涙の理由

――お前のこと好きだ。


教室には私たち以外いなくて。
だからただひたすら真っ直ぐに私の所へ届いた言葉。
ずっとずっと夢見ていた言葉。


「平助君…今…。」

「あー…やっと言えた。」


顔を真っ赤にして、でも目を逸らさなかった彼が少しだけ視線を外す。
照れ隠しなのか何なのか、目の前のお茶を勢いよく飲んだ。
だけどすぐに机にそれを置き、今度は不安そうな表情になった。


「…もしかして今さら…とか?」

「え?」

「奈緒が俺に言ってくれてから随分時間たつし、俺がもたもたしてるからその…とっくに冷めちまった…とかさ。」

「そっそんなことあるわけない!!」

必死に否定するも、平助君はうつむいて言葉を続ける。
こんなに元気のない彼は久しぶりに見た。そう、失恋していたあの頃みたい。

「最近一君と仲良さそうだったからさ…一君頭良いし、かっこいいし、剣道も強いし、俺より落ち着いてて…比べるのも申し訳ねえんだけど。」

「平助君。」

「だから、奈緒が一君のこと好きになっても仕方ねえんじゃねえかって最近思っ…。」

「平助君!」

思わず大きな声で名前を呼ぶ。
ばっと顔をあげた彼の手を両手で掴んだ。

「私は…私は…ずっと。」

この気持ちが変わるわけがない。
一年生の春から、あの時から。
私はずっと平助君しか見ていない。

「ずっと…平助君が…好きです。」

ぐっと目の奥が熱くなる。
視界がぼやける。
お互いに叶うことのない恋愛相談をしていたあのころを思い出したらこんな今が来るなんて思えなくて。
だけど今は夢じゃない。
やっと、思いが届いて、
やっと、両思いになれた。



「なんで…泣くかなあ?」


そう言って笑う平助君も少しだけ目が潤んでいたけど。
もしかして彼も今までのいろんなことを思い出してくれたのかな?


「奈緒。おいで。」

「っ…。」


立ち上がり私の隣に立った平助君に腕をひかれる。
ガタッと椅子の音が響いて、訪れる静寂。
ぎゅっと温かい腕に包まれて、平助君の香りがした。
抱きしめられていると認識すると顔に熱が集まる。
恥ずかしくて顔を埋めた。


「泣くなよ。笑って。」

「うん…。」

「好きだ。」

「私も。」

「俺と付き合ってください。」

「はい。」


顔を全然あげられなくて、平助君の胸ですべて答える。
…と、少し体を離されて顔を覗き込まれた。


「ははっ。真っ赤。」

「恥ずかしくて…。」

「俺も。」

「これからも…よろしくね?」



嬉しいことが涙の理由


こうして私たちは恋人同士になった。

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