振り向いてくれなくていい | ナノ


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あーあ。男の嫉妬は醜いねぇ。
楓と団子屋を出てからしばらく歩いているとチクリと殺気のような視線を感じた。気づかないふりをして歩きながら確認をすればなんとまぁ鬼の副長さんじゃねえの。楓は全く気付いていない(それも真選組としてどうなの)からとりあえず人気のない道へ連れていき様子を見ていた。
あいつにちょっかいだすふりしたら案の定瞳孔かっぴらいて向かってきちゃってさ。あんなに大事だってことに気が付いているくせになんで突き放すかねぇ…ってその気持ちもわからなくはねえけど。

楓と総一郎君と別れた後、俺は多串君を探した。奴のことだから真面目に巡察してんだろうと思って町をふらふらすればすぐにあの黒ずくめは見つかる。

「おーい。お兄さん、マヨ落ちてますよ。」
「何!?…ってお前かよ。そのまぬけ面見せんじゃねえ、不快だ。」
「ああ!?こっちだってお前なんかと関わりたくないんですー。」

でもまぁ、銀さん万事屋だから?依頼主のご要望はなるべく叶えなきゃいけないし?
本当は恋愛事なんててめえらで何とかしろっていいたいけどよ。

「てめぇ…あいつのこと本気なのかよ。」

とりあえずどうやって話続けようかなーなんて思っていたらまさかの多串君から話題をふってきたもんだから少しだけ驚いた。…多分顔にはでてないけど。
それにしても本気って何言ってんのこの人。もしかして俺が楓のこと好きだとか思ってんの?ちょっと…面白いじゃん。

「それに答える義理はねぇな。」

からかってやろうと返事を濁せばほらまた瞳孔開いてさ。完全におまわりさんの顔じゃねえから。犯罪者側だから。

「あ?あんなことしといて何とも思ってねえなんて言った日にゃたたっ斬るぞてめぇ。」
「そりゃ多串くんがあんな目でこっち見てりゃからかいたくもなんだろ。ぷぷー!!」

そう言ってやれば珍しく焦ったように目を泳がせた。尾行が気づかれてないとでも思ってたのかよ。

「いつから気づいてやがった!?殺す!」
「おいおい、警察が殺害予告だしてんじゃねえよ。」

刀を抜きかける多串君から一歩大きく後ろへ下がるとあいつは柄にかけていた手を離し舌打ちをしながら煙草を取り出した。いや、舌打ちしたいのこっちだからね。

「お前さ、楓のこと本当は大事に思ってんだろ?」
「関係ねえだろ。」
「前のこと引きずってんの?それで突き放そうとしてるわけ。」

こちらが真剣に話そうとしているのが伝わったのか、あいつは怒るような気配も見せず静かに煙草をくゆらせた。

「てめえは今の居場所が大事で、それを守るので手一杯だと思ってんだろ。まぁわかるけどな。大事なもんはそう簡単に増やしたいもんじゃねえ。この手で持てる量は決まってるからよ。だけどさ、あいつはてめえがいねえと何もできないわけじゃない。刀振り回して戦って今までも精一杯ついてきたじゃねえの。」
「お前なんかに言われなくても…わかってる。あいつはいつも俺の後ろについてきた。」
「で、今回怪我されて一気に不安になっちゃったってか?」
「チッ。不安になったとか言ってんじゃねえよ気持ち悪い。」
「お前もあいつも、誰だっていつ死ぬのかわかんねえよ。遅かれ早かれみんな死ぬ。それだけはみんな平等だ。」
「わかってんだよ。そんなこと。」
「なら、それを理由にあいつの気持ちを踏みにじるようなことはやめろ。そんなくだらねえ理由で何度も何度もあいつ傷つけてんじゃねえ。」

そう言えば舌打ちをして煙草を消していた。おいおいもったいねえなぁ。まだ吸い出したばかりじゃねえの。そんなに俺との会話終わらせたいか。まぁこちらも終わらせたいけどね。

「わかってんだよ。自分の気持ちに気づかねえほどガキじゃねぇ。」
「…お前。」
「大事になればなるほど…俺の近くにいちゃいけねえって思いが強くなる。こんな危ねえところにいるより隊を抜けて普通のやつと所帯もって、ガキ産んで…ってそれが幸せだと思うだろうが。」
「そんなんは…。」
「あ?」

言いかけて俺は口を閉ざした。俺が言うことじゃねえ。そんなこと思う権利、お前にはねえってこと。

「ま、どうしようがお前の勝手だけどね。」
「散々ふっかけといてそれかお前!」
「選択肢、間違えんなよ。」

ひらひらと手を振って俺は踵を返した。まぁ他人の色恋に首突っ込むのはここまで。
どちらの言い分もまぁわかるし、あとはもう。

「どっちが勝つかねぇ。」

惚れたほうが負けって言うからな、恋愛は。





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