君がいる世界 | ナノ



沖田君が来てから早二週間。生活もすっかり落ち着いて三人でこたつに入ってテレビを見るのは最早日常となっている。
私マンガのキャラ二人と生活しているんだけど…これ夢だったらいつ覚めるんだろう。


「明日はバレンタインですねー。」


テレビの中から女性タレントの発言が大きく響いた。デパートでチョコを手に取っている女の人たちが映し出されていてさらにチョコレートの紹介もしていた。どれもこれも美味しそうだ。銀さんなんてよだれ垂らしそうになりながら見ている。


「こっちでもぎゃーぎゃー騒ぐんだな、こういうイベントは。」
「沖田君はたくさん貰ってそうだよね。」
「…まぁ。でもどうせ食べやしねぇし。毒でも盛られてたらたまったもんじゃないんでね。」
「職業柄仕方ないとはいえもったいないねぇ。本命チョコもたくさんあるだろうに。」
「おまっ!!捨てるってなんだ!こっち持って来いよ!毒見してやらぁぁ!」
「いや、銀さん、本当に毒入ってたら死んじゃうから。」

沖田君の発言に銀さんが過剰反応をする。そりゃそうか。この人甘党だもんね。そんじょそこらの甘党じゃないもんね。

「旦那は貰わないんで?…あぁすいやせん。貰えないの間違いでしたね。」
「ちーーがーーいーーまーーすぅぅ。貰わないんですぅぅぅ。べ…別に興味ないし?日本男児にそんな文化必要ないですしぃ?」
「…さっきと言ってること違う。」


私と沖田君が半眼で見つめていると銀さんはわざとらしく目を逸らしこほんと咳をした。
お茶をすすりながら考える。そういえばバレンタインなんて会社では特に何もしないし自分のために何か買うってこともしていないからしばらく関わりがなかった。本命どころか気になる人もいなかったし。

ちらりと銀さんを見るとまだテレビに映るチョコに目を奪われていた。
あげようかな?こうなったのも何かの縁。そしてお世話になっているというよりはお世話している方だけど毎日楽しく過ごさせてもらってるし…なにより。
少しだけ…ほんの少しだけ特別な思いがある気がする。


でも、待って。
もう一人の自分が冷静にそう告げた。
あげたところでなんになる?思いを募らせたところでどうなるの?彼はずっとここにいない。自分とは別世界の人間だ。もしかしたら長々と夢を見ているだけかもしれない。
これ以上特別な思いなんて増やすもんじゃない。淡々と日々を過ごすに限る。それが正しいはずだ。


二つの意見が互いに譲り合わない。もやもやした感情に心を占められていると沖田君がつんつんと私の肩をつついた。


「俺、クッキーがいいでさァ。」
「へ?」
「チョコクッキー。」
「…沖田君?」
「凛さん、バレンタインくれないんですかィ?」
「欲しいの??」
「欲しい。」
「ちょっと待ったぁぁぁぁぁ!!沖田君何ねだってんの!?何年下男子の可愛さ武器にして凛から貰おうとしてんの!?銀さんは生チョコがいいです。」
「旦那ァ、日本男児には必要ないって言ってたじゃねぇですか。」
「自分だって興味なさそうに言ってたじゃん!捨てるとか言ってたじゃん!」
「誰から貰ったのかもわからねえようなやつは食えねぇって言ったんでさァ。」

目の前で繰り広げられる言い合い(日常茶飯事)に作るか作らないか迷っていた心がはっきりとした。欲しいと言われたから作る。それでいいよね。

「クッキーと生チョコの二種類は面倒だからガトーショコラでいい?」
「「いいです。」」

よっしゃ材料買いに行くぞと銀さんが勢いよく立ち上がりそれを沖田君がじゃあ一人でいってこいと手をふる。そしてまた繰り広げられる言い合(以下略)を眺めつつ私は携帯でレシピを検索し始めた。

まだもう少し、こんな風に騒がしい日常を楽しもう。
たとえいつか、また一人になる日がくるとしても、あと少しだけ。この空気に浸りたい。

思いを募らせてはいけないと気づくと途端に苦しくて、止まらなくなる気がして…。
うまくはいかない現実に一人静かにため息をついた。

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