッション。」
「大丈夫でさァ。やり遂げてみせましょう!!!」
「おいおいおい!!!やり遂げようとするな!銀さんの分はこーれー!!!」

沖田君の後ろから手を伸ばしてケーキの三分の一をがっつり掴み皿に移動させたのは銀さんだった。ものすごい早業である。むしろ気配を消していたことに驚きだ。

「旦那、凛さんより先に食べるのはやめてくだせェ。」
「沖田君、凛ちゃんはそんなこと気にするような小さい器の女の子じゃないんだよ。海のように広い心の持ち主なんだよ。ちょっと沖田君こっちに包丁向けないで。」
「いただきまーす!」

目の前のチーズケーキを一口食べる。甘すぎず、だからといってクセもない。これは…美味しい!!!私が真剣に食べている様子で何となく理解してくれたのか、沖田君は微笑んでいて銀さんも笑みを浮かべながらケーキを食べ始めた。

「沖田君ありがとう!すっごく美味しい。」
「そりゃ良かった。俺のも食べていいですぜ?」
「えー?いいのー?凛、嬉しいー!」
「銀さん、それ、私の真似してるつもり…?」
「おっといけねぇ、虫が。」
「ぎゃァァァァ!!!何してんのォォ!?総一郎君!?銀さんの手にフォーク突き刺さってますけどォォォ!血ィィィィ!」
「包丁が良かったですかィ?」

私の真似(似てない)をして沖田君のケーキに手を出そうとした銀さんの手にはフォークががっつり突き刺さっていてマンガのように血がでていた。…ここ、マンガの世界じゃないけど大丈夫?次のページいって怪我が治ってるなんてことないんだけど。
苦笑いの私に銀さんはどこから取り出したのか手ぬぐいで手を覆い止血した。あ、やっぱりすぐには治らないよね。

「旦那の手作りスイーツはどうしたんで?」
「もう冷えただろうし持ってくるわ。」

銀さんは立ち上がるとキッチンへ向かう。冷蔵庫を開けてジャジャーンと大きな声を出し、取り出したのはいちごがたくさんのったショートケーキ。え、これ本当に手作り?スポンジの感じがお店レベルなんだけど。生クリームも綺麗に塗られていて私こんなに上手に作れないよ…。

「ほらほらー。凛ちゃんも驚きのあまり何も喋れなくなってるよ、これ俺の勝ちだなー沖田君。」
「食べてから言ってくだせェよ。でも本当器用ですね、旦那。さすがケーキ買う金も作ってくれる女もいない人はレベルが違いまさァ。俺は到底そのレベルに辿りつけやせん。」
「褒めてるようで貶してくるのやめてくんない!?ってか徹底的に心抉りにきてるよね!?あれ?目の前がよく見えない…。」
「銀さん、いただきます!」

目元を手で覆う銀さんをスルーして切り分けられたショートケーキを食べる。これも甘さ控えめで重くない!スポンジふわふわ!いちごも美味しいしこれたくさん食べられちゃうやつ!!!

「二人とも…私確実に今日体重が増える。これすっごく美味しい!」
「そりゃ銀さん特製のショートケーキだぜ?そこら辺の店より確実に美味いから。」
「こたつでケーキ幸せぇ…美味しいよぉ。どうしよう。」
「どうしようって食えばいいんでさァ。」
「そうだそうだ。そういう日だろ。」

ずいっと二人にケーキのささったフォークを突きだされる。

「えっと…。」
「おいおい凛、こんなイケメン二人にあーんされてる状態で何戸惑ってるの?可愛くケーキ食べるべきでしょ?」
「旦那のケーキ食べると糖尿がうつるんでこっちだけ食べてくだせェ。」
「違うから、俺まだ予備軍だから。」
「それ以前に糖尿病はうつらないと思うけど…。いただきます!」

沖田君のケーキを先に食べてもぐもぐしてると銀さんがじっとその様子を見ていて恥ずかしくなる。あれ?今からあーんしてもらうの?ちょっと!なんだか心臓が…。

「うめーけどたくさんはいらねェや。」
「おい!沖田君何食べてんのォォ!?」

私がドキドキしているうちに銀さんが差し出していたケーキは沖田君の口へと消えていった。あぁ…私のケーキ。でも恥ずかしいしいたたまれないから良かったのかなぁ。

「はい、じゃあ銀さんどうぞ?」
「やったねー!女の子に食べさせてもらうケーキは格別だな沖田君!!」
「旦那、それ俺のなんで。」
「絶対やらねーからな!」

こたつに入って三人で騒ぎながら過ごすホワイトデーに、ああ、まだ春がこなくてもいいなーなんてしみじみと思う。
この光景に慣れてしまっている自分が怖いけど、でも幸せだな…私。

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