「銀さーん。コンビニ行ってくるから。」
お風呂に入っている銀さんに一声かけて私は財布だけ持って家を出た。
真冬の夜に外に出ることはものすごく躊躇われたが牛乳とパンがないと翌朝困るのは確実なのだ。
「うう…さむっ。」
ありがたいことにアパートからコンビニまでは五分。
やる気のなさそうな店員に牛乳とパンをだし無事会計をすませるとさっさと帰ろうと店を出た。
「おねーさん!」
「…。」
「おねーーーさん!」
あれ、これ私に言ってるのか?
そう思って振り向くとコンビニの前に二人の酔っ払い。
年は近そうだけど一人はべろんべろんでふらふら。もう一人もふらつきながらへらへら笑ってる。
「何か?」
「俺達と飲みません??」
「…いえ、寒いんで帰ります。それにあなたのお友達もう言葉も発しないぐらい酔ってますよ。早く家に送ってあげてください。」
「ええー。じゃあ一緒に行きましょうよ。俺んち近いんでー!」
これはいわゆるナンパに入るのだろうか。生まれて初めてのナンパが酔っ払いって嬉しくないんですけど。
そして何より面倒くさい。このタイプは何言っても話が通じないんだ。
「いえ、帰ります。貴方達は回れ右してコンビニで水を買って飲みほしてから帰ってください。では。」
さっさと帰ろうと歩き出すと話しかけてきた男に手首を掴まれた。
「つれないなー。ねーねーお姉さん。俺達男二人で寂しいんだよー。」
「お店行ってくださいよ。」
「そんなこと言わないで〜。」
どうしてやろうか。コンビニをちらりと見るけれどあのやる気のない店員はレジにいない。裏に行ってしまったのか。
けっこう酔ってるみたいだから蹴り飛ばしても良さそうだけど逆上されても困るし。
「あの、いい加減に…。」
「ちょっとお兄さん。俺の彼女に何してくれてんの?」
後ろから聞きなれた低い声がした。
ぐいっと引っ張られると目の前にふわふわの銀髪。
銀さんの背にまわされたことに気付く。
「何、彼氏??」
「そうですけどー。人のもんに手だすっていうならそれなりの覚悟あるんだろうな?」
「いや…そのー…。」
銀さんって背も高いし、何よりあの髪と目の色。
夜にいきなり現れて睨まれたら相当怖いはずだ。
案の定酔っ払いの二人はすぐにコンビニに逃げ込んでいった。
あーよかったと息をつくと目の前の銀さんがくるりと振り向き私にデコピンしてきた。
「いたぁぁ!」
「痛いじゃねえよ。俺が出るまで待ってろって言っただろうが。」
「え?言った?」
「聞いてから出ろよ…。」
銀さんは私の手から荷物を持つとアパートへと歩き出す。
私も急いでそれに続いた。
「銀さんも何かほしかった?」
「夜に女一人で出歩くんじゃねえ。」
「え…もしかして心配してくれたの?」
「あのなぁ。当たり前だろ?お前は俺の周りにいる女どもと違うんだからよ。」
銀さんの周り…ああ、神楽ちゃんに妙ちゃん、さっちゃん、つっきーね。勝てる気がしないよ。
「ああいうのに出くわしたら鳩尾か股間蹴って走って逃げろ。」
「はーい。」
「でもその前に、夜遅くに一人で出歩かないこと。」
「はーい。」
なんかくすぐったいな。
こんな風に心配されたの久しぶりというか…そもそも人に心配されるなんていつぶりだろう?おばあちゃんが死んじゃってから一人だったからなぁ。
「ったく…。」
「ごめん銀さん。イチゴ牛乳買っておいたから。」
「おお!気が利くじゃねえか!」
コンビニの袋の中にイチゴ牛乳やチョコが入ってるのを見つけると目をキラキラさせて喜ぶ銀さん。
子供みたいでいつもなら笑っちゃうんだけど…。
さっき助けてくれた背中を思い出して何だかドキドキしてしまう自分がいた。
…あれれ?
まさかね。
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