君がいる世界 | ナノ



「おお…三十九度って初めて見たよ。すごいね、銀さんバカじゃないよ。」
「旦那ァ、バカじゃないって証明されて良かったじゃねェですか。」
「君たち病人を労わるって感情どこに落としてきたの。」

げほっと苦しそうな咳をした銀さんの額に冷却シートを貼り付けると気持ちよさそうに息を吐いた。ここ数日一段と冷え込んだせいか銀さんが見事に風邪をひいた。たまたま土曜日で本当に良かったと思う。病人を家に置いていくのはなんとも心苦しいから。

「さーて、俺はバイト行ってきやす。凛さん、旦那のことは放置しても死なないでしょうし気にせず自由な休日を過ごしてくだせェ。」
「ちょっとォォォ!総一郎君!銀さん九度代の熱でてるから!!放置したら死んじゃうから!」
「そんだけ叫べりゃ元気でさァ。」
「傷ついたーあー傷ついたー。帰りにプリンとイチゴ牛乳買ってきて。」
「…期限切れてるやつ貰ってくるか。」
「何で期限切れ!?病人に変なもん食わせないでくれる!?!?」

騒ぐ銀さんを黙らせるかのように布団を顔に思い切り押し付けた後、沖田君は家を出て行った。彼も風邪ひかないといいんだけど。

「凛ちゃーん…。」
「どうしたの?銀さん。」
「…なんか飲みたい。」
「はちみつレモンでも淹れてあげようか?」
「甘くして。」
「はいはい。」

布団を鼻までかけてこちらを見る銀さんは熱のせいか顔が赤くて目もいつも以上に閉じかかっている。まるで子供みたいな態度に母性本能とやらがくすぐられた。ちょっと可愛い。

お湯を沸かしてコップに注ぎはちみつとレモン汁を淹れて混ぜる。銀さん用にはちみつは少し多めだ。飲み頃まで冷ましてから持っていくと彼はゆっくりと体を起こした。まだ動ける体力は残っていたらしい。

「…うめぇ。」
「喉にもいいからゆっくり飲んでね。」
「あーこんなまともな看病されたの初めてだわ。」
「嘘だ〜。新八君がいるじゃん。」
「いや、前に看病されたことあったけどよぉ…なんか他の奴も寝込んで散々だった記憶しかねえわ。」
「一番の被害者は新八君だよそれ。」
「ほんとだな。」

思い出したのかぶはっと銀さんが吹き出した。銀さん達は体調を崩した時まで楽しそうだ。少し羨ましい。

「でも本当悪いな。せっかく休みなのによ。」
「いいよ、寒いしおうちにいるつもりだったもん。銀さん薬飲んで少し寝たほうがいいよ。」
「あー…。そうだな。お前にうつしちゃまずいし。」
「まぁ私風邪なんてしばらくひいてない健康体だから大丈夫だと思うけど。」

銀さんが横になると布団を肩までしっかりとかける。寒気がする時は温めてあげないとね。

「こういう時は人肌って言わねえ?凛ちゃん。」
「さっきと言ってることが違うよ天パ。」
「天パ今関係ないよねェェ!?」
「うつしちゃまずいんでしょ。寒いなら毛布もかけるけど。」
「つれねーなぁ。」

銀さんは私の手を弱弱しく掴むとそのままぎゅっと握った。突然のことに瞬きの回数が増える。でも彼は何をするわけでもなくそのまま目を閉じた。どうやら少し心細いらしい。

「寝付くまで隣にいるよ、銀さん。」
「んー…。」

勘違いしちゃだめだよ。銀さんは自分がいた世界と違うところへ突然飛ばされて、そこで助けてくれた私に今一番心を開いているだけだ。私だって銀さんの立場だったらそうなるだろう。

「お前が…。」
「ん?」
「お前が風邪ひいたら、俺が看病してやるわ…。」
「銀さん…。」

そのまますうっと静かに眠りに入った銀さんの言葉に心がぎゅっと締め付けられた。親がいなくて頼れたのは祖母だけだった私はあまり誰かに助けてもらおうという気がない。極力病気にならないよう体調管理には気を付けていたしきっとこれからもできる限り自分で自分のことはすませるだろう。だから。

「その言葉、嬉しいなぁ。」

誰かが近くにいてくれるってこんなにも温かいことなんだ。繋いだ手の熱にじわりじわりと心が動かされて何故だか涙腺が緩んできた。

「銀さん…。」

いつか帰ってしまうあなたがいる間に私は風邪をひいたりするんだろうか。そうしたらあなたはこうやって手を握って私が寝付くまで隣にいてくれるのかな。それならその風邪貰ってあげる。だから、お願い。

私が風邪をひくまでは、ここにいてほしい。なんて馬鹿な事を考えて心が沈んだ。



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