振り向いてくれなくていい | ナノ


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「気づいてしまったら最後、前の自分には戻れない。私はこの重大な事実をどうにかしなくてはいけないのです…。」
「かっこつけた台詞を決めてくれたところ申し訳ねぇんだが俺ァ今から町中のマヨネーズを買い占めて燃やすという重要な任務があるんでィ。くだらねぇ話はそこの地味にでも聞いてもらえ。じっくりみっちり聞いてくれるはずでさァ地味だけに。」
「ちょっとォォォォ!人のことなんだと思ってんですか!!!そのくだらない用事明らかに今やる必要ないでしょう!?しかもやった暁には副長が激怒する結末しか見えないじゃないですか!!!」
「うるせーや、それが目的だから何も問題ねぇだろ。」
「問題しかねえよ!!!」
「二人とも!真剣に聞いてくださいよ!!!」

ここは真選組屯所の休憩室である。私は沖田隊長と山崎さんの正面に座ってゲンドウポーズをとっていた。山崎さんは苦笑いで見ていてくれているのに沖田隊長は立ち上がり部屋を出ていこうとしている。
今ここで重大な会議が開かれるところだというのに。

「何が重大な会議でィ。お前の恋バナなんて一ミリも興味ねェんでさァ。人の恋路に首つっこむのは野暮ってもんで…じゃ、俺は行ってく…ぐはっ!!!」
「沖田隊長、これは恋路を邪魔するのではなく応援するものなので野暮ではないですぅ。いいからちゃんとお話を聞いていってくださいよ、そしていつものようにアドバイスをください。ね?沖田隊長?あれ?おかしいな、沖田隊長が喋ってくれません。山崎さん何ででしょう?」
「楓ちゃぁぁぁん!?俺の見間違いじゃなければ君が沖田隊長のスカーフ引っ張ってるせいでがっつり首しまってる!!!離して!隊長が死んじゃうから離して!この子悩みすぎてとんだ力発揮してるよ!一番隊隊長がこんなところで殺害されそうになってんだけどォォ!」

やだ私ったら。副長のこと考えてばかりで目の前の状況も理解できていなかった。ぱっと手を離せば沖田隊長が激しく咳き込んだ後私の頭を思い切り叩いた。痛い。でも今はそんな痛みもどうだっていいのだ。私はある一つの問題を解決するためなら沖田隊長に殴られようとかまわない。だっていつも沖田隊長や山崎さんがアドバイスくれるんだもん。ってか二人しか聞いてくれないんだもん。他の人は私と副長が特に進展もないと知ると興味なさげに去っていくんだもん。原田隊長でさえキス以上のことしたらじっくり話を聞いてやるとか言って…きききキスとか!そんなこと!まだまだ早くて!!!

「いや…君もう大人でしょ。今時小学生でもそんなこと言わないよ。」
「山崎さん!破廉恥!」
「ちょっと変な事言わないで!副長が通りがかったら俺殺されるから!」
「で、お前は何が言いたいんでィ。何に気づいた。あれか、土方が不能だったか。」
「あんた今の話聞いてました!?キスもまだでそんなこと気づくわけないでしょ!」
「チッ。つまんねぇ。じゃあ何なんでさァ。」
「…ってくれないんです。」
「「は?」」
「好きって…言ってもらったことがないんです!!!」

両手で顔を覆って私は吐き出すように言葉を紡いだ。こんな重大なことに何故今まで気が付かなかったのか。
私は副長に思いを伝えていた。腐るほど。そして彼から側にいてもいいと言われた。その後は沖田隊長のおかげで彼も私のことを思ってくれていると気づいた。でも…。

「あの時も私が好きですと言って、副長はああって答えただけで。それでも顔が赤かったし、なんか私も舞い上がってたので何も思わなかったんです。今日までも仕事の時は今まで通り、オフの時は一緒に出掛けたりもしましたけど…向こうは忙しいですし。」
「まぁ相手は副長だからね。突然恋人って感じにはならないんだろうけど。」
「で、これですよ…。」
「何でィ、マンガか?」

私がすっと差し出したマンガを沖田隊長は受け取るとパラパラと流し読みをし、目が半眼になる。確実になんだこの寒い内容はと思っているの違いない。沖田隊長が読んだのは今話題になっている恋愛マンガで若い女の子に絶大な人気を誇っている。私も興味なかったけれどこの前そよ姫様にすすめられて読みだしたらはまってしまったのだ。

「ああ、これ人気だよね。そういえばヒロインと彼氏の関係が楓ちゃんと副長みたいだよね。一途なヒロインとなかなか振り向かない男の子で。」
「さすが山崎さん!知ってるんですね。そうなんです!この男の子副長みたいですよね!?もうめちゃくちゃ好きになりました。」
「なかなかヒロインの子の気持ちに応えてあげないんだよね。…そういえばやっと両想いになったんだっけ?」
「はい!!」

私は沖田隊長からマンガを取りすごい勢いでページをめくる。ええ読みすぎてもうどの辺にどの内容が描かれているか覚えておりますとも。

「ついに最新刊で彼がヒロインに好きと…好きと言うんですぅぅ!」
「おい泣くなよ気持ち悪ィ。どんだけ感情移入してんでさァ。」
「だってぇ…これ、もう一五巻ですよ!?こんなに引っ張られたヒロインの気持ちを考えたら…うぅ…。」
「なるほど。それで副長に好きって言ってもらいたくなったんだね、楓ちゃんは。」
「山崎さぁぁぁん!好き!」
「ええ!?」

向かいの山崎さんの手を強く握りそう言えば山崎さんは焦ったような顔をして私を見ていた。もちろん恋愛感情は一切ないけれど人として山崎さんのことは本当に好きなのだ。優しくて話を聞いてくれるお兄さん的存在。そして…からかうと面白くて。

「あーあ、浮気現場に出くわしたとありゃ報告するしかねぇや。土方さーん、楓と山崎が浮気してますぜェ。」
「なんてこと言ってんですかぁぁ!殺される!!!」
「冗談は置いといて山崎さんの言う通り、私は副長に好きと言ってほしいです。以上。」
「冗談はお前の発言でさァ。あれが簡単に好きなんて言うような人間じゃねぇのはお前が一番よくわかってるはずだろ?」
「だからお二人にアドバイスをいただきたいんです。」

手を合わせて頭を下げると小さなため息と舌打ちが聞こえた。もちろん前者が山崎さん、後者は沖田隊長だろう。

「楓ちゃん。こういうのはどう??」

私はまず山崎さんの教えてくれた作戦を実行することにした。


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