「みつー!これ新発売だってさ!」
「あ、平助君。」

パタパタと駆け寄ってきてくれた平助君の手には新発売と大きな文字で書かれたチョコレート菓子。子犬のようにキラキラと目を輝かせてそれを持っている彼はCMのオファーがくるんじゃないのかいってぐらい爽やかな笑顔だった。

「ほんと平助は人の彼女にぐいぐい行くよね。平助からいくよりみつちゃんが僕へ見せつけるように平助を誑かす方がドキドキするんだけど。」

しかし残念なことにこの爽やかな彼の後ろにニコニコと立っているドMが私の彼氏なのである。

「総司…。」
「いっそもう清々しいよな!じゃみつ、総司と二人で仲良く食べろよ。」
「え?平助君は?」
「一君待ってるからそっち行くわ。…ってか行かせてくださいお願いします!じゃ!」
「ああ!返事も聞かずに去っていったぁぁぁ!!!」

少し前までは四人でお昼ご飯を食べていたのに最近はこうして二人きりにされることのほうが多かった。これはあれかい?二人で仲良く食べなよって遠慮しているというよりはどうにかして総司をまともにしておけよ的な?治せよみたいな?私は医者じゃない。

お弁当を開ける前につい平助君にもらったお菓子をあけてしまう。新発売と見えてついつい気になってしまったのだ。総司はお弁当に手をつけているし気にせず食べよう。
ぱくりと口に放り込めばほどよい甘みが口の中に広がった。うん、これおいしい。

「総司、食べる?」
「え。」

あーんと持っていたお菓子を口に放れば総司は小動物のようにもぐもぐと口を動かしていた。

「美味しいよね、これ。」
「…やるじゃないみつちゃん。人がご飯を食べた直後にチョコ食べさせるなんてさ、見事に美味しくない仕上がりになってるよ。」
「ああ!ごめん!お茶お茶!」
「いや、むしろおいしいけど。」
「ねえ、それ違うよね。美味しいじゃなくておいしいだよね。」
「ってか何普通にお菓子あげてるの。どうせなら突然激辛のもの放り込むぐらいしなよ。」
「できるかぁ!!」

もうなんだこれ。昼下がりに何を話しているんだい私達は。
総司っていつからこうなんだろうなぁ…小さいときから?こういうものって突然芽生えるものなの?

「総司。」
「なぁに?」
「総司っていつからそうなの。」
「そうって?」
「いつからMなの。」
「いつからって言われてもねぇ。こういうのって生まれもってのものだろうけど…まぁそうだね、きっかけとしては小学生かな。」
「そんな小さいとき!?」

あまりの衝撃に持っていたお菓子を全て落とすところだった。小学生の時って…小学生ってそんなこと考えるんだっけ?ご飯と宿題と何して遊ぶかぐらいしか脳内占拠していないと思ってたんだけど。

「三年生ぐらいだったかなぁ…クラスの子とケンカしたんだよね。」
「…まさか殴られてМに目覚めたとか。」

もしそうだったらその殴った奴を連れてきて思い切り殴りたい。とりあえず平助君や斎藤君と三人でボコボコにしたい。

「いや、とりあえず鼻血でるまで僕が殴ったんだけど。僕の味噌汁にネギ入れてきたからさ。あの時はまだ子供だったし仕方ないよね。」
「仕方なくないからね、ネギ入れたぐらいで血でるまで殴るってことが衝撃的すぎてこの後の話が頭に入ってこなそうだからね。」
「さすがに近藤さんに怒られたなぁ。」
「近藤さん?」
「僕をよく見てくれていた先生だよ。殴られた子はもちろん痛いけれど総司も手が痛いだろう?だから人を叩いたりしちゃだめだってめちゃくちゃ怒られた。」
「いい先生だね。」

ふと少し切なげな表情になる総司に目を奪われた。近藤先生がよっぽど好きだったんだろうなぁ。きっと怒られてどうしていいかわからなくなったに違いない。

「確かに手が痛かったんだよね。だけどその時なんだか体がドキドキして、たまらなくなったんだよね。」
「パードゥン!?!?」
「近藤さんにも怒られちゃうしさぁ。もうあの時どうしていいかわかんなかったよ。」
「そっちぃぃぃぃ!?いい話全部ひっくり返っちゃったけど!?殴ってドキドキしてSに目覚める方が流れ的に合ってるけど殴った痛みにドキドキしちゃったのぉぉ!?」
「多分それがきっかけ。」

にこりと笑って総司は私の手にあったお菓子を一つ取って口に運ぶ。…平助君、やっぱり君じゃなくて総司にCMきそうだわ。
そして先に謝るけど…やっぱり私にこの人どうにかするの無理な気がする。


「みつちゃん?あれ?どうしたの?」
「そのきっかけとなった相手をやっぱり一度殴っておかなきゃと思って。」
「えー?どうせなら僕を殴ってくれればいいのに。わざわざ他の男殴るってどういうこと?」
「お願いします少し黙って。」

一心不乱にチョコを食べながらどうにかしてきっかけとなってしまった生徒を探し出すことだけを考えた。


つづく

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