振り向いてくれなくていい | ナノ


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十番隊に配属されてまだ日が浅い自分は巡察より屯所での内勤を言い渡されることが多かった。そして今日も仕事を終え原田隊長に報告をしに行こうと部屋へ向かったのである。


「失礼します。」


するとそこには原田隊長の他に山崎さんや十番隊の隊士が数人集まっていた。狭い部屋に男がこんなにいると少々空気が悪く感じるものだがそう思わせないのは逢坂さんがいるからだろう。たった一人女性がいるだけでこうも違うものなのかと思いつつ原田隊長に声をかけた。そもそもこんなに人がいるのだ。重要な会議でもしていたのかもしれないと思いすぐに出ようとしたのだが隊長に残るように言われた。

ついに自分も重要な任務に加えてもらえるのだろうかとドキドキしたのだが始まったのはとんでもない話だった。


「いや、結局のところ男も見た目なんだろ!?見た目が悪いとゲームオーバーなんだろォォォォ!?!?!?」
(え…。)
「だーかーらーそんなことないですってば。」


隊士の一人が半泣きで叫んでいた。それを逢坂さんを始め他の人たちが必死で慰める。困惑している俺に気づいてくれたのか山崎さんがこっそり耳元で事情を説明してくれた。


「あいつ振られたんだよ。で、彼女はなかなか会えないからって理由で言ってきたらしいんだけどその後すぐ男と二人で歩いているの見ちゃったんだって。それがイケメン。」
「なるほど。」

つまりこれは振られた男を慰める会ってことか?新人の俺が言うのもなんだけど何してんのこの人たち、今勤務時間だけど。


「男は顔じゃないですよ!中身です中身!!!やっぱり器が大きい人が一番!それから優しいとなおよし!見た目なんて年取ったらみんな同じですもん。残るのは中身じゃないですか。」
「逢坂…お前ってやつは…。」
「ほらほら、逢坂もこう言ってんだ。中身が大事って思ってる女はたくさんいるさ。次いこうぜ次!!」
「うう…お前ら…ありがとうよ…。」

逢坂さん優しいんだな。こんなむさ苦しい集団(自分も含め)にあんな言葉かけてくれるなんて。特別美人とかじゃないけどなんか癒されるんだよな。

「俺たちは逢坂の恋を応援してるからな!負けんなよ!」
「みんな…ありがとうございます!!」

他の隊士が今度は逢坂さんに声援をおくる。

「逢坂さん、好きな人いるんですか?」
「あれ?君知らなかった?」
「まぁ…。」
「何度も何度も好きと伝えては振られてを繰り返してるんだよ彼女。」

山崎さんがため息まじりに教えてくれた。そんなに振られてるのに諦めないんだ。…他に目を向ければいいのに。

「逢坂も他の男にしたらどうだ?あの人落とすのは至難の業だぞ?」
「それは…。」
「なぁ、お前もそう思うよな?」

いきなり話をふられて思わず固まってしまう。みんな逢坂さんの思い人を知っている口調だけど俺は誰だか知らないし逢坂さんの恋が実る確率も予想できない。だけど…。

「まぁ、何度も振られているのなら他を見ることもおすすめします…きっと逢坂さんのこといいなと思っている人もいると思うので…。」


何でそんなことを言ってしまったのかわからないけど、そう思ってしまったんだ。もしかしたら俺、いつの間にか彼女のこと…。


「ほら、みんなこういってるぜ?この際合コンでもするかー??」
「あ、話題の街コンってやつ行ってみようぜ。楽しそうじゃん?」


他の隊士が盛り上がりだしたのを抑えるように逢坂さんは笑いながらこう言った。


「みなさんありがとうございます。でも私諦めません!」
「でもよぉ…。」
「私…好きになってもらえないからって好きでいることをやめたくないんです。やめられませんし。」
「逢坂…。」

えへへと頭をかきながらそう言った彼女に胸が苦しくなった。確かにそうだ。人を好きになるってきっとそういうことだ。

「わかった!俺達こうなったら最後まで付き合ってやらぁ!こうなったら夫婦になれよ!」
「結婚式は派手にいこうぜ!!!」
「「「おおおーーー!!!」」」


隊士の盛り上がりに逢坂さんも拳を掲げて立ち上がる。そして襖をあけて廊下に出た。


「ではこの勢いで本日二度目の告白してきますね!!!逢坂いっきまーーーす!」


タタタタと軽快な足音をたてて彼女は走り去っていった。
…二度目の告白?え?相手ってここにいるの?


「…でも男は見た目じゃないって言葉。楓が言ってもまーーーーーったく説得力ないんだよな。」
「そうだね。」
「え?」


原田隊長の言葉に山崎さんが苦笑いで相槌をうつ。周りもそれに関してはなーと呟いていた。


「逢坂さんの好きな人って?」
「え?知らないの?副長だよ。土方さん。」
「…。」


そりゃ説得力ゼロですわ。

苦笑いとため息で埋め尽くされた空間にて頭を垂れつつ、遠くから聞こえてくる副長の怒鳴り声と彼女の叫び声にみんなで笑うしかなかった。




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