屋上にはすでに藤堂君と斎藤君の姿があった。
斎藤君は彼らしいというかなんというか和食中心の素敵なお弁当を食べていて、藤堂君は購買で買ったのであろうパンをもぐもぐと食べていた。
「よーみつ。お疲れー。」
「平助君。今日もパン?」
「母さん忙しいからさー。たまには俺も弁当ほしいな。」
「自分で作ったらどうだ、平助。もうそれぐらいできるだろう。」
「は…一君みたいに作れる奴の方が少ないって!!」
ええ!斎藤君、そのお弁当手作りなの!?
女子力…ください。
私も一応作ってきてるけど恥ずかしくなってきたよ…レベルが違うよ。
私はため息をつきつつお弁当をとりだし、一つは総司に手渡した。
「…残したら承知しないから。ちゃんと感謝して食べなさいよ。」
「はーい。」
精一杯の台詞です。もう言う台詞を決めて私は女優と思いこむことにしたの。
そんな様子にすっかり慣れた二人は何も言わない。
「いいよな、総司。彼女の弁当…。」
「卵焼きあげようか?平助君それじゃ栄養足りないよ。ほら、ブロッコリーも食べて。」
「ええ!?いいの?」
「うん。」
なんだか子犬みたいな彼が放っておけなくて私は自分のおかずをいくつか分けてあげた。
嬉しそうに食べてるのを見るとこっちも作った甲斐があるよね。
そうそう、本来お弁当を作ったらこういう反応をしてほしい。
総司はいつも黙々と食べてて美味しいんだかまずいんだかわからない…。
(は!!!)
すぐに総司を見ると相変わらず黙々と食べていた。
よく考えてみたら私駄目じゃない!?
彼氏の前で他の男の子にお弁当食べさせてるとか…しかも彼氏にあげるより嬉しそうにあげてるとか!!!
あ、でもヤキモチとか妬かないのかな…なんてそんな淡い期待だめだ。
あの沖田総司にそれはない。
「みつちゃん、彼氏の前で堂々と他の男に食べさせてあげるとか…。」
「え!?あ、あの、総司!」
ああ!やっぱりまずかったんだ。
総司が箸を置いて私に話しかける。どうしよう、そんなつもりじゃ…。
「わかってきたじゃない。目の前で他の男に優しくするとかなかなかM心をくすぐるよね。」
そっちぃぃぃぃぃ!?!?!?!
やめて、そんな恍惚とした微笑みいらない!
あああ斎藤君、呆れた表情通り越して最早地球外生物見るような眼差しやめて!
平助君も!ど・ん・び・き!
君達よく友情なりたってるよね!
「…私、彼女なんでしょうか…。」
小さな呟きは空へと消え…る前に平助君に拾われた。
「ほ…ほら、需要と供給が合えばさ。人それぞれってことで…。」
「フォローのつもりですか、それ。」
「戸城。総司はこう見えて悪い奴ではない…その…頼んだ。」
「それただの丸投げだよねええ!!??」
私の叫びが屋上で響き渡る頃、どうやら総司はお昼ご飯を食べ終えたらしく私に空の弁当箱を渡してきた。そして…。
「何これ?」
弁当箱の上には鍵があった。どう見ても家の鍵だ。
「僕の家の鍵だけど?姉さんと二人暮らしなんだけど姉さん仕事で海外いくこと多いし、来るでしょ?彼女なんだから。」
「え?いいの?」
「は?」
「あ…い…行ってあげてもいいけど私の好きなお菓子とか買っておいてよね。」
「いいよ。」
ふう、ぎりぎりセーフだったのか。
それにしても家の鍵…これはちょっと彼女っぽい!?
「へえ、総司が鍵渡すなんて本気だよな。」
「ああ。戸城と付き合って行けば意外とMが緩和されるかもしれん。」
そんなことをこそこそと話している二人。
会話が聞こえてしまったのか総司はにやりと笑って言った。
「これで僕好みに調教してあげるからね。」
「え?」
「楽しみだなあ…みつちゃん素質ありそうだから。ここまで僕についてこれたのも君ぐらいだし。」
調教…ってそれM側が言う言葉じゃないからね!?
どうなるの!?私どうなるの!?
「総司、戸城に無理強いはするな。女子だぞ。」
「大丈夫だよ一君。子猫を立派なライオンにしてみせるからさ。」
「そ…総司、猫はどう頑張ってもライオンにはならねえから!」
「そういう問題じゃない!!!!!!二人とももっとしっかり止めてよ!」
「ほーら。みつちゃんはなかなか威勢がいいからいけると思うんだよね。よろしくね???」
「なんでこうなるのかなー!?!?」
がくりと膝をつき屋上の床をバシバシ叩いても、私の心の中のやるせなさが消えることはなかった。
つづく
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