振り向いてくれなくていい | ナノ


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「祭やイベントの時は必ずといっていいほどケンカやら万引きやら多発する。テロの警戒もしなくちゃならない。みんないつも通り、いや、いつも以上に気を引きしめてくれ。」
「「おお!」」

近藤さんの解散という大きな声で皆が持ち場へと歩いていく。
今日はターミナル近くの広場で大きなイベントがあり、真選組はその警備にあたることになった。

「楓〜。」
「沖田隊長…もう出店回ってきたんですか。」
「何のための私服巡回でィ。」

たこ焼きを頬張りながら歩く沖田隊長に呼ばれ、私は足を止めた。
定位置に留まっている者は制服を、会場のあちこちを巡回する者は私服を着用していた。イベントの雰囲気を極力壊さないようにという配慮もあるようだがテロなどを企んでいる攘夷浪士を一網打尽にしたいのが本音だろう。私服だと油断しやすい。

「全員隊服の方が抑止力っていうものがあると思いますけどね。」
「ばーか。テロなんざやろうと思う奴は俺たちがいようがいまいがやるんでィ。だったら油断させてるほうが一気に全員とっ捕まえれんだろ。」
「そんなもんです??」
「お前もお祭り気分を味わえばいいんでさァ。」

ほれと私にたこ焼きを突き出した彼はどうやら私が食べるまで手を引くつもりはないらしい。仕方ないと一気に食べたはいいものの…。

「あっつ!!!これあっつゥゥゥ!」
「当たり前でさァ。買いたてホヤホヤでィ。」
「なんで隊長涼しい顔して食べてたんですか!!お茶ァァァ!!!」
「人があげたもん何流しこもうとしてんでさァ。味わって食いなせェ。」
「鬼ィィィィィィ!」

人の手からお茶の入ったペットボトルを奪い取りニヤニヤと見つめるそれは完全に鬼畜であった…。くっそいつか復讐してやる…無理だけど。

私は私服だと刀が差せないので隊服だ。あまり沖田隊長と長く話していると彼が私服の意味がなくなりそうなのでたこ焼きのお礼を告げ(たくなかったけど)持ち場に戻った。
お祭り気分は味わいたかったけれど…でも。

「…お前、口腫れてんぞ。」
「沖田隊長に言ってくらはいよ。」

皆に指示を出す為に本部に留まっている副長の近くにいられるから全然良い!!!
副長は私の言葉にだいたいのことを察したのか水をくれた。さすがフォロ方さん。


「総悟と一緒に回りたかったか?」
「いえ、浪士相手より怖いんで遠慮します。それに着物じゃ戦えませんし。」
「お前が戦わなくてすむことを祈りてぇとこだな。」
「え?やだ副長。そんな女の子扱いされても嬉しいだけです。」
「違うわ!!!俺達の出番なんてねえに限るって言ってんだよ!」

知ってますよと口を尖らせると副長はため息をついて私の頭をぽんと軽く叩いた。
だから!そういうのが!ときめくんです!!!
この前のデート事件(と私は勝手に呼んでいる)から副長の仕草が優しい気がしていちいちドキドキしてしまう。

少しは近づけたんだろうか?

「何にもねえのが一番だろうが。」
「はい。」
「副長!土方副長!」
「ん?」

離れたところから聞きなれた声がした。
重箱の包みを持った女中のおばちゃんが手をふっている。どうやら私達隊服組の昼食を持ってきてくれたらしい。

「あら、楓ちゃんもお疲れ様。」
「わーい!お昼御飯だ!」
「たくさんお食べ!さ、金剛さんもみんなに配って。」
「はい。」

おばちゃんの隣には最近入ったばかりの女中さん、金剛さんが立っていた。
名字を聞いて最初勝手に強そうなイメージを持っていたんだけどおしとやかな美人で隊士達から人気が高い。

「どうぞ、副長。」
「ああ、悪いな。」

副長におにぎりを差し出す姿を見て絵になるなと思った。ああ、美男美女って何しても目をひく。私がおにぎり差し出したらまるで遠足風景だけど彼女だとなんか違うもんな。

金剛さんはすぐに他の隊士達にもおにぎりを配り始めた。
必要以上に隊士と話しているところを見たことがないな…という私もほとんど話したことない。

「…い、おい。逢坂。」
「もぐもぐ…どんな人なんだろ…もぐ…。」
「おいこら聞いてんのかてめーは!」
「ぐっ…ごほごほごほ!!!何するんですかふくちょ…ごほっ!!!」

いつの間にか背後にいた副長に頭を叩かれておにぎりをつまらせた。
しまった、私としたことが副長の声を聞き逃すとは。

「ったく何むせてんだよ。」

トントンと背中を叩いてくれる副長、おかんですか。

「何ですか?」
「食い終わったら少し回るぞ。準備しろ。」
「え?!二人で!?出店みるんです!?!?」
「馬鹿か!私服組だけじゃなくて俺達も回るんだよ!!!寝ぼけてんなら置いてくぞ!」
「ついていきます!!!」

急いでおにぎりを詰め込み水を流し込むと私は副長についていった。

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