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廊下を小走りしながら目的地へと急ぐ。
手には書類、届ける先は…。
「ふっくちょー!!!!!書類できました!」
襖の向こうにいらっしゃるであろう副長へ向けて声をかける。
するとすぐにスパーンッと勢いよく襖が開いた。そこには鬼が、いや、鬼の副長が立っていらっしゃいまして…あれ、何でお怒り?
「うるせええぇぇぇ!!!でけぇ声だすんじゃねえ!」
「ええ!?!挨拶も返事も大きな声でって教わりました!!!」
「朝から能天気な声を響かせてんじゃねえよ!」
「能天気!?持って生まれたボイスは変えられませんよ副長!」
「あぁ?!生まれ変わって来い!一回死ね!」
「ほんっと理不尽!!!でも好き!!!」
私がそう言うとぐっと言葉を詰まらせて目を逸らす。
小さく息を吐いた後に副長は私に向かって手を伸ばした。
これって…。
「俺の胸に飛び込んでこい的な!?いっきまーす!!」
「違うわ!俺が欲しいのはてめえじゃなくて書類だ書類!!!」
そう言うや否や副長は私の手から書類を奪い取り自室に戻った。
パンッと大きな襖の音をたてて。つまり入ってくるなの合図。
「ふう…仕事もどろ。」
「毎日毎日飽きねえのかィ?」
「あ、沖田隊長。」
仕事場に戻ろうと歩き出した時、後ろから声をかけられた。
相変わらず気配を消すのがうますぎて声かけられるまでいつも気付けない。
「飽きませんよ。副長と会話できる唯一の時間ですもん。」
「あのヤローのどこがいいのか俺にはさっぱりわからねえな。」
「え?わからないんですか?非の打ちどころがないんですけど…。」
「…恋は盲目ってやつでさァ。」
だって見た目はもう間違いなく整ってるでしょ?
さらに強いし、かといって沖田隊長みたいに戦うだけじゃなくて書類とか細かいこともできるし、煙草すってるところとか大人っぽくて素敵だし、真面目だし、ほら、沖田隊長と違って…。
そんなことを思っていたら首筋にきらりと何かが光っていた。
「あれ…何で私刀向けられてるんですか?」
「失礼なことベラベラ喋ってるからでィ。」
「心の声漏れてました?」
「だだ漏れでさァ。というわけで死ね楓。」
「ぎゃあああああ!副長!副長助けてくださいぃぃぃ!!!」
「うるっせえんだよ!てめーら!外でやれ外で!!!!」
私達の会話に耐えきれなくなった副長が出てきた瞬間、私は彼の後ろに隠れる。
と、同時に副長が刀をぬいて沖田隊長の刀を受け止めた。
「あ、じゃあ土方さんでいいや。死んでくだせぇ。」
「おいィィィィ!そんな軽い気持ちで殺されてたまるか!!!」
「あれ、何かこれ守ってもらってる絵に見える!きゃああ!副長がんばって!」
「何はしゃいでんだ!てめえのせいだろうがァァァァァ!」
「ほーれ、がんばれよ。土方ァー。」
通りがかった近藤さんに止められるまで役十分。
私達は屯所の廊下でギャーギャー騒ぐことになるのです。
まあ、ほぼ毎日こんなんですけどね。
つまるところ私、副長に恋をしてます。
好きすぎて毎日愛の言葉をぶつけていますが全て流されている乙女です。
でもいいんです。
このままでいいんです。
そんな彼が好きなんですから。
彼の背中を見つめながら今日も心がほわほわすればそれだけで。
ふと視線をずらせばそこは
本日も青天なり。
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