※モブの女の子が出てきます。苦手な方はバックしてください。






「戸城、一人か?」
「斎藤君。」

教室で一人課題をしながら待っていると斎藤君が廊下から声をかけてくれた。どうやら自分より先に総司が教室を出たはずなのに私が一人で居るから不思議に思ったらしい。

「総司はね。なんか呼び出された。」
「…女子か。」
「うん。相変わらずね。すさまじい人気だからね。」
「気にするな。あいつの相手はお前以外務まらない。」
「…喜んでいいところなのかな。」
「よ、喜ぶところだ!」
「斎藤君!真っ直ぐ私の方を見て言って!目を泳がせないでお願い!」

思わず彼の腕を掴んでぶんぶん振ってしまったよ。だってそこは向こうが力強く私を慰めるところじゃない?彼氏が他の女に告白されにいったら普通は辛いじゃん?
…普通は。

「そんなに不安なこともないだろう。」
「まぁ…なんといいますか。」

そんな会話をしているとバタバタと廊下を走る足音が近づいてきた。これは多分総司だ。私を待たせているから急いでいるにしてもいつもこんなに焦っているだろうか?


「みつちゃん!!あれ、一君?みつちゃん、今度は一君と浮気なの?」
「誰がするか。」
「斎藤君、誰が浮気なんてするかって細かく言って…。誰がこんな奴とするかって聞こえて地味に痛いから。」
「ち…違う!別に戸城が嫌なわけではなく!浮気などそんな不誠実なことをするわけがないと…。」
「とりあえず早く帰ろう、二人とも。ほら、急いで。」
「え?」

総司が私のカバンにてきぱきとノートや筆記用具を詰め込んでいく。いつもなら私が斎藤君と浮気?何それおいしいじゃない、もっとやれぐらいの表情で見てくるはずなのに今日はいつもと違うようだ。

「総司、どうしたの?」
「総司…お前何かあったのか?」
「その話は後で。とりあえず早く帰ろ…。」
「おきたさまぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!」

総司の言葉を遮るように廊下から大きな声が聞こえてきた。沖田…様?
少し低めだけれどはっきりと耳に届くその声は女の子のもので、パタパタと教室に近づいてくる足音も軽いものだった。
息を切らして教室に入ってきたのは小柄な可愛らしい女の子だ。

「おき…沖田様っ…はぁ…はぁ…待ってくださ…。」
「ちっ。君、まだいたの?」

そんなに舌打ちって大きく響くの?ってぐらいしっかりはっきりと舌打ちをした総司の表情はそれはそれは険悪なものだった。

「あ…戸城さん。」
「僕みつちゃん以外興味ないから。さっさと消えてくれないかなぁ?」
「総司!」

どうやら私の存在は知っていたらしい彼女は私を見ると少しだけ眉を下げて名前を呟いた。そりゃそうだ、好きな人の彼女なんて見たくもないだろう。しかし総司のひどい言い方に思わず言葉を遮ってしまった。消えろなんて言われて傷つかない子がいるわけ…。

いるわけ…ないよね。あれ?なんでこの子嬉しそうなの。

「素敵です沖田様。もっとひどいこと言ってくださいぃぃ!」
「「!!!」」

思わず隣にいた斎藤君と一歩後ずさりしてしまった。こ…これは…この感じはまさか。

「…気持ち悪いよ君。」
「きゃあ!ありがとうございます!」

これ、女版総司じゃん。ただのドМじゃん。

総司に何を言われようと頬に手を当てきゃあきゃあ悶えてる。その様子に総司は本当に頭を抱えているようだった。同族嫌悪ってやつか。

「総司…。」
「ごめんねみつちゃん。帰ろうか。」
「いや、あの、その子…。」
「最近付きまとわれて困ってたんだ。虫みたいなものだと思ってくれていいよ。」
「虫…。」
「やーん、沖田様に付きまとえるなら虫でもかまわないです。」

斎藤君が最早息をしているかどうか心配になるぐらい静かなんだけど私彼と帰ってもいいかな。いいよね。

「総司、私斎藤君と帰るわ。…その子どうにかするまで話しかけないで。」
「みつちゃん!?」

私は黙ったままの斎藤君の腕を掴むと二人を置いて教室を出て行った。
無理だ…まだ無理だ…あんな変人二人も連れて帰るなんて私にはまだレベルが高すぎる。

途中から意識を取り戻した斎藤君に良かったのか?と確認されたが一緒に帰りたいの?と聞き返せば何もなかったように歩き出したから私もそれに続いた。いいんだこれで正解だ。



翌日。もう昼休みなんだけど今日は一度も総司と会っていなかった。おそらくあの子がまだ付きまとっているのだろう。親友曰く、隣のクラスの女の子で見た目は可愛いんだけど総司に盲目的に恋をしていると有名になりつつあるらしい。しかも何を言われても全部嬉しそうにしているもんだからたちが悪い…とか。まぁ総司も人のこと言えないけどさ。放っておいていいのかと聞かれるけど放置プレイが一番平和かつ総司にも効果的なんだと思うんだよね私。あー楽だなードMの彼氏は(棒読み)


「…放置しときゃいいんだけどねぇ。」

思わず総司のクラスへ偵察に行けばそこに総司はいなかった。そうだろうね、いつもなら一緒にお昼を食べるけどきっと逃げてるんだろうなぁ。電話をかければワンコールで出るから躾が行き届いている犬のようだった。

「もしもし、今教室に来てるんだけど。」
「あ、ごめんみつちゃん。あの虫がまだついてくるから…。」
「大丈…ごほん。何してんのよさっさとどうにかしなさいよ。」
「うん。僕もうざい消えろ死ねぐらいは言うんだけど全く聞かないしそれどころか蹴って叩いて蔑んでって言ってくるからあの子病気なんじゃないかな?」
「うん、病気だろうけどそれあんたもだからね、全部痛いぐらいブーメランだからね。」
「僕Sじゃないって言ってるのに聞かないしさ。だから他の物件進めておいた。」
「…何て??」

とんとんと肩をつつかれ振り向けばそこには微笑んだ総司が立っていて、その姿を見た周りの女子たちの目が一気にハートになる。相変わらず騙されてるから!

「隣のクラスの南雲君がおすすめだよって言ったらとりあえず見てきますって行っちゃったから多分もうそっちにいくんじゃないかな。彼フリーだし。」
「…南雲君ってハイパーシスコンだから他の子眼中になくない?確かに蔑んでくれそうだけど。」
「ハイパーシスコンも病気みたいなもんだからお似合いじゃない。」
「とりあえず総司にだけは言われたくないって言うと思うんだわ…。」


この学校変な人しかいないんだ…そう思うと頭痛がしてくるけれど。

「さて、変なのもいなくなったし一緒にご飯食べようか。遅くなってごめんね?」
「…仕方ないからデザート奢ってくれたら許してあげる。」
「はいはい、お姫様。」
「っ!!!」

さりげなく手を握って口元へ寄せられれば総司の唇が手の甲に触れた。周りの黄色い叫び声よりもうるさくなる心臓に思わずローキックをかまして走り出す。でもその蹴りでさえ彼にとっては嬉しいものにしかならないんだから私の声にならないこの思いは本当どこへぶつければいいのか。


「なんなんだー!どいつもこいつもー!!!」



今日も総司に負けたと思いつつ屋上へ向かうのであった。


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