振り向いてくれなくていい | ナノ


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「副長〜!」
「あ?」

副長の部屋へ入ればそこには書類の山に囲まれている大きな背中があって私はゆっくりと近づいた。両想いになってから私は副長室に入ることが増えた。事務処理をするなんてのは口実で一秒でも一緒にいたいだけなんだけど。

「副長は煙草好きです?」
「何言ってんだ突然。お前今日非番だよな?」
「副長、質問に答えてください。煙草、好きです???」
「…そりゃ好きというか…まぁ。」
「じゃあマヨは?」
「好きなんてもんじゃねえ。そんな二文字じゃ表せねえ存在だ。」
「じゃあ私は?」
「そりゃす…。」
「す?」
「…何言わせてんだてめぇは!!!」

あああああ!惜しい!他のものを例えにだしてどさくさに紛れて好きと言わせる作戦by山崎があっけなく砕け散ったぁぁぁ!!!!
副長は顔を赤くして危なかったとか呟いているけど何が危ないのよ!

「マヨは好きとかそれ以上の存在とかさらっと言ってるのにどうして私には言ってくれないんですか!?!?」
「こんな流れで言うもんでもねえだろうが!」
「なら今!改めて!どうぞ!!」
「言えるかぁぁ!」

仕事の邪魔するなら出ていけと副長室からつまみ出された私は渋々作戦室(という名の休憩室)へと戻って二人に報告をした。

「ああ…失敗しちゃった?」
「これで難しくなりやしたね、一度気づかれたらなかなか言えなくなりまさァ。」
「どうしましょう…どうしましょう…。」
「ま、ザキの作戦なんて当てにするからこんなことになるんでィ。奴の性格をうまく使うんでさァ。」
「?」

そして再び私は副長室の襖を開けることとなった。大きなスケッチブックを片手に。ちなみにこれは斎藤隊長からお借りしました。

「副長、これは何て読むでしょうか!」
「お前さっきから一体…。…あ?」

スケッチブックにはでかでかと【鋤】と書かれてあった。すきと読む農工具のこと…らしい。沖田隊長が教えてくれたけどこんなの知ってるものなの?私読めなかったんだけど。

「そりゃお前す…。」
「おお!さすが副長!知ってるんですね!沖田隊長に問題を出されたんですけど私読めなくて…。副長なら知ってるって仰ってました!何て読みます?」
「そんなの自分で調べやがれ!」
「あれれーもしかして読めないんです?そうですか残念です、副長もわからなかったかぁ。」

名づけてこんな漢字も読めないの?作戦by沖田!!!きっと読めませんなんてプライドにかけて言えないはずと沖田隊長が教えてくれた作戦です。

「読めるに決まってんだろ!」
「じゃあ教えてください!」
「お前からかわれてんだよ!」
「どうして副長が漢字を読めるとからかわれるんです?逆ならともかく。」
「だから…その…。」

どうにか私にやめさせようと目を泳がせながら言う副長に私は段々悲しくなってきた。だってさ、たった二文字だよ。しかも本当に好いてくれていたらそんなの言うの簡単だと思うし何より…伝えたいものじゃないのかな?私と副長は違うけれどそれでも…私は伝えたくてわかっていてほしくてたまらないのに副長は違うのかな。これは私の我儘なの?

「…副長、やっぱり私のことは好きじゃないです?」
「はあ!?」
「だってそんなに言うのを拒むなんて…やっぱり副長は私のことなんて…。」
「うるせえ!好きにきまってんだろ殺すぞ!?」
「なんで脅迫と告白が混ざっちゃうんですかー!!そういうんじゃなくてもっとちゃんと…。」
「っ…ああもう!」

ぐっと私の手を掴んで自分の方へ引き寄せた副長は私の腰に手を回して抱きしめたかと思うと耳元でとんでもない爆弾を落としたのだ。

「好きだ。」
「!!!!!」

低くどこか甘いものを含んだそれは私の脳に届くと一気に全身に広がり体温を上昇させて思考を奪う。何もできずにただされるがままでいる私を抱きしめたままほんの少し距離をとった副長は真っ直ぐに私を見つめた。

「…ほら、お前がこうなることがわかったから。」
「え?」
「俺は公私混同は嫌いだ。」

その言葉に一気に熱が冷める。つまりそれは、私が仕事中でも副長の言葉で浮かれてしまうのが嫌だということか。もちろん仕事中は仕事に専念するし今までも思い出し笑いをしては原田隊長にこづかれていたけれど仕事を疎かにしたことなんてない。でも副長は厳しいから本当にきっちり線引きをしたいのかもしれない。

「嫌いなんだよ。…なのにそんな顔されて何もしないなんて無理だろ。」
「はい?」

腰にあったはずの手はいつの間にか頭の後ろにあってあっという間に副長と私の距離はゼロになった。私今…副長と…ききききキス!?し…して…!?

「頼むから仕事中はやめてくれ。それ以外なら…なるべく要望に応える。」
「は…はい…。」
「早くそのしまりのない顔をどうにかしろ!」
「副長だって真っ赤じゃないですか!!」

恥ずかしくてでも嬉しくて両頬を手で押さえると副長も困ったような顔をして目を逸らした。絶対女慣れしてるはずなのになんですかその反応は!可愛いです!写真撮りたい!
つまりあれですか!自分が公私混同はだめだと思いつつ手出しちゃいそうになるから言わないってことでファイナルアンサー!?何それ私死にそうです。

「そうでさァ、土方さん。まさか仕事中にあんたが部下に手だすとは…切腹もんですねェ。俺は嬉しいですぜ、自ら真選組副長としてとるべき態度をとらずただの男になって堕ちてくれるなんざ。介錯は任せてくだせェ。」
「…副長、さすがにフォローできないです。」
「総悟に山崎!?お前らいつからそこにいた!?」

私も全く気が付いていなかったけれどいつの間にか襖を少しだけ開けて二人がこちらを覗き込んでいた。多分、いや確実に見ていたんだろう、事の顛末を。

「土方さんが部下に告白、キス、赤面…あーあ色んな写真と動画が撮れたなァ。さてこれどうする?ザキ。」
「え?いや、俺にふらないでくださいよ…。」
「沖田隊長!買います!」
「お前が買ってどうすんだ!総悟さっさとそれを消せェェ!山崎ィィィ!データ消去させろ!させないと切腹だァァァ!」
「何でぇ!?」

さっきまでの甘い空気は一瞬で消え去ってまた慌ただしい日常になってしまったけれど、私は欲しかった二文字以上のものを貰えてその日なかなか顔の緩みがとれなかったのでありました。



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