あれから一週間後。
雪村さんは土方先輩と付き合うことになったらしい。
良かったななんて彼女に笑いかけた平助君。
私はやっぱり胸が痛くなった。
―どうして―
「奈緒ちゃん。この問題わかる?」
「ん?あ、これはね。」
平助君や総司君と一緒にいるようになってから、私も雪村さんと話すようになった。
いつも優しくて、笑顔が可愛くて。
私も彼女のことは好きになれた。
「こうだと思うな…。」
「そっか。ありがとう!奈緒ちゃん。」
「どういたしまして、雪村さ…あ、千鶴ちゃん。」
「あ、ちゃんと名前で呼んでくれた。嬉しいな。」
どうしても名字で呼ぶ癖がぬけなくて、時々彼女から注意されていた。
お互いに笑いあうと千鶴ちゃんの携帯のストラップに目がいく。
シンプルな桜のモチーフがついたストラップだった。
「可愛いね、そのストラップ。」
「え?あ…うん。土方先輩から貰ったの。」
「あ…そうなんだ。」
えへへと嬉しそうに笑う千鶴ちゃんは本当に幸せそうで。
友達としてはとても嬉しい。
だけどどうしてだろう。複雑な気持ちになってしまうのは。
「あ、そろそろ先生来ちゃうね。席戻らなきゃ。」
「うん。」
そう言って私たちはお互いの席に着いた。
するとほぼ同時に永倉先生が入ってきてHRになる。
明日から冬休みだ。
たっぷり課題を渡された私たちは先生から冬休みの過ごし方を語られ(といっても永倉先生だから遊べとしか言われなかったけど。)解散になった。
「ねえ奈緒ちゃん。明日は暇?」
「え?明日?」
総司君がくるりとこちらを向いて聞いてきた。
特に何も用事がない私は暇だよと答えると嬉しそうにひらひらとチケットを揺らす。
「映画のチケット貰ったんだけどさ。一緒に行かない?平助君も。」
そのまま私の隣の平助君にも聞こえるように総司君が告げる。
平助君はチケットに書かれた映画のタイトルを見ると嬉しそうに答えた。
「おお!それ今話題のやつじゃん!いくいく!!」
「そうそう。平助君でも楽しめるコメディ映画だよ。」
「おい、総司。それどういう意味だよ。」
「だってミステリーとか恋愛ものとか苦手でしょ、平助君。」
「え?そうなの?」
「恋愛は寝ちゃうし、ミステリーもわからなくて寝ちゃうし…。」
「ちょっ!!!別に奈緒にばらさなくてもいいだろー!?」
恥ずかしいのか総司君の肩を掴んで揺らす平助君に思わず笑ってしまった。
だって想像つくんだもん。映画館で寝てる平助君。
「明日はクリスマスイブだし。一人ぼっちはいやでしょ、みんな。」
「総司君、彼女いないの?」
「うーん。そうだね、特定の子はいないかなあ。」
「うっわー…嫌味な奴。奈緒、総司に近づくなよ。」
そう言いながら平助君は私をかばうように総司君との間に手を差し入れた。
彼にとっては特に何の意味もない動作が。
私の心臓をうるさくさせるんだ。
「じゃあ明日十時に駅前ね。」
そして私は家に帰り、鏡の前で二時間格闘することとなる。
明日、何を着ようか…。
よく考えてみれば男の子と出かけるのは初めてで、数分後、お姉ちゃんに泣きつくことになる。
デートでもないのに…私はきっと浮かれ過ぎてるんだ。
翌日。
映画を観終わり、私たちはお昼ご飯を食べにカフェに入っていた。
「おもしろかったなー!」
「うん!笑うところたくさんあって忙しかった。」
「二人とも同じタイミングで笑いすぎ。僕までつられて笑っちゃったじゃない。」
「そうかー?」
笑うタイミングが同じ。
そう言われただけで嬉しくなってしまうから本当に単純だと思う。
恥ずかしさを隠すように目の前のパスタを口に運んでいると急に声をかけられた。
「奈緒ちゃん。あ、平助君に沖田君!」
「千鶴ちゃん?」
顔をあげるとそこには千鶴ちゃんがいて。
隣には土方先輩が立っていた。
「あれー土方さんまで。デートですか?」
「…。」
部活の先輩である土方さんにあの口調。
やっぱり総司君は総司君だなあなんて感心してしまう。
「映画、見てきたの。」
そう言って嬉しそうにパンフレットを持っている千鶴ちゃんは可愛かった。
「土方さんが恋愛もの?明日は雨どころか槍がふりそうですね。」
「うるせぇ!総司!」
「ほらほら、せっかくデートなのに眉間に皺よせてたら千鶴ちゃんが悲しみますよ。」
「う…。」
土方先輩と直接会話をしたことはないけれど、かっこいい先輩だよなあなんて。
その後二言、三言会話をして二人は店を出ていった。どうやら私たちより先に入っていたらしい。
店を出る直前、手を繋いでいるのがわかってしまった。
ふっと平助君を見ると、やっぱりまだ切なそうで。
「平助君?」
「…へ?あ、何?」
「大丈夫?」
「ああ。平気平気!」
お願いだから無理して笑わないでほしい。
私の胸も同じようにきゅんと苦しくなるから。
「さて、食べたらカラオケでもいく?」
「おっ!いいねー!俺すげえ叫びたい!!」
「いいけど、あまりうるさかったら外に出すからね。」
「ひでぇ!」
総司君が空気を変えるように提案してくれて、私と平助君もそれに賛成した。
お店を出ると賑やかなBGMが流れていて、クリスマスイブということを思い出す。
街中はクリスマスムード一色だというのに、
好きな人と過ごせているというのに、
どうしてこんなにも苦しいんだろう。
もやもやする心を忘れるように。
二人の背中を追いかけた。
どうして私じゃないんだろう
あなたを笑顔にできるのは。
私じゃないあの子だけ。
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