振り向いてくれなくていい | ナノ


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側にいてもいいんです!諦めなくてもいいんです!どうしましょう、隊長!幸せすぎて舞い上がってます!!!天まで上がれそうです!なんて両頬に手を添えてキャーキャー叫んでる楓を見てげっそりした。心も表情も。あのヤローとこいつが心を通わせ…いや、あのヤローの気持ちは伝わってないが、あの日から二週間は経っているというのにこいつはあの時のテンションのままだ。

「そのまま舞い上がって帰ってくるな。そうしたら土方さんもショック死、俺は副長へ昇格、全て丸く治まりまさァ。」
「ちょっと隊長!何も治まってません!!そもそも私が死んで副長がショック死するわけないじゃないですかー。それに私副長に好きになってもらうまで死ぬつもりもありません。」

楓の言葉に俺は大きなため息をついた。ため息つくと幸せが逃げますよなんて言いやがるから誰のせいだと頭にチョップをお見舞いしてやった。睨みつけられたって怖くもなんともない、むしろもう一発くらわせたくなる。

「だいたい隊長が団子買ってこいなんて言うから見回りついでに買ってきたのに何でそんなご機嫌斜めなんですか。食べちゃいますよ。」
「うるせぇ。お前がどうすればあのヤローのハートを射止められますか?なんて鳥肌たつこと聞いてくるからだろうが。ハート射止めるならこれ貸してやるからちゃんと狙えよ。」
「いやいや隊長、これ刀。何射止めようとしてんですか、私は心がほしいんですよ、心臓じゃありませんよ。」
「似たようなもんだろィ?」
「似てません!」

またため息をついて団子に手を伸ばした。このアホはまだ自分だけが好きなんだと思っていやがる。それならそれで好都合、あのヤローとくっつくのを阻止してやらァと思っていたのに…。
あんな幸せそうな顔されるとそれもできねェんでィ。

「お前はあのヤローがお前のことどう思ってるか知らねえのか。」
「え?」
「自分はどう思われてると思ってんでィ。」
「えーと…部下?ぐいぐいしつこい部下?」
「正解。」
「やっぱり…。どうやったら副長の気持ちわかりますかね…部下以上になれますか?」
「簡単でさァ。」
「え!?」

俺の言葉に目を丸くするとすぐに頭を下げてきた。本当こいつ容易いな。簡単に攘夷志士に騙されるんじゃねえの?大丈夫なのか、こんなんで。

「沖田様、どうか私にその方法を。」
「楓。」
「はい?」

目の前に下げられた頭に手を伸ばし、髪を梳いた。俺の行動に驚いたのか楓が顔を上げてこっちを見ている。何も言わないのをいいことに手を後頭部に伸ばして固定するがそれでも楓は何も言わずに俺を見ていた。多分こいつは何もわかっていない。俺の行動の意味も意図も。つまり俺の気持ちなんて一ミリたりとも届いてないんでさァ。伝えてもいないのに理不尽なことを考えているのは自分でもわかっている。指先に伝わるさらさらとした髪の感触とは違ってドロドロとした切ないような苦しいような気持ちを断ち切るように口を開いた。

「…お前、このままだと本当にキスするぞ。」
「え?」
「まぁそれはそれで面白いんですけどねィ。」

俺の言葉にようやく状況を把握したのか、慌てたように後ろへ下がろうとする楓を押さえつけ、逆に自分のもとへ引き寄せた。と、同時に首を横に倒して飛んできた黒い塊を避けると近くの壁にそれがぶつかりガシャリとひどい音がした。携帯電話だった。

「おい総悟。お前何してんだ。」
「何かと思えば土方さんじゃねぇですか。俺は非番を満喫してるところでさァ。なのにいきなり携帯投げつけてくるたァ休んでいる部下に酷い仕打ちですねィ。」

やっと出て来たかと思いながらもまるで今気づいたかのようにそう言ってやればヤローのこめかみがぴくりと震えた。ああ、相当ご立腹だァ。さっきまでの感情が嘘のように晴れてきやがった。あの顔はいつ見ても笑えら。

「副長!?」

もぞもぞと俺の胸元で叫ぶ楓を軽く押さえつけ土方さんに視線を戻せば刀を抜くんじゃねえかって殺気をこっちに放っていた。だというのに俺の中にいるこいつは全くそれを感じてないんだから本当こいつ斬り合いに向いてねえ。

「さっさとそいつ離せ。」
「今こいつに質問されていたところでね、その答えを教えようとしているところなんでさァ。邪魔するならとっとと仕事に戻ってくださいよ。」
「そいつも仕事なんだよ。いいからさっさとその手を…。」
「楓も休憩中なんで。だいたい俺達が何してようが関係ないでしょう?あんた、こいつのなんですか。」

俺の言葉にあのヤローは思わず黙り込む。どうせあんたは言えねえんでしょうよ。こいつの気持ちに甘えて今の状態でもいいなんて思ってる。それは俺にとっても良いと言える状況なんだけどな。でも。

「俺のおもちゃに手出さないでくだせェ。」
「人の女おもちゃにしてんじゃねぇ!」
「人の…?」
「っ…!いや…その…。」

あーあ。つまんねえ。ちょっとつつくとすぐ罠にはまる。
あいつの言葉に楓が体を勢いよく起こして反応した。そりゃそうだろうな。なんてったってずっと望んでいた言葉だろうから。

「私の耳と頭がおかしくなかったらまるで副長の女って聞こえたんですけど…。」
「お前以外みんなわかってやしたー。」
「っ!!!」

団子に手を伸ばしながらそう言ってやればえ?え?と何度も俺と土方さんを交互に見る楓と顔を真っ赤にしたヤローがいて。

「だっ…そんな…うそ…え?」
「…そもそもお前があの時人の話をきちんと聞かないから!!」
「土方さーん、言い訳はよしてくだせェ。こいつにもはっきりきっちりわかるようにただ好きだと伝えたらこんなことにはなってないと思いやす。」
「ぐっ!」

会心の一撃に土方のライフがゼロになったところで俺はゆっくりと立ち上がった。残りの団子は二本、ちょうどいいだろ。

「ま、後は二人でちゃんと話し合ってくだせェよ。俺達あんたらのグダグダに巻き込まれるのは御免でさァ。」
「俺達って!?」
「なんでくっつかねえのかってみんな頭悩ませてんの知らねえのか。」
「ええ!?」
「ま、楓もやっと土方さんの気持ちを認識したみたいなんで、うまくやれよ土方ァー。」
「総悟!!」

そのまま自室へ向かおうと廊下を歩き出した。きっと残された二人は顔を赤くしてなんやかんや話をするに違いない。そんなところ一秒たりともいたくない。

「隊長!!」
「!?」

いきなり腕を引っ張られて振り返れば息を切らした楓がいた。
…なんで追いかけてくるんでさァ。歪みかけた表情をなんとか持ちこたえさせて見つめりゃ少し離れたところに土方さんも見えた。

「ありがとうございます!教えてくれてありがとうございます!!!」

泣き笑いの顔はお世辞にも可愛いと言えたもんじゃねえのに。
痘痕も靨たァこの事か。…薄々気づいていて気づかねえふりしてたのに何でこのタイミングで気づかせやがる。
でも一番堪えるのはたとえそれが自分に向いていなくても、こいつが笑ってられるならそれでいいかと思えちまった自分自身でさァ。

「楓。」
「はい。」
「ま、精々野郎に捨てられないよう頑張れよ。なんならお前から捨てろ。粗大ごみに出してこい。業者には俺から連絡しといてやらァ。」

総悟ォォォと怒鳴り声が聞こえてきたから俺は踵を返して走り出した。走らなくても多分土方さんは追いかけてこないだろうけど念のため。

まぁ暇だしとりあえず…。

「土方さんの部屋に水でも撒いて、マヨの中身をボンドに変えるか。」

あいつが泣くことがないように見張っててやりまさァ。




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