君がいる世界 | ナノ



「…で、どういうことか説明してもらえるー?沖田君。」
「旦那ァ、説明してもらいたいのはこっちでさァ。」

カタカタと貧乏ゆすりしながらこめかみをぴくぴくさせている銀さんが沖田君と向かい合っている中、私は三人分のお茶を淹れていた。なんかもう慣れてしまった、非現実的な現実に。

「なんで沖田君がここにいるわけ?君がさっきまでうちの従業員の近くにいたのは知ってるけどさ。」
「あんたんとこのクソチャイナに吹っ飛ばされて変な機械に突っ込んだ…ってとこまでは記憶にありますけどねィ。」
「こっち側の責任だったァァァァ!」

銀髪を掴むように頭を抱える銀さんの前にお茶を置く。さらに沖田君の前にも置いて私は銀さんの隣に座った。

「それで沖田君もこっちに来ちゃったんですね…。」
「あんたは?」
「私は松崎凛と申します。ここの家主です。」

もはや白い灰と化した銀さんは役に立たないので簡単にこの世界のことや銀さんの状況を彼に説明した。最初目を丸くしていたけれどすぐに受け入れてくれたらしい。まあ受け入れるしかないよね、銀さんもいるし。

「つまりあの機械が直らねえと俺達は帰れねえってことですかィ?」
「そうなりますね。」
「どうしてくれんのォォォォ!?また軽く二ヶ月ぐらい待つことになるじゃねえか!ってかもう直らないレベルまで破壊してんじゃねえだろうな!?」
「それは俺に聞かれても困りやす。チャイナのバカがどの程度の力で俺を吹っ飛ばしたかにもよるでしょうしねィ。」
「まあまあ銀さん落ち着いて。なんとかなるって。」
「凛ちゃーーん。落ち着いていられる!?この状況!!!」

絶望!と顔に書かれている銀さんの肩をたたき、私は前に座っていた沖田君に問いかけた。

「さて、とりあえずお昼食べちゃおうか。沖田君は食べる?うどんだけど。」
「いただきやす。」
「おい!何適応しちゃってんの!俺でも凛の家で落ち着けるようになるのに一日はかかってんだぞ!もう少し遠慮しろォォォ!」
「凛さん、卵おとしてくだせェ。」
「はーい。」
「無視ですかそうですか。」

私はキッチンに立つと三人分のうどんを作るべく鍋に火をかけた。具は卵とわかめとかまぼこでいいかな。ちらりと振り向けば頭抱えている銀さん。気の毒だけどどうしようもないというか…何だか彼ほど落ち込んでいない自分がいる。まぁ私はこちら側の人間だからだろうけど。

「もしかして…。」

こんこんと卵を割っていると自然と声が漏れた。私はもしかして、帰れなかったことに安心しているのではないか?この状況を不幸と全く思っていないのでは…でもそれって。

「どうしやした?」
「わぁ!!」

ぽんと肩を叩かれ耳元に声が落ちてくる。一歩横に飛ぶようにずれた私を目をぱちぱちとさせて沖田君が見ていた。いつの間に横にいたの!?

「手伝ったほうがいいかィ?」
「あ、いえいえ。座っててください。」
「これから世話になる身だからねィ、何もしないのは申し訳なくて。」

あれ。沖田君ってこんなに礼儀正しい子なんだ。土方さんにバズーカ撃っているイメージが強すぎて受け入れられないんだけど。
彼にもどうにか座って待っていてもらい私はすぐにうどんを三人分作り上げた。

誰も一言も発しないまま昼ご飯を終え、私たちはまたテーブルに三人で向かい合い話し合うことにした。といっても話し合えることなんてほとんどないんだけど。待つ以外。

「俺もこの辺のこと詳しくなりたいんで案内してもらえるかィ?買い物だなんだ旦那だけにさせるわけにもいかないんでね。」
「へー。総一郎君にそんな良心が残っていたなんて意外だな。」
「いつまでやさぐれてんでさァ。来ちまったからには適応するしかないんで。でもあんた大丈夫なのか?」
「え??」

沖田君が私を真っ直ぐと見て切り出した。

「男二人養うのも簡単じゃねえだろィ?こっちに来ちまったら金も下ろせねえだろうし手持ちの分はあんたに渡すにしてもこれから…。」
「残業して稼いできますよ。あとは節約生活ってことで。」
「…あんただけに負担がかかるのはいけねぇや。俺も考えますが…旦那も考えてくだせェよ。」
「わぁーってるよ。ってか俺達身分証明ができねえんだぞ。そう簡単に仕事見つかると思うなよ給料泥棒。」
「あんたに言われたくないでさァ。ニート野郎。」
「違いますゥゥゥ銀さんは社長なんですゥゥゥ!!!」

ギャーギャーと繰り広げられる(といっても騒いでいるのは銀さんだけ)マンガで見ていた光景が目の前にあって少し感動しているといきなりじゃんけん合戦が始まっていた。

「「じゃーーーんけーーーーん!!!」」
「え?何事?」
「どっちが床でどっちがソファで寝るかの真剣勝負してんだよ!!」
「旦那ァ、子供を床で寝させる最低な大人にだけはならないでくだせェよ。」
「どこに子供がいるんだコラ!部下何人も引き連れて仕事してるやつが子供なわけあるかァァァ!人はな、責任もって働き出したら例え十歳だろうと立派な大人なんだよ!」
「俺ァこんな大人にだけはなりたくねえでさァ。」

とりあえず死闘を制したのは沖田君だった。ああ、布団買わなくちゃかなぁ?
これから二人養うとなると気合を入れて仕事をしなくてはなと考える私でありました。

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