振り向いてくれなくていい | ナノ


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「兄上様!!見てください。素敵なお庭!!」
「落ち着け、そよ。走らなくとも庭は逃げぬ。」

松平様から話を聞いたあの日から数日。私たちは豪華な旅館に到着していた。広いというか広すぎる庭はどこまで続いているのかわからないしここの手入れ大変なんだろうなとぼんやり考えていると姫様が隣に来ていた。

「楓ちゃん!今日は夏祭りがあるんですよね!色々回りましょうね。」
「ひめさ…そよちゃん。楽しみですがたくさん人がいるから私の側を離れないでくださいね。」
「はい!」

姫様ことそよちゃんには出会いがしらに「友達になってください!!」と言われた。名前で呼んでほしいとも極力敬語を使わないでほしいとも。いえいえ、私も大人ですしさすがに姫様を名前で呼ぶなんてそんなことと思ったけれどすかさず将軍様から頼むと頭を下げられかけたら食い気味でハイ喜んでー!って叫ぶしかないよね大人ですし。

友達というよりは妹みたいだけど女の子の友達が少ないから嬉しいと笑顔で言われた時は自分も嬉しくなってしまった。今日は精一杯彼女に付き合いたいと思う。

夏祭りに行く前にまずは温泉に入ろうという話になって私はそよちゃんと大浴場に向かった。といっても庶民がいるわけもなく貸切状態だ。そよちゃんに聞かれ普段の真選組の様子や面白かったことなどを話すと彼女は楽しそうに聞いていて今度友達に話すと言ってくれた。それがまさかの神楽ちゃんで驚いたが共通の知り合いがいるとさらに話が弾むもので今度三人でお茶をしようということになった。もちろん城内だろうけど。

お風呂から上がり私は浴衣を着ることにした。刀をさせなくなるが隊服を着ると目立ってしまうし一応小刀を隠し持つことにした。あとは他の三人に任せるしかない。

「楓ちゃん!ここにメイク道具がある!!」
「メイク?そよちゃんしたいの?」
「少し…興味が…。」

私はメイク道具からチークやグロスを選び少しだけそよちゃんに化粧をしてあげた。それにしてもこのお肌!!若いっていい。

「楓ちゃんもしてみて??」
「え?私も??」

そよちゃんに促され久しぶりに化粧をしてみることにした。普段はほぼすっぴん。潜入捜査など必要な時以外したことなんてない。だって汗で落ちちゃうし。

「ほらほら!土方さんもドキッとするよ!?」
「ぶはっ!!!!そそそそそそよ姫様ぁぁ!?なんで!ひじっ!え!?副長!?なんで!?」

水を飲もうとしていた私は思い切り吹き出した。なんでこの子知ってるの!?やだ怖いどういうことぉぉぉぉ!?

「沖田さんが『あの雌豚は土方さん以外見えてないんでさァ』って仰ってましたよ?」
「あのドエスーーーーー!!!!」
「だから、ね?」

笑顔の姫様の言うこと断れるわけないじゃないですか。大人ですもん。







さすが高級旅館はおいてある化粧品も違いまして。下地からきちんと化粧したのは久しぶりで鏡に映る自分が一瞬誰だかわからなくなるぐらい。浴衣も普段着ている安物とは違う。そよちゃんが用意してくれたものらしい。生地が違うんですよ生地が。つまりね。


「…。」
「…へぇ。馬子にも衣裳ですねィ。」


待ち合わせしていた旅館の入り口には副長と沖田隊長がいた。将軍様は夏祭りには行かず部屋でゆっくりとするらしい。近藤さんも待機するそうだ。つまりそよちゃんの護衛に私と副長、沖田隊長がつくことになる。

それにしても…風呂上りの副長素敵すぎるから。
ねえ、本当色気がすごいから。少し湿った黒髪がうなじに張り付いてもうこれ、もう!これ!!

「あいたっ!」
「ほら、さっさと行け。バカ楓。」
「なんでいきなり叩くんですか!!」

副長に見とれていると後ろから沖田隊長に叩かれた。もう女子相手の強さじゃない。

「さっき褒めてくれたくせに。」
「馬子にも衣裳って言っただけでさァ。褒めたに入りやせん。」
「楓ちゃん、素敵ですよね。土方さん?」
「…ほら、行きますよ。姫様。」
「もう!土方さん!」

叩かれた頭をさすりながら、副長の背中を見つめた。そよちゃんの言葉に対する返事はなかった。もちろん普段通りというか副長が褒めてくれるなんて思っていないけれど。

やっぱり私は部下以上にはなれないんだろうか。この前の金剛さんの一件で部下として認められて嬉しかったけど…それ以上には進めないんだろうな。

なんて暗いことを考え始めたとき、また頭に一撃を食らった。

「いたああ!沖田隊長!脳細胞が!死滅します!」
「安心しろィ。手遅れでィ。」
「安心できる要素ゼロォォォ!」
「あのヤローは女の褒め方なんて知らねえんでィ。」

そう言って沖田隊長は二人を追うために足早になった。その言葉を飲み込むのに少し時間がかかった私は慌てて三人を追う。

そうだよね。副長はそんな人だ。わかってるはずなのになぁ。いちいちへこんでいたら身が持たないよ。
遠くから聞こえる祭囃子に少しずつ気分が盛り上がってきた。

「部下以上に…ならなきゃね!!」

聞こえないように呟いて私は三人の中に入っていった。


続く

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