▼ 赤くなって
雨の日は嫌いだなんていつか平助君が言っていた。
外で遊べないし、じめじめしているのが苦手だからって。
お日様みたいな彼には確かに雨は似合わないかもなんてその時は笑って聞いていたっけ。
「あーあ。雨だな。」
「そうだね。」
今日は朝から雨だった。しとしとと強くはないが止む気配もない。
教室の窓からぼんやりと外を眺めている彼の横顔をただ見つめる。
今日の帰り道にCDショップに行くつもりだったからだろう、ひどく億劫そうな表情だ。
「寄り道やめる?」
「やだ!お前に聞いてほしい曲あるんだって。今日発売日だしさ…。」
平助君は私の方と窓の外を交互に見つめながら言う。
でも雨で濡れて奈緒が風邪ひいても困るよな…なんて嬉しい呟きが聞こえるけど私だって平助君と寄り道したいよ。
「そんな強い雨じゃないし、大丈夫だよきっと。」
「だよなー!」
私のその言葉を待っていたのか思いっきり笑顔で相づちをうつ平助君が可愛くて。
「楽しみだね。」
そう言って私は外に視線をやった。
そして放課後。
一日雨の予報だったのに何故か青空まで見えていた。
「俺ってやっぱり晴れ男ー!?」
空を見上げた平助君は笑顔でそう叫ぶ。
「平助君。別に君が晴れ男ってわけじゃないと思うよ。僕かもしれないし、一君かもしれないじゃん。」
「なんだよ総司ー俺が晴れ男でもいいじゃん。ってか何でついてくるわけ!?」
「平助。俺達も用事があって同じ方向なだけだ。別につけているわけではない。」
CDショップに向かう私達の後ろには総司君と一君がいた。
二人も同じ方向のお店に用があるみたい。
「平助。傘はどうした。」
「え?あ!!!」
「忘れちゃったの?平助君…。」
晴れていたせいだろう。平助君の手にはあるはずの傘がなかった。
私も総司君も一君もみんな持ってるのに。
「…ま、いっか。どうせ晴れてんだし。」
「平助君明日晴れてる中持ちかえるんでしょ。恥ずかしー。」
「うっせーよ総司!」
「騒ぐな。公共の場だ。」
「ふふ。」
同い年なのにどうして三人ってこうも違うんだろう。
だけど仲良しでいつも一緒なんだよね。
ちょっとうらやましいな。
「じゃ、僕達はこっちだから。」
大通りに出て私達は別れた。
二人が見えなくなるとそっと繋がれる手に思わず顔が熱くなる。
「本当は学校出た時からこうしたかったんだけどな。」
「平助君…。」
そんなこと言われたら。
顔が上げられなくなっちゃうよ。
でもそんなこと言う平助君の顔も赤いからついつい笑ってしまう。
「これこれ、この曲!」
CDショップに入ると平助君が一目散に新譜のコーナーに向かった。
聞けるらしくヘッドホンを私の耳に当てる。
アップテンポの曲が流れてああ平助君が好きそうだなとすぐに思った。
「やっぱかっこいいよなー。」
その声に思わず平助君を見る。
よく考えると一つのヘッドホンを二人で分けて聞く形になってるから私達の距離はものすごく近くて。
でも平助君はそんなことおかまいなしに目を閉じて曲に聴きいっていた。
(近いんだけどな…。)
平助君は平気なんだ。
恥ずかしいの私だけ?そう思うと少し悔しくて。
私は目を閉じて曲に集中することにした。
しばらく私達はいろんなCDを見てまわり、平助君がCDを買うと帰ることにしたんだけど。
「…まじかよ。」
「あ。」
外はさっきまでの青空が嘘のような黒い空。
おまけに雨もざーざーふっていた。
私は傘を開くと二人の上にさす。
「奈緒…?」
「一緒に入らないとぬれちゃうよ?」
「え?!…えっと…。」
「?帰らないの??」
「そうじゃなくて…。」
突然顔を赤くした平助君が目を逸らして頭をかく。
よくわからなくて首をかしげると平助君はこほんとせきをした。
「そのー相合傘していいわけ?」
「え?」
相合傘しないと濡れちゃうよって思ったけど。
どうやら平助君は恥ずかしいみたい。
さっきは手を繋いだり、あんな近くで音楽聞いてたのに。
「ふふっ。平助君照れてるの?」
「べ!別に照れてねえけど!は…恥ずかしくないかなって思ったんだよ。」
「だって手もつないでるし、さっきあんなに近くで…。」
「いや、俺も途中で気付いてめちゃくちゃ恥ずかしかったけどさ。お前目閉じて普通に聞いてたから俺も冷静にならなきゃなって思って…。」
なんだ。
平助君も同じだったんだ。
そう思うと少しほっとして…嬉しくなる。
「平助君。帰ろう?」
「…ああ。」
相合傘は赤くなって
俺が持つからって。
私から傘をとった平助君。
かわいいけどやっぱり男の子なんだね。
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