振り向いてくれなくていい | ナノ


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「ま、とういうわけで将ちゃんの頼みを聞いてやってくれよぉ〜お前らだけじゃむさ苦しいから楓ちゃんも一緒にな〜。」
「バカ言うなとっつあん。真選組の上三人が穴をあけるわけにいか…。」

副長の言葉は銃声にかき消された。ちなみに沖田隊長はもう胡坐をかいて壁に背を預けて目を閉じてるし局長はすでにギリギリのところを撃たれて気絶している。
何この地獄絵図…と思ったけれど私は今のところ被害ゼロだし、副長も生きているからよしとしよう。

「温泉…ですか。」
「そうなのよぉ〜楓ちゃん。美人の湯って有名でお肌にいいらしいからゆっくりしておいで〜。」
「え!?(美人の湯!?)喜んで!!!」

松平様(パパって呼んでと言われているけど無理)に言われたらそりゃ堂々とさぼ…いや、温泉へ行けると思うと気分が上がる。だって最近休みなかったんだもん。しかもこれ、副長も一緒だからね!!!

「喜んで行ったところでてめぇはどうひっくり返っても美人にはならねぇですぜ。」
「うるさいですよ隊長。隊長こそさらに美に磨きがかかって女子と間違えられないことを祈りますぅ〜。」
「よし今からその顔綺麗にしてやるから表でなァ。真っ赤に染めてやらァ。」
「切り刻まれることによって綺麗になるとかありえませんからね、隊長。」
「まっ平らに削いで一から作り直してやりやす。」

そんなやりとりをしているとテーブルにパンフレットを置いて松平様は帰ってしまった。ああ見えて忙しいお方だから仕方ない。パンフレットに手を伸ばすと横から隊長に奪われた。

「さすが将軍御用達のお宿はすげぇや。見ろよこの部屋に料理。」
「うわー!!素敵!料理もおいしそうですよ。楽しみですね!!!」
「よし…お妙さんも誘う!勲いってきまーーーーす!!!」

いつの間にか復活していた局長がパンフレットを掴んで部屋を飛び出していってしまった。本当にタフだなあの人。

「…近藤さん、警護に行くってことわかってんだよな。」

額に手を当てて頭を抱えている副長は相変わらず苦労人オーラが漂っているんだけどそれすら素敵に感じてしまうから私も末期だなと改めて思った。

「まあ警護といっても将軍様を始め身分の高い方しか泊まることができない宿ですし。もともと警備態勢が整ってますから。将軍様と妹君と私達だけのお忍び旅行なんですよね?」
「警備態勢が整ってるならわざわざ近藤さんや俺が行かなくてもいいはずなんだけどな。」
「わかってねぇな、土方さんは。真選組の上が行くことに意味があるんでさァ。ま、どうしても行きたくないって言うなら土方さんは留守番でいいですぜ。」

隊長はそう告げると私の腕を掴んで立ち上がる。もちろん自動的に私も立ち上がることとなった。

「じゃ、俺たちは旅行の準備で買い出しやらなんやらしてくるんで。ついでに近藤さん拾ってきまさァ、今頃姐さんの家の前で野垂れ死にでしょうし。」
「え?私も?」
「当たり前でさァ、誰が荷物持つんでィ?」
「おかしいです!おかしいですよ!!!」

ぐいぐいと手を引いて隊長は部屋を出た。必死に抵抗していると後ろに勢いよく引っ張られる。トンッと背中に軽い衝撃を感じて振り向けばそこに副長が立っていた。

「ふっ…!?」
「総悟。お前は俺と今から見回りだろうが。近藤さん回収はするがこいつはおいていけ。書類整理頼んでんだ。」

副長に掴まれている左腕が熱い。服越しなのに副長に掴まれてるって思うだけで心臓がバクバクする。右手は直接沖田隊長と繋いでいるというのにこの差だ。

「へぇ。十番隊のこいつにわざわざ頼むことですかねェ?でも近藤さん回収するにあたってこいつがいると楽ですぜ?姐さん、こいつには甘いですから。俺達だけで行くととばっちりくらいまさァ。」
「チッ…逢坂も来い。」
「え…。」

副長が歩き出し私もそれに続く…というか続かざるをえない。だって…だって!!!

「ふふふふっふ副長!」
「あ?」
「何どもってんでさァ。気持ち悪い。」
「だっだって!手がっ!」

私の左腕、掴まれたままですもん。あ、ついでに右手も隊長に掴まれたままですけどそれはスルーの方向で。

「おい、わざわざ上司が手を繋いでやってんのにそこは反応しないで腕掴まれたぐらいでギャーギャー騒ぐんじゃねぇや。」
「いや、隊長は今さら特に何も…ってか隊長も離してください!なんで連行されてるみたいになってるんですか私!!!」
「こんなうるせぇメス豚連行するぐらいなら豚舎へ返しやす。」
「誰が豚じゃあああ!」
「ほら、土方さん。こいつがうるせぇんで腕離してくだせェよ。」
「…お前も離せ。」
「は?俺がこいつ掴んでるのはいつものことなんで気にしないでくだせェ。掴んでやらないとすぐすっ転ぶんで。」
「すっころびません!!沖田隊長に転ばされてるだけです!!!」

ぐっと両手を引き寄せると二人の手が離れた。いや、副長は大変おいしいのでそのままにしたかったけれどなんとなくここは二人から離れたほうがよさそうだ。
そのまま特に何もなかったかのように私たちはパトカーに乗り込むと見回りを始めることとなった…わけがないです。沖田隊長の運転により旅行の買い出しへ行き、ちょっとしたことで言い合いになる二人を止めつつなんとか無事に屯所へ戻りました。(局長のことは忘れましたごめんなさい。)



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