振り向いてくれなくていい | ナノ


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副長とのデート(私が一方的に言っている)の日は意外と早く訪れた。
普段行かないようなお洒落なお店に連れてってもらい最初は緊張していた私もお酒が入るといつも通りのテンションに(いやさらに上のテンションになっていた気がするけど)なり楽しく食事ができたのだ。

「副長素敵なお店知ってますねー。」
「まあ接待とかで使うからな。」

二人でのんびりと屯所まで歩く。夜風が火照った顔を冷やしてくれる。
こんな風に外を二人で歩くことなんて今までなかったし、これからもそうそうないからしっかりと脳に刻み込もうとさっきから必死だ。

お互い隊服じゃないとかもうデートだよね?デートって言って良いよね?
普段は黒ずくめの私も今日は小花柄の着物なんて着て浮かれ気分丸出しなもんだから屯所に出るときに沖田隊長に斬られかかったけど(理不尽!)それすらいい思い出になりそうなくらい今が幸せだ。
今まで散々振られ続けた可哀想な私に神様がご褒美をくれたんだ、ありがとうございますと手を合わせた時だった。

「真選組副長、土方だな。」

おい、神様、家につくまでが遠足。屯所につくまでがデートでしょうがァァァァァ!
何で目の前に五人も浪士が現れているわけ!?
ほんと怨み買ってるな…真選組。

がっかりしながら腰の刀に手をかけ…ようとして私は重要な事に気付いた。

(今、刀持ってない!!!)

着物を着ているもんだから刀は屯所に置いてきたんだ。

「女、運が悪いと思え。お前にも死んでもらう。」

ゆっくりと刀を抜きながら浪士はそう言い放つ。どうやら私が隊士だとは思っていないようだ。
これでも真選組の隊士。刀がなくても少しは体術も使えるがいかんせん動きにくい格好でどこまで戦えるか…。

どうやって相手に攻撃をしようか必死に考えているとすっと手が私の前に伸びる。

「副長…?」
「下がってろ。」

副長は一言告げると刀を抜いた。

「鬼の副長は余裕だね〜。」
「どこの誰だか知らねえが、抵抗できねえ女にまで手出そうなんて下衆に…。」

刀を構えた副長は口角を上げながら言い放つ。

「負けるわけねえだろ。」

そこからは一瞬だった。

まず目の前にいた男に一太刀、左右から襲いかかってきた二人を軽く避け同志討ちさせた後とどめを刺す。怯んだ残りの二人を追うように斬りつけた。逃げようとした二人はおそらく死んではいない、事情聴取するためだろう。
刀についた血をとばすように一振りし、鞘に納める。

どくんどくんと心臓の音が聞こえる。
だめだ、不謹慎だ。人が死んでしまったというのに。

その背中がかっこいいと思ってしまうなんて。

下がってろの一言に女の子扱いされた気分になっているなんて。

私は最低だ。

(女の子ってやつは、目の前で斬り合いが起こったらガクガク震えて目を閉じる存在を指すんだよ…。)

自分で自分が嫌になり思わず手で額を押さえた。

「おい、どうした?大丈夫か?」

電話で応援を呼んだ副長が私に気付いて声をかけてくれた。

「大丈夫です。」

心配してもらう権利なんてない。
どれだけ舞い上がってるのよ、私。

「すみません、刀、持ってくるべきでした。」
「あ?ああ、別にそんなことはいいんだよ。具合悪いんじゃねえのか?」
「え?」
「頭、押さえてただろ?」

何で…そんな優しくするんですか。

「はい。問題ありません。副長はお怪我はありませんか?」
「見ての通りだ。」
「すみません、私、気が緩んでましたね。次からは武士の命、肌身離さず…。」
「いい。」
「え?」
「今日みたいな日は刀持たなくていい。」
「副長?」
「女が着物着てんのに刀なんて差してたらおかしいだろ。代わりに俺が斬りゃいい話だからな。」

どくんどくんと音が響く。

「たまには守られてりゃいいんだよ。」

そう言って副長は煙草を取り出し火を付けた。
遠くから聞こえるパトカーのサイレンの音の方に体を向ける。
きっと五分もしないうちに応援がくるんだろう。

それまで目に焼きつけたい。

大好きなあなたの大きな背中を。

今だけはあなたに守ってもらえた女の子として。

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