君がいる世界 | ナノ




「銀さん?」

仕事から戻ると部屋は真っ暗だった。
いつもなら何かおいしそうな匂いがして、おかえりーってだるそうな声がして、テレビの音も聞こえるのに。

「銀さん?」

部屋の明かりをつけても誰もいない。
どこかへ行くという書きおきもない。

「…もしかして、帰った?」

部屋のどこにも銀さんはいなくて、玄関にくつもなくて。
着物も木刀も何もかも。

銀さんの形跡は何一つなかった。

「銀さん…。銀さん!!!何でいきなりいなくなっちゃうの!」

何言っても誰にも届かなくて。

「銀さん!!!」









「…。」
「…さん、銀さん。」
「凛!」

銀さんの声がした。

ゆっくりと目を開けると視界に入るのは白いふわふわ。
少し焦ったような表情の銀さんが私を覗き込むように立っていた。

「銀さん…。」
「大丈夫か?うなされてたぞ。」
「銀さん!!!」
「うお!?」

どうやらソファで眠ってしまったらしい。私は勢いよく起き上がり銀さんに飛び付いた。
いきなりのことなのにさすがの銀さん、倒れることもなく私の体当たりを受け止める。

「何だよ、怖い夢でも見たか?」
「…銀さんがいきなり消えた夢。」
「俺が?ああ、帰ったってこと?」
「多分。何も言わずに消えてたよ、薄情者。」
「そりゃ俺もなるべくお前がいる時に帰りたいけど…いつ迎えに来るかわかんねえしなぁ。」

ゆっくりと銀さんから離れてソファに座る。
銀さんも隣に並んで座った。

「それにしても凛ちゃーん。」
「はい?」
「随分銀さんに懐いてくれちゃって。俺がいなくなることってうなされるぐらい怖いわけ。」

ニヤニヤと聞いてくる銀さんの頭にとりあえずチョップしておいた。

「いたあああ!お前っ!手加減しろよ!脳細胞死滅すんだろうが!」
「大丈夫だよ、もう手遅れだから。」
「どういう意味だこらァァァ!」
「…怖いみたいだね。」
「は?」

どうやら私にとって銀さんの存在は日に日に大きくなっているらしい。
それが恋愛対象かと言われるとはっきりと肯定できないけれど、少なくとも家族のように毎日一緒にいるのが当たり前になってしまったのだ。

「一人だったからかな。…でも大丈夫。また元に戻るだけだし、慣れるよきっと。」
「…俺は慣れねえけどな。」
「え?」
「さーて、飯にすっか。何がいい?」
「今日は私が作るよ。銀さんリクエストある??」
「んー和食。」
「はいよー。」

立ち上がり伸びをしてからキッチンへ向かった。
後何度一緒にご飯が食べられるかわからないから…

美味しいねって笑いあえるご飯を作りたいな。


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