「ねえ、むかつくんですけどー。片っ端から殴りつけたいんですけどー。」
「やめてね、銀さん。捕まるからね。」
銀さんがここにやってきて早一ヶ月。
町はクリスマスモードだった。当たり前だ。今日はクリスマスイブ。つまりあっちでイチャイチャこっちでイチャイチャ状態だ。
「あーあ!クリスマスの魔法で俺にいいこと起きないかなー!?いいことどころか違う世界から戻ることもできない哀れな俺にサンタさんプレゼントくれないかなァァァァ!?」
「はいはい、サンタさんは子供限定だから。」
「銀さん心は子供だから。永遠の少年だから。」
「こんなすさんだ少年いません。」
まあ確かに気の毒だけどね。
いまだ戻れなくて。
まさか一ヶ月も銀さんと暮らすとは思わなかったけど。
「イルミネーション綺麗だよ。おいしいもの食べてゲームでもしてあそぼ。」
「凛、お前むかつかねえのか?俺達は日本人だよ?クリスマスなんて関係ない種族だよ?なのにどいつもこいつもイチャイチャイチャイチャしやがって…。」
「銀さんそれ妬み僻み。チキンとケーキ買ってあげるから。」
「やったねー!!!!俺ホールで食べたい!!!!」
「単純だなぁ。」
仕事が終わった私を迎えに来てくれた銀さんと買い物をして帰ることにした。
どこかいってもいいんだけど今日明日はどこも混んでるだろうし何より私達はカップルでもなんでもない。大人しく家にいるのが一番だ。
「銀さんの世界は今冬だったの?」
「いや、もうすぐ春になるってとこだったぜ。」
「微妙にずれてるんだねー。」
そんな話をしながら無事チキンとケーキをゲットした私達は家路につく。
サラダやおつまみを簡単に作り二人だけのパーティを始めた。
久しぶりに誰かと過ごすクリスマスがまさか銀さんととは。
「こんなちゃんとしたクリスマス久しぶりだな。」
「え?銀さんも?」
「当たり前だろ。チキンとケーキなんて買えるか。」
「あ、そういうこと。」
いつもお金ないイメージだもんね。神楽ちゃん可哀想だな。
私は会社で起こった話を、銀さんはこの前のクリスマスをどう過ごしたかなんかを話しながら食事をする。いつものことだけどあっという間に時間が過ぎるんだよね。誰かと過ごすってことはそういうことなんだろうか。
「何かテレビやってるかなー?」
ソファに移動してお酒を飲むことにした。
テレビを見るために自然と隣り合うんだけどこれが居心地がいい。
普通この距離ってよっぽど親しくないと嫌なんだろうけど銀さんは大丈夫だった。
お笑い番組を見ながらたわいもない話をする。
他のチャンネルを見てみようとリモコンに手を伸ばした時だった。
「あ。」
銀さんも同じことを思ったのか二人の手が重なった。
私よりうんと大きな手。この手でたくさんの人を守ってきたんだななんてしみじみと思う。
眺めているだけで離そうとしない私に銀さんが覗き込むように話しかけた。
「凛?銀さんとそんなに手繋ぎたいの?」
「え?あ、ごめん!」
ニヤニヤと笑ってる銀さん。なんだか余裕ある感じでむかつくんですけど。
「大きな手だなって思っただけですー。」
「大きいだけじゃねえよ?色々できるよ?銀さんテクニシャンよ?」
「はいはい。」
「つめてえなぁ。」
「…たくさんの人を守ってきた手なんだなって思ったの。」
私の言葉に銀さんはにやけた顔から真剣な表情になる。
そしてまじまじと自分の手を見ていた。
「お前、知ってんだろ。守ってきただけじゃねえよ。」
「ん?」
「いろんなもん、壊して、消して、汚れた。」
「銀さん…。」
「お前、俺が怖くねえの?全部知っててさ。」
「知ってるから怖くないし、知らなくても多分怖くないよ。」
「は?」
私はマンガで銀さん達を知っている。
過去も今も、明かされていることは知っている。
でもたとえそれを知らなくても…。
「私は、自分の目で見たものを信じる人間なの。銀さんが現れてから今まで怖いと思ったことないよ。」
「あ、そ。」
広げていた手を額につけて銀さんは俯いた。
意外な答えだったのかな?…照れてる?
「ぎーんさん。」
「何。」
「これからもよろしく。…帰るまで。」
「おう。」
クリスマスイブ。
それこそマンガのように愛は生まれないけれど。
少しだけ距離が縮まった気がした。
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