振り向いてくれなくていい | ナノ


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誰もいない屯所の裏庭。
私は大きく深呼吸をしてから目の前の人に思いを告げた。

『副長…好きです。』
『…悪い。応えられねえ。』

想像通りの答えが返ってきて何故か涙より笑みが浮かぶ。
だって、副長はやっぱり副長で。
私が好きな彼のままだから。


わかりました、聞いてくれてありがとうございます。そんな台詞、彼は何度聞いたんだろう。きっとたくさんの女の人に言われたんだろうなぁ。

『勝手に好きでいさせてください!』

私のようにしつこいやつは少数派なんだろうか。




「おい、仕事中に居眠りとはいいご身分だな。」

コツンと頭に衝撃が走り目が覚めた。ゆっくり頭をあげるとお怒りの副長。
どうやら書類を作ってる間に寝ていたらしい。初めて副長に思いを告げた時の夢だった。
それにしても、告白をしたあの頃はもう少し優しかったというか女の子らしく扱ってくれてた気がするけどもうこれだもん。叩かれてもいいけどね、副長なら。(Mじゃないけど)

「すみません…。」
「まぁ昨日無理させたからな。見逃してやる。」
「良かったぁ…。」
「へー無理させた何ていつの間にそんな関係になってたんですか土方さん。俺のサボりも見逃してくだせぇ。」
「総悟!?」

相変わらず気配を消すのがうまい沖田隊長が部屋の入り口に立っていた。
ちなみに無理させたというのは副長の部屋に積み上がっていた始末書手伝っただけなんだけどね。沖田隊長も知ってて言うんだから…どんだけ副長からかいたいんだろこの人。

「てめぇのサボり見逃せるわけねえだろうがァァ!さっさと見回りしてこい!!」
「あーうるせえうるせえ。楓も本当に物好きでさァ。こんな奴のどこがいいんだか。」
「全部ですよ、全部。」
「「…。」」

きっぱりと言うと刀をぬきかえていた二人が同時に動きを止めた。
数秒後、沖田隊長はため息をつき、副長は目をそらす。

「あほらしいんで退散しまさァ。」
「あ、おい!総悟!」

そう言うとひらひらと手をふりながら沖田隊長は出ていってしまった。
といっても見回りなんてしないでその辺で昼寝だろうけど。
残された副長はただ黙って佇む。おそらく気まずいんだろう、なんだかんだ優しいから無碍にできないんだ。

「ほら、副長。早く仕事に戻らないと。私も急いで終わらせてお手伝いしますので。」
「あ…ああ。」

こうやってきっかけを作ってあげないといけないなんて。
私を諦めさせたいなら徹底的に冷たくしないとだめなのに。

副長が私を選んでくれないことなんてわかっている。いや、私だけじゃない。きっと他の誰でも。
沖田隊長のお姉さんが好きだったらしいけど相思相愛なのに武州に置いてきたと聞いた。そして、彼女は病気で亡くなった。
副長はいつ自分が死ぬかわからないのにそんな自分の傍に置いておけないと言っていたらしい。

だから彼はきっとこれからも…誰も選ばないんだ。


わかっている。私の気持ちは受け止めてもらえないことぐらい。
隊士として傍に居られても女としては求められないことぐらい。
それでも、それでもいいんです。あなたの傍にいられたら。
その背中を見ていられたら。


「好きになってもらえなくても…側にいられるなら。」


そう呟いた言葉は出ていった副長には届いていないだろう。
それでいい。

好きという気持ちは簡単に消すことなんてできないんだから。




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