「平助君、なんでそんなに牛乳飲んでるの?」

お昼ご飯をいつも通り屋上で食べているとふと平助君の前にある牛乳に気がついて聞いてみる。一本じゃない、三本も飲むなんてちょっと多すぎる気がして。


「平助は身長伸ばしたいんだよ。女の子と身長差がないと恰好つかないからね。」
「ちょっ!うるせぇよ総司!!」
「先ほどクラスの女子たちにからかわれてしまったのだ。」
「一君までばらすなってぇぇ!!」

確かに平助君は小柄だけどでもそれを上回る明るさと可愛さがあると思うんだけどなぁ。でも身長は気にしてしまうものか。好きな女の子と身長が変わらなかったら男の子はショックなのかも。


「平助だと壁ドンされても見下ろされないからときめかないんだって。」
「総司ぃぃぃぃぃ!」
「壁ドン?」


どこでもそんな話題なのか。日本って本当に平和だなぁ。
なるほど、確かに平助君の身長じゃけっこう小柄な子じゃないと壁ドンは絵にならないかもしれないなぁ。


「総司はいいよな。背高いしさ。みつに壁ドンしてもそりゃ絵になるよ。でも俺だってまだまだ背伸びるもんね!!」


そう言って彼はあっという間に牛乳を三本空にすると勢いよく立ち上がった。


「俺課題出してこなきゃいけないから先に行くなー!みつ、またな。」
「平助。俺も戻る。では。」
「え?」

いつの間に食べ終えていたのか、斎藤君もお弁当箱の包みを持ち立ち上がった。ちょっと待って、二人にしないで。いや、二人にしないでっていうのもおかしな話なんだけど。
そんな私の願いが届くことはなく、二人はさっさと屋上を去ってしまった。


「どうしたの?みつちゃん。」
「え?なんでもないけど…。」


なんでもなくありません。実はこの前キスをしてからまともに顔が見られません。そうです、彼氏の顔が見られません。だってあんなの…心の準備とか!!高校生にもなって何言ってんだと言われるかもしれないけど私はそうなんですよ。


「食べ終わったら僕らも戻る?」
「うん。」


空気を察してくれたのか総司が戻ろうと提案してくれたので私はすぐにお弁当箱を閉まって立ち上がる。彼も続いて立ち上がったので私は屋上の入り口へ歩き出そうとした。が、ぐんと腕を引っ張られて後ろに倒れそうになるとそのまますぐ近くの壁に背をつけた。


「え?」
「ねぇ、これって壁ドン?」
「…!!!」

とんっと私の顔の横に手をついてニッと笑う総司はずるい。似合う。似合いましたよみなさん。沖田総司、壁ドン選手権第一位です。
って違う!!

「なっ!ん!で!?」
「なんでって?」
「だって壁ドンなんて…総司するよりされたいんじゃ…。」
「あぁ。確かにそれもいいんだけどさ。」

すっと顔が近づいて綺麗な目が目の前にくる。恥ずかしさに耐えきれなくて顔をそむけた。するとくすっと笑って総司が耳元で呟く。



「今まで僕にキスする子なんてたくさんいたし、僕からしても拒む子なんていなかったんだよ。」
「…はい?」
「この前からさ。みつちゃんにキスしようとすると避けられたり躊躇われるのがけっこう快感…いたっ!!」
「やっぱりそんな理由かぁぁぁ!!」


やっぱりMはMだったわ畜生。彼女から避けられるのが快感って何だ!!
思わず目の前の総司の顎にチョップするとそれすらも嬉しいのか笑ってて何これカオス。


よくわからない怒りがこみあげてきてそのまま総司を置いて校内に戻ろうとすると再び手を掴まれて…そのまま。

「!」
「うん、怒ってる顔、けっこう好きだよ。」


キスされた。

もう怒りなんて一瞬で消えて再び恥ずかしさでいっぱいになると私は叫びながらとりあえず総司の腕を振り払い一発叩いて屋上を走り去った。でもわかってる。きっと奴は喜んでいることを。この先どうお付き合いしていけばいいのか、というかお付き合いし続けるべきなのか今一度深く考えなくてはいけないのではと思う私なのでした。


つづく

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