振り向いてくれなくていい | ナノ


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「やきそば〜りんごあめ〜わたがし〜。」
「変な呪詛唱えてる暇があったら周り見やがれ。」
「見てますよ。」

たくさんの人で賑わう道を副長と歩く。といっても人が多すぎて横に並ぶどころか一列で歩いている。何これ。ドラ○エ?

「ったく人が多いな。」
「そりゃそうですよ。大きなイベント、たくさんの出店。人が集まるのは当たり前です。」
「それにしても…。」

――バーーーーンッ!

「「!?」」

耳をつんざくような爆発音が響いた。
音の方を見ると黒煙が上がっている。

「副長!」
「戻るぞ!!」

黒煙が上がっているのは対策本部がある方向だった。
周りに一般市民はあまりいなかったけれどまさか…。

走っていると横道から飛び出してきた沖田隊長と一緒になる。

「沖田隊長!」
「近藤さんは!?」
「あの人は本部だ!」

副長の返事に沖田隊長が舌打ちをして走る速度を上げた。
私もなるべくそれについていく。

人ごみをかきわけて何とか辿りついた本部は…

「無事か…。」

副長が安堵の声を漏らした。
本部から少し離れた場所から黒煙が上がっているがそこには特に何もない。
私達を見つけた山崎さんがすぐに駆け寄ってきた。

「副長!爆発物が本部のテーブル下から見つかりました!」
「誰が見つけた?」
「神や…。」
「沖田隊長!!!自分が爆発物を無事発見、処理する時間がなかったので誰もいないあいたスペースに移動させましたァァァァ!!」

どこから現れたのか神山さんが沖田隊長の前に敬礼して立っていた。
その勢いに私は思わず一歩下がってしまったけれど沖田隊長は動じずそれどころか神山さんに一蹴り入れていた。

「おーよくやった。ついでにお前も爆発してきてくれよ。頼むから。」
「沖田隊長ォォォォ!自分は散るのは沖田隊長と共に戦場でと決めてあります!!」
「何道連れにしようとしてくれてんだよ、一人で散れ。なんなら今すぐ散れ。」

おお…あの沖田隊長をあんなに苦しめられるのは彼しかいない。復讐は彼を使おう。
それにしても神山さんお手柄だな。

「まさか俺達を直接狙ってくるとはな…。」
「今どうやって設置したのか調べてます。もうすぐ爆弾処理班も来るのであれには近づかないでくださいね。」

爆発物が設置されていたというテーブルを眺めながら副長が呟く。山崎さんは報告をすませるとテーブルを貸してくれているという今回のイベント主催者の所へ走って行った。いつ爆発物が設置されたのか調べる為だろう。

「楓ちゃーん。無事かーい?」
「あれ?おばちゃん!」

女中のおばちゃんが手をふりながら私に向かって声をかける。本部のテント下にいた。
どうやらまだ帰っていなかったらしい。金剛さんも一緒だ。
私は小走りで二人のもとへ行く。

「爆発があったっていうんでね、気になって戻ってきたけど大丈夫そうだね。」
「うん。危ないからおばちゃん達は屯所に戻って?」
「そうするよ。」

おばちゃんは空いた重箱を抱えて歩き始めた。
金剛さんも荷物をまとめている。

「金剛さんも気をつけてくださいね。」
「はい。ありがとうございます。」

そう言って立ち上がる彼女を見送ろうとした時だった。


――バンッ!!!!


「「!!」」

黒煙が上がっていた場所から再び爆音が響いた。
どうやら二回爆発が起こる仕掛けになっていたらしい。
爆風になんとか耐えると副長と沖田隊長の姿が見えた。二人ともこっちに向かっている。

「危ねえ!!!」

設置していたテントが爆風に煽られて大きく揺れたのはわかっていた。
鉄柱があるし倒れることはないと思っていたのは間違いだったらしい。
ぶわりと大きな布地が外れ、屋根部分の鉄材がガタンと外れるのがまるでスローモーションのように見えた。
と、同時に視界が黒で覆われる。

ふわりと体が浮き後ろへ向かって倒れていく。
体に衝撃はあるのに痛みは全くなかった。

「っ…?」
「何ぼさっとしてんでィ。」
「沖田隊長?」

目を開けると沖田隊長の上に倒れていた。どうやら私を抱きこむようにして飛んでくれたらしい。
後ろに目をやるとさっきまで立っていた位置にテントが倒れ込んでいた。

「大丈夫か?」
「はい…ありがとう…ございます。」

声がした方に目をやるとすぐ横に自分達と似たような体勢の副長と金剛さんがいた。
離れた場所にいたおばちゃんも慌てて駆け寄ってくる。

「金剛さん!大丈夫かい!?」
「…まだ危ないかもしれねえから二人とも誰かに送らせる。少し待っててくれ。」
「わかりました。」

そう言うと副長は立ち上がり近くにいた隊士に一言二言告げる。二人は隊士に車で送ってもらうことになるようだ。

「総悟。逢坂。あれは爆弾処理班に任せて山崎の報告を聞き次第動くぞ。」
「へいへい。」
「は…はい。」

沖田隊長に腕を引かれて立ち上がるとすでに背を向けて歩き出した副長に返事をする。
周りはバタバタと慌ただしい。これではイベントも中止だろう。

「楓。」
「はい…。」
「大丈夫かィ?」
「え?沖田隊長が助けてくれたんじゃないですか。ありがとうございます!」

改めてお礼を言うと隊長は服についた土を払いながら言葉を続けた。

「出来の悪い部下を庇うのは当然のことでィ。」
「沖田隊長が優しい…明日は雨…いや、今日からか…。」
「お望みなら今すぐ斬り刻むか爆発物にくくりつけてやろうか?」
「やだなー!沖田隊長が優しいのはいつものことですよねー!!」

刀を抜こうとしている沖田隊長の手を押さえながら慌てて告げるとチッと小さく舌打ちが聞こえた。え!?なんで!?

「出来の悪い部下の部分を楓に変えてもう一度言ってもらえますか?きゅんってしそうです。無駄に顔がいい沖田隊長に言ってもらえたらきゅんってしそうな気がします!」
「やっぱり斬り刻まれてェらしいなお前は。…どうせあのヤローに脳内変換して聞くんだろうが。まっぴらごめんでィ。」
「ばれた!何故!?」

ふざけたやりとりに笑っているとこつんとおでこをでこぴんされる。
思わず目をぱちぱちさせると沖田隊長は私の腕を掴み歩きだす。

「隊長〜??」
「うるせ。」

ずんずん歩いた先は出店のある通り。すでに市民は避難しているようで誰もいなかった。

「大丈夫かってーのはそういうことじゃありやせん。」

出店の裏に回り込むと沖田隊長は腕を解放してくれた。と、同時に向かい合うことになる。

「あれを見て何も思わないほどお前は冷静な奴じゃねぇだろうが。」

隊長の言葉に胸がざわめく。瞬間、脳裏をよぎるのは金剛さんを抱きかかえて庇う副長の姿。守られていた彼女の表情。あれは確実に副長に惹かれていた。

「私は…隊士ですよ?女中とはいえ一般市民を優先して守るのは当然のことです。副長なら間違いなくそうします。むしろ隊士として認めてもらえているから私ではなく彼女を…。」
「嘘ついてんじゃねえ。泣きそうなツラしやがって。」
「っ。」

わかっていたはずだ。
私は隊士。それ以上でも以下でもない。
自惚れていたのかもしれない。隊士だから副長の側にいられるのに。他の女の人より一緒に時間を過ごせただけなのに。
勝手に一番近くにいた気がしていた。

「私は…隊士ですから。」
「…。」

同じ状況にあっても守る対象は隊士より一般市民。
わかってるはずなのに。

「本当は、あのヤローに守ってほしかったんだろうが。」

なんでそんなこと言うんですか。
なんでわざわざ言葉にするんですか。
隊士だからとか理由つけなきゃ納得できないのに。
苦しいだけなのに。


「隊長。」
「ん。」
「隊士ですけど…私…っ。」

景色が歪んだのは一瞬だった。
すぐにぼろっと涙が地面に落ちる。

どうして、あの時。
副長に守られたのは。

「私はっ…副長に…。」

私じゃなかったんだろう。

「助けてほしかった…。」

ぐいっと後頭部に手を回されて隊長の胸に引き寄せられる。

「ブッサイクなツラは見なかったことにしてやらァ。」
「ありが…とうございま…。」

最後の方は言葉にならなかった。

せめてあの後「大丈夫か?」の一言があったら違ったのか。すぐに歩き始めた後ろ姿にトドメを刺された気さえする。

近づいていると思っていた…ことが全くの勘違いだと。

私はまた思い知らされた。

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