冬休み中。私は平助君と沖田君と三人で何度か会っていた。
課題を三人で終わらせたり、沖田君の家でゲームをしたり。
少し前までは考えられなかったけど。
ちょっとは距離を縮められたのかな?
―気付いてほしい―
「よし、お前ら後ろから課題を前にまわせー。」
永倉先生の声に私は机から課題を取り出すと前の沖田君に手渡した。
沖田君も自分のノートを重ね、前にまわしていく。
「僕が課題をだすなんて…先生達びっくりして腰抜かしそう。」
「え?そうなの?」
「うん。いつもださないから。」
「俺も期日までにだすなんて新八っつあんきっと驚くだろうなー。」
「ええ!?平助君も?」
二人はへらへらしてるけどそれで成績は大丈夫…なわけないよね。
そういえばよく二人は補習受けていた気がする。
「もう…二人とも課題はださないと。」
「奈緒ちゃんのおかげで助かりました。」
「俺もー。」
ぺこりと頭を下げられてお説教する気もなくなった。
するとそれがわかったのか平助君も総司君もニッと笑う。
二人の笑顔には弱いんだ。
「今日は始業式だけだから楽だよなー。」
「平助君、僕たちは部活もあるよ。」
「そうなんだ。」
一度見てみたいな…と思っていたことをどうやら私は呟いてしまったらしい。
「え?じゃあ見に来ればいいじゃん!」
「へ…あ、私言ってた?」
「ははっ、奈緒ちゃん心の声もれてるよ。でも平助君の言う通り、見に来ればいいんじゃない?」
「じゃあ…行ってみようかな。」
始業式が終わって放課後。
私は帰り支度をすると剣道場へ歩いていった。
裏門のすぐ近くにある剣道場からはパンパンという竹刀の打ち合う音、大きな声、ドンと踏み込む音が響いていた。
道場の窓から覗き込むとすでに練習は始まっているようだった。
すると中にいた千鶴ちゃんが私に気付き、外に出てきてくれた。
「奈緒ちゃん!」
「千鶴ちゃん!」
「こっちこっち。一緒に見よう?」
そう言うと千鶴ちゃんは私を道場の中に案内してくれて私たちは隅の方で正座をして見学することになった。
試合形式の練習が始まり、垂を見ると沖田と名前が書いてあり、総司君だとわかった。
「面っ!!!」
「面あり!一本!」
あっという間に総司君が一本とって、千鶴ちゃんがとても強いんだよと教えてくれた。
総司君は一年生で一番上手らしい。
千鶴ちゃんに気付かれないように平助君を探していると藤堂と書かれた垂が目につく。
次の試合は平助君の番みたいだ。
「小手ぇ!!」
いつも総司君や他のクラスメイトにからかわれている平助君からは想像できないぐらい、真剣でかっこよかった。
一本とって試合が終わり、平助君は下がって面をとる。
隣に座っていた総司君と嬉しそうに何か話していた。
「平助君、最近調子がいいんだよ?」
「え?」
千鶴ちゃんが突然私に話しかけた。
もしかして平助君を見ていたこと気付かれたかな?
「ちょっと前ね、なんだか調子が悪かったみたいで…よく土方先輩に怒られてたんだけど。最近また調子が上がってきたみたい。次の大会も良い成績とれるって土方先輩も言ってたし。」
「そう…なんだ。」
きっと調子が悪かったのは千鶴ちゃんに失恋したから…じゃないのかな。
少しずつ、ふっきってるのかな?
でも今でも時々感じる。
平助君が切なそうに千鶴ちゃんを見ているの。
そう簡単に気持ちなんて消えるはずないよね。
そんなことを考えながら平助君を見ているとバチンと目が合った。
すぐに逸らすこともできなくてそのまま見ていると平助君は手をふって思い切り笑っていた。
その様子に隣の総司君も気づいたようで、私の方を見て笑っている。
少し控えめに手を振りかえしていると二人の後ろにすっと誰かが立っていた。
「お前ら…部活に集中しろ!!!」
ごんっと音が鳴りそうなぐらい、思い切り二人の頭にゲンコツが落ちる。
その声の主は土方先輩で。
「ちょっと、土方さん。僕はともかく、平助君の頭がこれ以上悪くなったらどうするんですか?」
「なっなんでだよ!総司!お前だって!!!」
「うるせぇ!お前ら元気が有り余ってるなら素振り百回してろ!!!」
「えええ!?」
そんな三人の様子に剣道場が笑いに包まれた。
私も千鶴ちゃんも思わず笑ってしまう。
それから私は部活が終わるまで見学していた。
「いってえ…土方さんのゲンコツ、試合中に打たれるより痛いんだぜ?」
「あはは。こぶにならないといいね。」
部活が終わって私と平助君は二人で帰っていた。
といっても駅までの道のりだけど私にとっては貴重な時間だった。
「でもどうだった?おもしろかったか?」
「うん!ルールがまだよくわかんないというか…いまいち技がちゃんと入った入ってないの区別がつかないんだけど。迫力があってすごかったよ!!」
「そっか!たまには見にこいよ。」
「いいの?」
「もちろん!」
平助君の横顔を見て千鶴ちゃんの言葉を思い出した。
確かに、少し元気になったのかな。
だけど…。
「平助君、また無理してない?」
「え?」
「あ…何でもない。」
「奈緒。」
平助君は立ち止まって私の方を向いた。
ぽんっと私の頭に手を置いてありがとなと呟く。
「俺は大丈夫だよ。完全に忘れたかっていうとそれは違うかもしれないけどさ。でも少しずつ平気になってると思うし。それより…。」
「ん?」
「お前も頑張れよ!まだ片思いの相手、くっついちまったわけじゃないんだろ?告白しないの?」
「それは…。」
告白なんて。
できないよ…。
「ちゃんと真っすぐ目を見ればお前の気持ちは伝わるから。お前すっげえ良い奴だし!俺応援するからさ!!!」
「平助君…。」
平助君。
好きだよ?
大好きだよ。
言いたい、けど、言えない。
でもこのままじゃ苦しい。
好きで好きで苦しくなるなんて。
初めて知ったよ。
「お前…また泣きそうな顔してるぞ。大丈夫か?」
「う…ん。」
「あああ!泣くなって!ほら、練習!練習しようぜ?」
「練習?」
「告白の練習!ちゃんと目を見て、伝えること。ほら、やってみ?」
平助君は少し首を傾げて私の肩を叩いて促す。
告白の練習。
目を見て伝えたら。
私の気持ちは届くのかな?
下を向いて呟いた。
「…き。」
「ん?」
「好きです…。」
「そうそう!次は目を見て、はっきり言うこと!」
そう言われ、私は顔をあげて平助君を見つめた。
ごくりと唾を飲み込んで、ゆっくりと口を開く。
「好きです。私…。平助君のことが…好き。」
気付いてほしい、溢れる思いに。
駅までの帰り道。
ここには私とあなたの二人だけ。
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