生まれて初めて一目惚れというものをした。
彼を見た瞬間、体が硬直して、周りの景色が霞んで見えた。

見ているだけで良かったけれど、少しでも近付きたい…初めてそんな気持ちも知って、思い切って告白した。

叶うはずがない。
叶うはずがないんだ。

だけど、何故か彼は私を選んだ。
自分自身その事実が信じられなくて夢なんだと思っていた。
彼が私を選んだのは、ある偶然と、そしてそこに大事な理由があったなんて、その時の私は気付くはずもなかった。


「みつ、沖田君外にいるよー。相変わらず女子の視線一人占めだね。あのドS王子。」

「あー…うん。」


教室の窓から外を見れば、そこには確かにたくさんの女子の視線を集めている総司がいた。どうやら体育の授業中らしい。
自習でのんびりプリントを解いていた私に声をかけた前の席の親友は窓の方に体を向けて外を見ていた。


「彼女のあんたには優しいの?大丈夫?」


親友が心配するのも無理はない。
総司はドS王子と評判だった。爽やかな笑顔からは想像もできないぐらい平気で毒を吐く。だけど女の子達にはそれも魅力的にうつるらしく彼はものすごく、ものすごくもてた。

私はドSが好きなドMってわけじゃない!断じて違う!ノーマルだ!!
私はただ。


「それにしてもさ、捨てられていた子犬に餌あげてたからって…どこの少女マンガ?」

「う…うっさいな!」


沖田総司という名前は知っていたけれどちゃんと見たのはその時が初めてだった。
顔が良くてドSっていう噂しか聞いてなくて(よく考えたらひどい)だけどそんな噂されている人が優しい顔で子犬の世話してたら…どきっとするじゃん。
なのに普段はそんな素振り全く見せなくてさ。


「いや、あんたのそういう単純な所、私は好きよ。」

「褒めてるの?けなしてるの?けなしてるよね。」

「あ、こっち見てるよ。ドS王子。」

「え?」


外を見れば総司がこっちを見ていた。
少し微笑んだようなその表情がたまらなくかっこいい。
思わず笑顔でぶんぶん手を振りたくなる気持ちを…こらえた。
偉い、偉いぞ私!!


だってそんなことしたら…。


「何笑って手なんてふってるの?別れたいの?」


とか冷たい目で言われるんだ。
それだけは嫌。

こういうときは…


「ねえ、みつ。あんた何で彼氏にガンとばしてるの?ケンカしてんの?」

「…。」

黙っていてくれ、親友。今大事なところだ。

精一杯のガンつけが届いたのか。

「ねえ、何であのドS王子笑ってるの…何なの、それ二人に通じる合言葉?」

訝しげに聞いてくる親友には申し訳ないけれど今は返事ができない。
総司のたまらなくかっこいい、そして可愛い笑顔を見ても喜んでいいのは心だけなんだ。


「だから、何、何で今度はこっち見るなみたいなジェスチャーしてるの?やっぱケンカ?」


ああああ!
私だってやりたくない!虫をはらうようなジェスチャーを総司にするなんてさ!
だけど彼はそれを見ると満足そうにサッカーへ戻って行った。


「もしかして、あんたもドSがうつったとか…?実はあんたの方が上なの?」

「色々…ありましてね。」


言えるわけない。
言えるわけないよ。









ドSだと思っていた彼はドMだったのです。







なーんてね。

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