振り向いてくれなくていい | ナノ


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初めは気にいらなかった。
あのヤローに好意を寄せる女。どうせ相手になんてされないのにヘラヘラ笑って諦めない。見ているだけで苛々した。
あのヤローは姉上を捨てたんでィ。今更他の女を選ぶなんて許されねぇし、そんなあいつを好きだと言う女も見る目がねえとむかついた。

なのに。

『隊長!お団子食べましょう!』
『どうせ土方さんと食べられなかったやつだろ。』
『え!?ばれた!?』

裏がないというかただのバカ。憎めないのはそのせいか。

『何であんなに素敵なんでしょう。』
『いい眼医者紹介してやらァ。』

姉上と正反対。しとやかでもねえし、バカだし、ドジだし。それなのに。

『別に振り向いてくれなくていいんですよ。私は傍にいて、あの背中を見ているのが好きなんです。』

姉上と同じことを言うなんて。


『ミツバさん、素敵な方だったんでしょうね。』
『当たり前でィ。お前とは月とすっぽんでさァ。』
『生きていてほしかった…。』
『は?』
『だってそうしたら隊長も副長も幸せじゃないですか。』
『…バカか、お前。』
『死んだら勝負もできません。』
『何したって姉上に勝てねえよ。』


いつだったか、姉上の話になった時、あいつは俺の言葉にへらりと笑ってそうですねと頷いた。


何で苦しいのに笑える?
何で叶わないのに思える?
何で…。



「隊長?沖田隊長??」

アイマスクをずらすと俺の顔を覗き込むように人が立っていた。
逆光で顔が見えなくても誰だかすぐにわかる。

「なんでィ…人が昼寝してるってーのに。」
「副長が探してますよー。つのはえちゃってますよー。」
「大丈夫でィ、つのじゃなくてマヨネーズがはえてるだけでさァ。」
「赤いキャップは見えなかったです。」
「そりゃやべぇ、中身が零れちまう。」
「ぷっ…何言ってるんですかもう!」

ゆでたまご作ろうかななんてけらけら笑いながら言うあいつにつられてこっちも笑う。
女っていうのはこうも強いものか。恋が叶わないぐらいなんともねえのな。

「で、今日は愛の告白してきたのか?」
「当たり前ですよ、毎日の日課じゃないですか。」
「結果は?」
「…毎日のことじゃないですか。」

どうやら今日も流されたらしい。少しだけ悲しげな目になるがすぐに元に戻る。

「ほらほら、早く行きますよ。」

そう言って差し出された手を掴むと俺は立ち上がりパンパンと土を落とす。

「…ばーか。」
「は!?何いきなり!?何で罵声浴びせられなきゃいけないんですか!」
「そりゃお前がバカだからでィ。」
「なんで?!何もしてないでしょう!?」

頬をふくらませて文句を言う楓の手を掴み、俺は無理やり屯所の外へと向かって歩き出した。いきなりの行動に楓は目をぱちぱちとさせて引きずられている。

「え?ちょっと沖田隊長??」
「団子食いにいくぜー。」
「ええ!?怒られるから!副長に怒られるから!!!!」
「知るか。」

抗議なんて聞いてやらねえ。
こいつは少しあのヤローのことを忘れたほうがいいんでィ。
少しでも、その悩みの種を忘れたほうが。

…どうせ四六時中あいつのこと考えているんだからな。

「さっさと諦めろ…ばーか。」
「え?」
「何でもねえよ。」

沖田隊長!!!と必死に俺の手をはがそうとしている顔は最高に笑えた。
今だけは…あいつのこと、忘れられるだろう?
今だけは…。


結局さぼった俺達を待ち受けていたのはあのヤローのゲンコツだった。


ほんと、気に入らねェ。あいつも、あのヤローも、俺も。

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