振り向いてくれなくていい | ナノ


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急いで自室に駆け込んだ。
途中で沖田隊長と山崎さんにすれ違ったけれど軽く頭を下げて通り過ぎた。きっと変に思っただろうけど勘の良い人達だ、わかってくれるはず。

「私…何言ってんだろ。」

襖を閉めると部屋の真ん中に座りこんだ。
迷惑でもなんでも好きなもんは好きだと言ってるくせに見返りはいらないとか。
いや、本心なんだけど矛盾してると思われても仕方ない。見返りいらなかったら普通こんなにしつこく伝えないじゃん!結局どこかで求めてるのかな…自分でもよくわからない。
んでもって命に変えても守るとか女が言う言葉じゃないよ…。

深いため息をついて膝を抱えた。

副長からたくさんのことを教わった。
仕事も剣も…恋も。
好きになること、喜びも悲しみも。誰かをこんなにも思えるってことも。
でもお願いだから

「嫌いになる方法とか、忘れる方法とか…教えてほしかった。」

ぽたぽたと涙が落ちて隊服に染みを作っていく。
膝にぎゅっと顔を押しつけた。
きっと多分、これからもここには居られるだろうけど…もう好きだと言うのはやめよう。そのために前を見ていてほしいと言ったんだ。私がもっともっと強くなって、副長の前に立てるようにならなきゃ。

「逢坂。」
「!?」

部屋の外から聞こえてきたのは副長の声だった。私は急いで涙を拭うとはいと返事をした。躊躇いがちに開けられた襖の向こうには気まずそうな副長が立っていて私を見ると一段とバツが悪そうになる。泣いていたのがバレたんだろう。
副長は部屋に入ると襖を後ろ手に閉めて私の前に座った。

「副長?あの…どうかしました?」
「お前そんなに俺が好きなのか。」

返ってきた言葉が予想の遥か上を越えてきたので私は口をあけたまま黙ってしまった。
今、なんと?
何か恥ずかしい台詞聞こえてきませんでした?
副長も言ってから気付いたのか目を逸らして頭を掻いている。

「何でそんなこと聞くんですか…もう何度も何度も言ってるのにまだ…。」
「違う。…何で俺なんだよ。」

副長の表情はどうしてこんなにも思われているのかが不思議でしょうがないといったものだった。多分心の底から思ってるんだろう。
何でって言われても。
そんなのに理由なんてないでしょう?

「私だって思ってますよ。ほんとおかしいですよ。この世に男なんて星の数ほどいるのに。優しい人も格好いい人も…私を好きになってくれる人だってきっと。」

ははっと空笑いしながらそう答えた。

「お前…。」
「私が友人の立場だったら、さっさと他の男にしろって言います。それぐらい不毛なこととは理解してますよ。」

当たり前じゃないですか。何度諦めようとしたと思ってんですか。

「なのになんで。なんで…副長じゃっ…なきゃだめなんですかぁ…。私が聞きたい…ひっくっ…ですよ!!」

もう涙が止められない。ぼろぼろ泣いてひどい顔になってるだろう。
拭っても拭っても涙が止まらなくて、鼻水まで止まらなくてもうどうしていいのかわからなくて下を向いてひたすら手で顔を擦っていた。
すると突然手首を掴まれてぐっと引き寄せられる。

「なにして…んですか…?」
「…うるせえ。体が勝手に動いたんだよ。」

胡坐をかいていた副長の上に乗るように引っ張られ私の顔は彼の肩に押さえつけられた。
頭に副長の大きな手が乗っている。


「副長?」
「俺は…お前の言った通りいつ死ぬかわかんねぇ。」
「はい。」
「そんな俺が誰かを側に置くなんて許されねえだろ。普通。」
「誰が許さないんですか。ちなみにそれ、いつ死ぬかわからない私にもあてはまりますけど。私も誰かと一緒になっちゃだめってことですか。」
「それは…。」

言葉につまる副長の肩を押し、彼の目の前に座る。

「そりゃ好きな人とはおじいちゃんおばあちゃんになっても隣にいたいです。でも今この瞬間一番近くにいて支えたい。その目に一秒でも長くうつっていて頭のなかに一ミリでも居場所を作りたい。それができたらきっと明日副長がいなくなっても…歩いていけます。副長が戦い続けろと仰ればそれに従います。」
「俺は死なねえんだろ?お前が守るから。」
「え?」

副長の言葉に今度は私が言葉をつまらせた。
さっきの私の言葉を受け入れてくれたってこと?
それじゃまるでこれからも近くにいていいみたいだ。

「女のお前にそこまで言わせてよ…男の俺が腹くくんねえわけにいかねえだろうが。」
「えっと、え?どういう意味…?」

諦めたような表情でため息をつくと副長は次の瞬間とんでもなく優しい顔になる。

「振り向かなくていいんだろ?」
「副長?」
「お前が俺の前に常にいるらしいからな。今まで通りの自分でいいわけだ。」
「あの…。」
「勝手に視界からいなくなったら承知しねえぞ。」

自分の状況がよくわからない。
つまりこれはどういうこと?

「副長…。」
「何だ。」
「私…側にいていいんですか?」
「ああ。」
「好きでいていいんですか?」
「…ああ。」

夢じゃないんだよね。
私、副長に受け入れてもらえたんだ。
これからも一緒にいられるんだ。
諦めなくて…いいんだ。

「っ…。」
「なっ泣くな!何で泣くんだよ。」
「嬉しいからに…決まってるじゃないですかああ!!」
「ばっか!鼻水つけんな!」

勢いで副長の胸に飛び込んだのにすぐに額に手を当てられ押し返される、ひどい。
鼻水ぐらい受け止めてくださいよ、男なら。

「私…私これからも精進します!剣も、女も磨きますっ!」
「…ああ。」
「いつか、副長に女としても認められるように!部下でも女でもナンバーワン狙いますうううう!!!」
「ああ…って今お前なんて?」

優しく相槌を打ってくれていた副長がガクッと体を揺らした。
素早く立ちあがった私を目を丸くして見ている。

「そうと決まれば非番のうちに少し女性らしくなれるよう妙ちゃんのとこで勉強してきますね!」
「待て待て!!お前俺の話聞いてねえの!?ってか女らしさ学ぶ相手間違ってんから!攻撃力倍増させに行くつもりかお前は!!」
「大丈夫です!妙ちゃんは女らしいですよ!!局長以外!」
「いやそうでもねえだろ、他にも被害者たくさんでてんだろ!ダークマターは劇物認定だぞ!!!って違う!お前俺がさっき腹くくるって言ったの聞いてねえのか!?俺もお前が…。」
「副長!」

私の呼びかけに副長は話すことをやめて私を見上げている。

「待っててくださいね!!」

そう言った私は久しぶりに心の底から笑えたと思う。
だって副長も微笑んでくれたから。

まあおいおい伝えりゃいいか…と小さく副長が呟いていたことに私はその時気付けていなかったんだけど。
妙ちゃんの所へ行こうとする私を必死に止め(抱きしめるとか反則です)、側にいろと殺し文句を言い(待っていたのは書類整理でした)、夕飯を食べに連れて行ってくれた(のちに沖田隊長と山崎さんに私を泣かせた理由を問いただされるのが面倒だっただけ)ので私はもう今日死ぬんじゃないかって何度も思いました…あれ、作文?


副長、これからも毎日貴方にこの気持ちを伝えます。
いつかあなたの前に行って、追いかけてもらえるようになるから。

振り向いてくれなくていい。

私は今日も幸せです。




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