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あれから少しだけ副長と距離を置くことにした。
朝の恒例告白もやめた。書類を届けるのもやめた。つまり以前のような関係に戻った。
副長から書類整理してくれとも言われていない。
「あっけないもんだなー。」
「前見て歩け、転ぶぞ。」
原田隊長に言われた瞬間、石に躓いた。
さすがに転ばないけどね、仮にも真選組ですし!
「お前、副長とケンカでもしたのか?」
「いいえ?何も。」
「じゃあ何でこんなことになってんだよ。」
「こんなこと?」
「毎朝告白もしなくなるわ、書類届けるのやめるわ、こうしてぼーっとしてるわ。」
市中見回り中のためお互い視線を合わせることなく町や人に意識を集中しているが会話内容を聞いたら税金泥棒と言われてもおかしくない内容だ。
「押してダメなら引いてみろって言うじゃないですか〜。」
「そりゃそうだが…。なんかあったんだろ?」
「え?」
「以前のお前に言われたらなるほどで終わったんだけどな。なんていうかお前…傷ついたみたいな顔してっからよ。」
「原田隊長…。」
やはりお坊さんか何かなんじゃないかと疑いたくなる発言に思わず隊長の方を見てしまった。
すると彼も何か感じたのか言葉を紡ごうとした瞬間、携帯の着信音に遮られる。
「もしもし…ああ、何?!…わかった。場所は?…ああ、俺たちが近い。現場に向かう。」
「何かあったんですか?」
「この先の路地で八番隊のやつらと攘夷浪士が戦ってるらしい。加勢する。」
「わかりました!」
原田隊長は走りながら携帯をいじり電話をする。
「おい、山崎。かぶき町付近で八番隊が応戦中。俺らも加勢するが誰かだしてくれ。ああ、この前お前が張り込んでた場所らへんだ。頼んだ。」
彼は電話を切ると走る速度を上げた。私もそれに続いた。
「副長!かぶき町で浪士達が暴れてます。八番隊の見回りしてるやつらが応戦してます。今原田、逢坂も向かっています。」
「何人だ?」
「八番隊の報告によりますと十人かそこらなんですが…やっこさん銃器持ってるみたいで。」
「ちっ。俺らも出るぞ。総悟呼んでこい!」
「あいよ!」
火をつけたばかりの煙草を捨て上着を羽織る。
落ち着け。
何で手に汗なんてかいてんだ、俺は。
「…動揺?」
何を動揺するっていうんだ。日常茶飯事じゃねえか。
あいつが…応戦することだって、当たり前のことだ。ここにいる以上女だからと特別扱いはできねえ。
いつ命を落とすかなんて誰にもわからない。
そんなことはわかってんだろ。
なのに、
あのアホ面を、気の抜けた声を、思いを伝える時だけ見せる真剣な顔を。
もう見れないかもしれない。
何でよりにもよって今なんだ。
何であいつとまともに会話もしてない今なんだよ。
急に俺に何も言ってこなくなった…原因はわかってる、あの時だ。
何か言わなくちゃいけねえ気がしてんのに何を言えばいいのかさっぱりわからなかった。
誤解だともいえない。謝るのも何か違う。
そんなことを考えていたら一週間、二週間とたっていて、さらに話しかけづらくなっていた。
―いっそ自分が死んじまったほうがマシでしょうねィ。あいつがあんたを諦めるのは、あんたから解放されるのは自分が死んじまった時でさァ。―
「んで今そんなこと思い出すんだよ…。」
ギリッと音がしそうなくらい奥歯を噛みしめて俺は屯所を後にした。
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