冬が始まったのを肌で感じるようになったある日の放課後。
今日は部活がないからと平助君に誘われて私たちはファーストフード店に来ていた。
本当は総司君も誘っていたんだけど、用があるからと先に帰ってしまった。
私にはわかる。多分遠慮してくれたんだ。






―好きだけじゃ―






目の前でポテトを食べている平助君はどこか上の空だった。
多分、何かあったんだと思う。
聞いて良いのか躊躇ったけど、思い切って聞いてみた。

 「どうしたの?平助君、元気ないよ。」


 「え?…あ、ああ。」


食べかけのポテトを一気に口に放り込み、コーラを飲むと平助君は大きくため息をついた。


 「…好きな奴からの恋愛相談ってしんどいよな。」


ああ。そういうことか。
雪村さんに相談されちゃったんだ。


 「うん。わかるよ。私も同じだから。」


 「え?お前も?」


 「うん…。好きな人には好きな人がいるんだ。」


 「そっか…。」


平助君は眉をハの字にさせて私を見る。
同じ境遇に同情してくれてるんだろう。


 「平助君、雪村さんに伝えないの?」


 「告白しないのかってこと?」


 「うん。」


 「千鶴は俺のこと仲の良い男友達にしか思ってないし…。」

 
 「でも、伝えたら何か変わるかも…。」


 「告白する前からだめなんだよ。土方さんに彼女でもいたら別なんだろうけど土方さんも千鶴のことが好きなんだ。俺に入り込める余地はないだろ?」


もう時間の問題なんだよなーと言って笑う顔が切ない。
私も一度土方先輩と雪村さんが一緒に帰っているところを見たことがあった。
互いが互いを思っているという感じで付き合っていると言われてもおかしくない雰囲気だった。

私はスープを一口飲んで心を落ち着かせる。
本当はこの状況は私にとっては良いことなんだ。
好きな人が失恋しようとしている。
もしかしたら、私にも少し希望があるのかもしれない。
だけど、どうしても嬉しい気持ちになれない。


 「それでもがんばっていたら…好きで、相手のことを思っていたら何か変わるかもしれないよ?」


 「ありがとな。励ましてくれて。お前ほんと良い奴なー。」


私の言葉に少しだけ目を丸くして、平助君は微笑んだ。
同じ片思い仲間。
彼は私の言葉を否定できないんだろう。


でも違うの平助君。
私は頑張れば、ずっと思っていればいつか叶うなんて馬鹿みたいなこと夢見てるの。
平助君の為に言ってるんじゃない。
自分に言い聞かせてそう思いたいだけなんだよ。
どうしようもないこともあるって、目の前に突き付けられているのに。
だけど少しの希望を信じたくて、それでこんなこと言って
自分で自分の首をしめて彼の背中を押している。


 「あいつ、土方さんに告白するんだって。」


 「え?」


 「だからさ、もう失恋決定なわけ。」


そう言って平助君は俯いた。
笑ってるけど全然笑えてないよ。


 「頑張ってもさ、駄目なんだ。なのに諦め悪いよな…かっこわる。」


 「そんなこと…ない。」


 「奈緒?」


好きな人の失恋が悲しいなんて。
私は本当に馬鹿なんだ。
だけど、そんな顔見たくないんだもん。
笑顔が見たいんだもん…。


 「そう簡単に…忘れられたら…そんなの本当の好きじゃない。」


 「なっ…なんで泣いてんだよ!?」


ぼろぼろと涙が落ちてきて、平助君が慌てて私の目元を拭う。
上手く話せないでいるとぽんぽんと平助君が私の頭を撫でた。


 「そうだよな。お前も片思いしてんのに…。ごめん、俺。頑張っても駄目とか言って。無神経だった。」


 「ちが…うよ…。ただ…。」


 「ん?」


 「平助君が…悲しそうだから…辛いのに…笑うから…。」


だから泣いているのと告げると平助君は驚いた表情をして…
そしてすぐに悲しそうに目を潤ませた。


 「馬鹿…何で…そんなこと言うかなあ?」


 「平助君が無理するから。」


 「させろよ、無理ぐらい。俺…男なんだし…。」



そう言う彼の大きな目が揺れる。
ゴシゴシと目を擦ってまたコーラを飲み始めた。
時々目を擦りながら食事している私たちはそうとう変に見えたと思う。
だけど私たちは周りのことなんて気にすることはなかった。





好きだけじゃダメなんて



痛いくらいわかるよ。
私も同じだから。





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