「私。平助君が好きなの。」
もう止められなかった。
これ以上このままでいられなかった。
困らせてごめんね。
―君と同じ恋をした―
きっかけはお互い叶わない片思い。
切なくても苦しくても傍に居られたから。
だから私は楽しかったよ。
だけど、このままじゃ嫌で、痛くて。
そんな気持ちがついに勝ってしまったの。
零れ出た言葉はもう拾えない。
平助君の目が揺らいだ。
ああ、やっぱり駄目だよね。
きっとまだ千鶴ちゃんのこと…。
「平助君が、千鶴ちゃんのこと好きなのはわかってるんだけどね。ごめん。」
「何で謝るんだよ。」
「だって、困らせちゃうから…。」
「困るっていうか…その、俺のこと好きでいてくれてたって気付かなくて。」
「うん。あ、でもね。別に付き合いたいとかそういうことじゃなくて。ただ伝えたくて。私、一生懸命忘れるから!…もし迷惑じゃなかったら…。」
友達でいてください。
なんとか絞り出したその声は多分平助君に伝わったと思う。
立ったまま動き出せない私の腕を平助君が掴んだ。
「迷惑なわけ!…ねえだろ?頼むから…避けないでくれよ…。」
「平助君…?」
私の腕を掴む手が少しだけ震えていた気がした。
「最近、避けられてるんじゃねえかって考えていたらすげえ嫌で。」
「…。」
「お前の悲しそうな顔を見るのも辛いんだ。」
「え?」
「それを言ったら総司にそれが恋っていうんじゃないの?って。」
ぐっと一度だけ強く腕を掴まれて。
そのまま平助君の手はだらりと下がった。
「自分で自分の心がよくわかんねえんだ。多分俺まだ混乱してる。」
そりゃそうだよね。
私の恋を応援してくれてたんだもん。その相手が自分だったなんて。
誰だってびっくりする。
「だけど…お前の悲しい顔とか見たくないのは本心だ。」
私の頬に残った涙の痕ををなぞるように指が触れる。
くすぐったさに思わず肩が震えた。
「俺、お前のこと泣かせてばっかりだよな。」
「そんなことないよ…?」
平助君の笑顔を見ていたら。
それだけで幸せになれたから。
「なあ。奈緒。」
「ん?」
「今すぐ返事だせなくてごめん。だけど、俺真剣に考えたいから。」
「え?」
「俺への気持ち、忘れるなんて言わないでくれよ。」
「…っ…うん!」
またボロボロと零れる涙を必死に手で押さえる。
だって、神様。
やっと、私の恋が動き出せたから。
「泣くなって…。」
どんどん溢れてくる涙は止まらなくて、それを平助君が必死に拭おうとしてくれた。
「泣かせてんの俺か…。ほんとにごめ…。」
「平助君。」
また謝ろうとする平助君の言葉を遮るように彼の名前を呼んだ。
「急がなくて…いいから。その…少しずつ知ってほしいから。私のこと。私も少しずつ平助君のこと知っていきたい。」
そう言うと平助君は目元を手で覆ってため息をつく。
顔は真っ赤だ。
「お前…そういうとこずるい。ってか俺に甘すぎ!!!」
「仕方ないよ。好きだから。」
困ったように笑う私に平助君がまたああああと叫んでいた。
「わかった。俺、お前のこともっと知りたい。」
「私も。」
「じゃ…とりあえず行くか?総司待たせたら怖いぜー?」
「ああ!総司君絶対待ってるよね!?」
「急ぐぞ!奈緒!」
「うん!」
差し出された手を掴んで。
私たちは教室を飛び出した。
いつかあなたから好きだと言われるように。
私、がんばるから。
きっかけはお互い叶わない片思い。
だけど。
これからは…。
君と同じ恋をした
そして僕らの視線はやっと交わった。
終
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