振り向いてくれなくていい | ナノ


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ダッシュでかき氷を買って戻ろうとした時だった。

「ねえ、君さ。俺達と一緒に祭りまわらない?」
「え?」

肩に手を置かれて振り向くと男の人が二人、ニコニコしながら私を見ていた。
これ…もしかして、ナンパ!?!?!?
私初めてナンパされたんだけど!沖田隊長に自慢しなきゃ!

「すみません、友達が待っているので。」
「かき氷持ってるもんね。三つ持つの大変でしょ?俺持つよ。」
「え?いや、あの。」
「女の子三人できてるのー?」


私の手からひょいとかき氷を奪うと彼らは話を続ける。あ、これ勘違いしてるな。悪いから早く説明しないと…。

「いえ、女二人、男二人ですので。」

そういってかき氷を取り返そうと手を伸ばすとそれは私の手に収まる前に地面へと吸い込まれていった。

「ちょっ!!」
「あ、ごめーん。落としちゃった。弁償するからさ、一緒に買いに行こうよ。」

悪びれる様子もなく男は私の手を掴むとぐいっと引いて歩き出す。もう一人もにやにやしながらついてきた。

…ちょっと悪質なんじゃない?これはお仕置きが必要なんじゃないの?いくら着物でも一般市民に負ける気はしない。

「あの…。」
「イチゴとメロンとブルーハワイだよねー。あ、でも買う前にさ、少し俺達とお話しようよ。あっちの陰で…。」
「そうそう。ゆっくりさ。そしたらかき氷買ってあげるから。」
「マヨネーズ味で。」
「うんうん、マヨネーズ…?は?」

突然入り込んできた低い声に男の一人が思わず反応した。私も目を丸くして声がしたほうを見る。

「おい。誰に許可もらってそいつといるんだてめーら。」
「なっ…なんだよ。お前。」
「あ?俺か?」

スタスタと歩いてくるその迫力といったらもう。子供泣くからね、あんな怖い顔してたら大泣きだからね。

「おまわりさんだよー?その手、放そうね?」

警察手帳をひらひらと見せつけて副長は私を男からひっぺがした。優しそうな口調と笑顔に一瞬騙されそうになるけど、副長、目が笑ってません。めっさ怖い。お兄さん達足が震えてる。


「お前らそうやって女を連れ込もうとしてんだろうが…そんなことしてみろよ。」

――豚箱の前に病院にぶちこまれることになるぜ

刀に手をかけてそんなこと言われて。あの瞳孔が開いた目で睨まれた人間が果たして罪を犯せるだろうか、否。

「副長、もう勘弁してあげてください。彼らもらす五秒前です。」
「けっこうじゃねえか。犯罪者が増えなくてすむぜ。おら、行くぞ。」
「あ、はい。」

歩き出した副長についていく。またかき氷買わなきゃ…というかこれチョコバナナも買わされるパターンだよ。時間けっこうたっちゃった。

「お前何あんなのに捕まってんだ。」
「人生初のナンパに少しだけ舞い上がりました。」
「バカか!…ってバカだったわ、悪い。」
「ちょっと謝らないでくれます!?」
「ナンパなんかに浮かれてんじゃねぇよ。仕事中だろうが。」
「知ってますよ。少し悪質だったんでしめてやろうと思ってました。」
「…まぁ、その恰好じゃナンパも仕方ねえか。」
「え?」

ちらりとこちらを見た副長はすぐに前を向いてしまったけれど。それ、褒め言葉だよね?今ならその…かっ…可愛いって思ってくれてるとか!?!?

「すぐに戦える恰好じゃねえんだ。変なのに絡まれたら俺か総悟を呼べ。」
「ふくちょぉぉぉぉぉぉ!」
「ってぇ!何突進してきてんだてめえは!!」

思わず彼の腕に手を絡めて強く抱き着いた。だって!あの副長が!
おそらく少しは私のことを女の子に見てくれたんですもん。

「そんなに着物とお化粧似合ってます?ひゃっほー!」
「うるせぇ!いつもと違うって思っただけだ!叫ぶな!」
「叫んでるの副長ですよ。周りが驚いてます。」
「っ!…ちっ。」

副長は私を腕から引きはがすとどこからか小さな包みを取り出してこちらに放り投げた。

「?」
「簪やら髪飾りは使えなくてもそれはいけんだろ。」
「え?」


包みをあけるとトンボ玉のストラップが入っていた。確かに携帯は常に持ち歩いている。ストラップの飾りも控えめで邪魔にならなそうだ。

「これ…!」
「あんだけ見てたんだ。ほしかったんじゃねえの?」
「ほしいとは思いましたけど…。」

それよりなにより、副長が私に贈り物をしてくれる。それだけでもう…。


「お前何泣いてんだよ!?!」
「だって…ふっ…副長がぁぁぁ…。」


嬉しくて嬉しくて、涙が止まらなかった。たとえ仕事でもこんな風にお祭りに一緒に行けたり、何かをプレゼントしてもらえるなんて。副長を好きになったばかりのあの頃の私に想像できただろうか。


副長。
私、少しはあなたの中で変われてますか?
部下として認めてもらって、さらに女の子としても見てもらえてますか?

頑張れば、いつか、部下以上になれるのかな?


そう思いながらボロボロ泣く私の目元を副長の指が触れる。
その感触どきりとしたのは一瞬で。

泣いている私と慌てて私に触れる副長をそれはそれは悪魔の微笑みで見つめていた沖田隊長に気づいた私達は冷や汗と動悸が止まらなくなるのでありました…。

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