君がいる世界 | ナノ



色々な人の声がした。そんな気がした。
でも一つだけ聞き覚えのない声があって、でもそれが何故か一番愛おしくて。
ああ、はやくそこへ行かなきゃという気持ちだけはわかった。


少しずつ瞼を開けばまずは天井、そして明るい方へ視線をずらすと涙目の神楽ちゃんと新八君がいた。

「凛!凛が目を覚ましたアル!!」
「僕沖田さん達を呼んでくる!」

神楽ちゃんは寝ている私に覆いかぶさるよう抱き着き、新八君は勢いよく立ち上がって廊下へ消えていった。多分だけどここは真選組の屯所だ。前に一度来ているから何となくそんな気がした。

「神楽ちゃん…銀さんは?」
「銀ちゃんは先に目を覚ましてサドと一緒にいるアル。凛はなかなか目を覚まさなかったから本当に心配したヨ!!」
「ごめんね…」

実はさっきから違和感が拭えない。なんだろう…こう…自分が自分ではないようなそれに私はゆっくりと手を天井へ伸ばす。

「あ」
「凛、気づいたアルか?」

小さい。手が小さい。
それに声もなんとなくいつもと違うように聞こえた。
体を起こそうとすると神楽ちゃんが背に手を添えて助けてくれた。足の位置がいつもより手前だ。これは間違いない、私の体が縮んでいる。

「私…」
「あのクッキーが原因だろうって話ネ。銀ちゃんも凛とおんなじで小さくなったヨ」
「ええ!?」
「凛、どこも苦しくないアルか?」
「う…うん。今はどこも」
「…ちっちゃくて可愛いネー!!」
「かっ神楽ちゃん!苦しい!」

体が小さくなった以外は異常がないと確認した途端、神楽ちゃんは私をぎゅっと抱きしめた。おそらく小学生ぐらいに小さくなっているだろう、あれだ。どこかの高校生探偵のようである。

私達が騒いでいると廊下から勢いよくこちらへ向かう足音が聞こえた。多分新八君達が戻ってきたんだろう。

「ちょっとぉぉぉぉ!神楽ちゃん!凛さんが潰れちゃうよ!」
「おいこら神楽!凛は地球人なんだぞ!しかも今は子供だぞ!加減しねえと死ぬだろうがァァァ!」

新八君が神楽ちゃんをべりっと剥がし、私の隣に銀さんが座った。

「…銀さん」
「よぉ」

銀さんは銀さんでも小さな銀さんだった。やる気のない目も銀色の髪もそのままだけど私と同じで小学生ぐらいに縮んでいる。

「私達縮んだの?あのクッキーのせい?」
「今沖田君たちが調べてくれてらぁ。どうやらこうなってんのは俺達だけじゃないらしい。江戸中で報告されてる。…そのうち解決すんだろ、心配すんな」

ぽんと頭に手がのせられた。撫でてくれるその手は小さいのにとても安心してしまう。小さくなっても銀さんは銀さんだ。

「でもどうして二人だけアルか」
「そういえば…神楽ちゃんも食べてたよね、クッキー」
「今の所縮んだって報告は地球人だけらしい。天人には効かねえのかもな。…ヅラ殺す」
「でも桂さんもたまたま貰ったって言ってたし。無差別だったんだろうね」
「ま、とりあえず待機だ待機。今日は屯所に泊まっていいらしいぜ」

部屋にあった姿見の前へ移動すると本当に体が縮んでいた。この服はどこからきたのか、誰が着せてくれたのかとかこの際考えないことにしよう。それにしてもこの姿は懐かしい。じっと鏡を見ていると銀さんが隣に並んだ。私より少しだけ背が高い。だけど小さいその姿に母性がくすぐられる…この見た目の自分が言うのもなんだけど。

「銀さん可愛いね」
「嬉しくねえな」
「それにしてもびっくりだね。まるでマンガだね」
「俺達名探偵になれるな」
「それ私も思ったよ」
「お前だけなかなか目覚まさねえからみんなで焦ったんだぜ。何度呼んでもぴくりともしねえしよ」

ああ、やっぱりみんなが呼んでくれていたんだ。
聞き覚えのないでも愛おしい声はきっと…

「目覚まして良かった」

ほっとしたような、どこか苦しそうな、そんな目で、そんな声で。

思わず言葉が出なかった。そんな表情されると思わなかったから。


「あんま心配かけんなよコノヤロー」
「うん…」

ぐりぐりと頭を押さえつけるように撫でられ、私は俯きながらも返事をした。
どんなことに巻き込まれても、銀さんがいればもうそれだけで私は大丈夫。




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