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「大丈夫か?!」
「原田隊長!」
建物の陰に隠れるように八番組の隊士が何人か立っていた。
腕を押さえて怪我をしている人もいる。
ちらりと敵のいる方を覗くとそこには五人、浪士の死体が転がっていた。うちの隊士にやられたのだろう。
「あっちはあと五人。剣の腕はたいしたことなさそうなんですが銃を持っていて…こっちも撃たれました。」
「ちっ。どうしたもんか…。」
「原田隊長。私が出ますので回りこむようにして裏から叩いてください。この建物の中に入ってあっちに抜けられるはずです。」
私の意見にその場にいた全員が目を丸くした。
そして全員が反対する。
「何言ってんだ!蜂の巣にされてえのか。」
「そうですよ、逢坂さん、危険すぎます。」
「でも誰かが目をひかないと。私なら女ですし、向こうも怯むかもしれません。隊長達が向こうにギリギリまで近づいたら携帯に合図ください。」
「しかし…。」
「ほら!逃げられたらどうするんですか!応援もきますし大丈夫ですよ。銃はこの距離ならそうそう当たりませんて。」
私はそう言うと隊長を無理やり建物のほうへ追いやった。動ける隊士はそれに続く。
体も小さいし、動きも素早い、私がやるのが適任だ。
「きっと副長もそう言うもん。」
私は注意しながら敵の方を覗き込む。どうやらまだそこに留まっているらしい。こちらの出方を窺っているのだろう。
ごくりと唾を飲む音がする。ドクンドクンと心臓の音が聞こえる。
緊張するのは当たり前だ。でも今ここで私がやらなきゃ…被害が広がるだけだから。
携帯が一度だけ振動したのを確認し、思い切り飛び出した。
突然女が向かってきたのに慌てたのかわけのわからない方向へ発砲する敵を見るとどうやら作戦はうまくいきそうだ。
混乱した彼らは一気に私の方へ向かってくる。もちろん銃はかまえているのだが走っている相手にそうそう当てられるもんでもない。
そうこうしているうちに後ろから原田隊長達が現れ、彼らはさらに混乱したようだ。
私は刀を抜くと一番近い浪士に斬りかかる。
反応が鈍い、どうやら普段銃以外使っていないようだった。
「よくやった楓!」
「あとでたっくさん褒めてくださいね!」
原田隊長と背中合わせになり、一言だけ交わす。
そのまま互いに目の前の相手に斬りかかった。
――パンッ
「っ!?」
乾いた音を聞いた瞬間、左腕に熱を感じた。
肩の部分に銃弾がかすったらしい。
(どこ!?)
弾の軌道をたどると少し離れたビルの屋上のようだった。
原田隊長もそれを確認したのか他の隊士に向かわせる。きっと応援部隊にも連絡がいくだろう。
「楓!」
原田隊長が私を庇うようにしてその場にいる浪士を倒し、ひとまず私達は物陰に避難した。
原田隊長がスカーフをとり、私の肩を止血する。
かすっただけのはずなのに出血が多くすぐにスカーフは赤く染まった。
「大丈夫ですよ、かすり傷です。」
「馬鹿、あとから熱でんだよ。それに毒でも塗られてたらどうすんだ。早く屯所に…。」
「原田!楓ちゃん!!!」
声の方を向くと慌てた様子の山崎さんが目に入った。
同じパトカーから沖田隊長、そして副長もおりてくる。
「山崎!丁度いい、とりあえず怪我人運ぶぞ!」
「あいよ!」
そう言うや否や山崎さんは怪我のひどい人から肩をかしてパトカーへ連れていく。
「楓。大丈夫かィ?」
「沖田隊長。大丈夫です、かすり傷ですよ。」
「ばーか。撃たれてんだろうが。」
「いたああああああああ!」
おかしい!大丈夫かと心配してくれていたはずなのに何故か隊長は私の傷口をぐりぐりと押してくるんですけど!!
「何してんだ総悟!」
「こいつが強がってるんでからかっただけでさァ。」
「副長!お疲れさまです。」
副長は沖田隊長の肩を掴みぐいっと私から離してくれた。
話しかけるのが久しぶりで緊張するけれど今は仕事だ。まずは報告をしなくては…。
私は現場に到着してからの状況を説明すると副長と沖田隊長は目を丸くした。
…主に私がおとりになった部分で。
「へーやるじゃねえか、お前俺の隊に…。」
「お前…。」
「は…い…?」
沖田隊長の言葉を遮るように副長が口を開いた。
しかしその言葉の続きが聞こえない。というか視界もぼんやりして目の前にいるはずの副長がよく見えない。それだけじゃなかった。足が震えているし手の感覚があまりない。ここまできて漸く自分の中に何かが起こっていることに気が付いた。そして、気づいたと同時に意識が遠のく。
自分の名前が呼ばれていた気がした。
でもその声が誰のものか、もう私にはわからなかった。
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