すっと触れた机は何故か温かい気がした。
夕日が差し込む教室で私は席につく。
いつもと違った視界。
これがきっと、彼が見ている景色なんだろう。
窓際の一番後ろから二番目は特等席と言えるはず。
だから彼はよく眠っている。
そしていつも先生に怒られて、クラス中に笑われて、だけど人気者で。
そんな彼に私は
恋をしていた。
―視線をたどれば―
私が藤堂君のことを好きになったのは高校に入学して間もない春。
桜が散って、景色が緑色になる頃だった。
クラス対抗の球技大会があってどの種目に参加するかを話し合っていた時。
「バスケ、バレー、ドッヂボール、サッカーの四つに分けることになるからな。話しあいでもクジでもかまわないから適当に決めてくれ!」
永倉先生がそう告げて、みんなでどの種目に参加をするか話しあうことになった。
バスケ、バレー、サッカーは部活に所属している人が優先的に入ることになり、私はドッヂボールに参加することになった。
一度ぐらい練習しておこうと誰かが言いだして私達ドッヂボール参加者は放課後に校庭で練習をすることになった。
運動が苦手な私は避けるのが精一杯でひたすらに逃げていたんだけど。
つまずいてしまって転んだところにボールがとんできて…。
ぶつかると目をつぶって覚悟したのにいつになってもボールの衝撃はなかった。
「いっ…てえ。」
「え?」
ゆっくり目を開けるとそこには頭を押さえてしゃがみこんでいる姿があって、動けない私に藤堂君が涙目で大丈夫か?と聞いてきたんだ。
大丈夫と告げる前に校庭に響き渡る男の子達の笑い声。
「ちょっと平助君。どうせ庇うなら格好良くボールをキャッチしなよ。」
お腹をかかえて笑っているのは沖田君だった。
どうやら藤堂君は私を庇おうとして頭にボールがぶつかったらしい。
「仕方ないだろ!?間に合わなかったんだよ!」
「それにしても頭で受けるなんてさ。これ以上頭が悪くなっちゃったらどうするのさ?」
「総司だって俺とたいして変わらないだろー!?」
「ああ、そうだね。じゃあ違う心配をしてあげる。これ以上背が縮んじゃったらどうす…。」
「まだまだ伸びてるっつーの!!!」
二人の会話にまた周りに笑い声が響き渡った。
呆然とそのやりとりを見ていると座り込んだままの私に気がついた藤堂君が手を差し伸べてくれた。
「あ、悪い。大丈夫か?」
「…うん。あの…。」
「ん?」
「ありがとう。」
恥ずかしくて、でも伝えたくて。
小さかったはずの私の声を藤堂君はちゃんと聞いていてくれた。
「気にすんなって!」
そう言った時の笑顔を私はまだ覚えてる。
だってそれが。
私が藤堂君に恋をした瞬間だから。
それから自然と目で追うようになっていた。
そうなったら恋の始まりと誰かが言っていた気がするけれど、本当にその通りだと思う。
こんな時、積極的になれない自分が情けなかった。
クラスの中でも大人しい部類に入るであろう私はなかなか話しかけることもできないまま。
季節はもう秋に入ろうとしていたんだから。
だけど気付いたことがあった。
藤堂君はいつもあの子を優しい目で見ていること。
ずっとずっと片思いをしていること。
そしてその思いが、届かないこと。
私と同じ状況だった。
教室のドアが開く音がして私はびくりと肩を震わせた。
「日下?」
振りむかなくてもわかってしまうの。
名前を呼ばれて視線をずらせばそこには藤堂君が立っていた。
私が片思いをしている彼が。
視線をたどれば 私と同じあなたがいた
どうしよう。私。
藤堂君の席に座ってる。
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