会いたいと

今日は剣道部の試合がある。
隣の高校との練習試合で誰でも見学可ということで私は朝から準備をしていた。
きっと飲み物やタオルなんかはマネージャーの千鶴ちゃんが用意するだろう。


「お弁当…食べてもらえるかな?」


試合は午前中で終わると聞いていたからお昼を持ってきているかわからないけれど一応作ってみる。一口ゼリーを凍らせたものも持って家を出た。
会場はうちの高校だからすぐについてしまい道場の外から中を窺う。
袴姿の生徒があわただしく動き回っていた。

まだ準備しているみたいだし、入るのは申し訳ないと外で待っていると大好きな声が聞こえる。


「奈緒!」

「あ、平助君。おはよう。」

「来てくれたんだなー。ありがとな!」

「うん。調子はどう?」

「絶好調!お前が来てくれたら勝つしかねえし!…随分荷物あるな。中に置いておくか?」

「え?あ、大丈夫大丈夫。」


私が手に持っていたバッグに視線をうつした平助君が手を差し出してくる。
確かにただ応援しに来ただけにしては荷物が多いよね。

「あの…ゼリーとか凍らせてきたんだけど食べるかな?」

「まじで!?すげえ嬉しい!…でもそれにしても荷物多くね?」

「あー…お昼、みんなどうするのかわからなくて、その…お弁当を…。」

「奈緒の分だけってわけじゃないよな、それ。」

「う…うん。」


待って。恥ずかしいよ。
これでお昼ご飯は準備してるとかみんなで食べに行くとか言われたらどうしよう。


「俺のもある??」


少し不安げに見つめてくる平助君が子犬に見えた。
俺の分も何も平助君のために作ったのに。


「平助君が食べてくれると嬉しいんだけど…。」

「やった!じゃあ試合終わって片付けしたら一緒に食べようぜ!」

「うん。」

良かった。どうやらお弁当は無駄にはならないみたい。
何より一緒に食べられるなんて嬉しい。


「もう少ししたら中に入れるから。悪いけどちょっと待っててな。あ、荷物は中に置いておくよ。」


そう言うと彼は私の手から荷物をとり道場へと向かう。
かと思えばくるりと踵を返してこっちを向いた。


「俺今日の試合全部勝つから!そうしたらさ…。」

「ん?」

「あ、いやーその…。昼…。」

「昼?」

「昼、二人で食いたい。」


少しだけ視線を逸らして、平助君は呟くように言うとすぐに道場へ入って行ってしまった。
今、二人でって言った?
それよりなにより平助君、顔が赤くなかった?


「…いやいや、そんなこと。」


だめだよ、都合のいいように考えちゃ。
自惚れなんて、自分が一番傷つくんだから。


千鶴ちゃんに中に入るよう促されるまでその場に立ち尽くすことしかできなかった。




――――――――――――――――――――




「うまそ!いただきます!!」

「どうぞ。」


目の前には制服姿に戻った平助君が目をキラキラさせながらお弁当を見ていた。
平助君は宣言通り、全部の試合で勝った。
勝つたびに私の方を見てピースするもんだから土方先生に怒られていたけど。
でも本当にかっこよくて、沖田君や一君も強くてすごかったけどやっぱり平助君ばかり見ていたな。


「本当に…好きなんだな…。」

「へ?何が??」

「え?!あ、ううん。平助君、から揚げ好きなんだなーって思って。」

「だってうまいもん!練習試合なのに運動会みたいな気分だな!こんな豪華な弁当あると。」

「そうかな?沖田君や一君もいるかと思ってたくさん作っちゃった。」

「あー…うん。」


そう。私はみんなで食べるかもと思ってたくさん作ってきてしまったんだけど。
朝平助君が言った通り、二人で食べている。
試合が終わって片付けがすんだあと、私の所にやってきたのは平助君一人で。
沖田君も一君もいつの間にか帰っていた。
てっきりみんな一緒だと思ったんだけど。


「でも俺すっげえ食うし!」

「ふふ。食べ過ぎないでねー。」

「試合したから腹減って腹減って。」

休みの日で誰もいない校舎に入り、静かな教室でお弁当を広げる。
去年の今頃じゃ考えられない光景だった。
だって目の前に好きな人がいる。

思いを伝えてしばらくたつけど。
返事なんてもらえなくったって。
私のこと、恋愛対象に見てもらえなくったって。
幸せだと思えてしまう。
焦っちゃだめだよね?


「平助君たくさん食べてくれるから嬉しい。」

「だってうまいんだもん。奈緒も食べないと俺が全部食べちゃうぜ〜。」

「また試合があるとき、作ってもいいかな?お弁当。」

「まじで!?すっげえ嬉しいよ。…でもさ。」

「ん?」

「次も、みんなの分じゃなくて…。」

「??」

「あー、えーと、つまり、俺の分だけで…。」

「平助君のだけ?」

「お前の弁当。総司や一君にはやりたくないっていうか。」

「平助君?」


どんどん顔が赤くなっていく平助君に何故だか私もつられて顔に熱が集まる。
だって、そんなこと言われたら。


「奈緒。」


平助君がお茶を一口飲んだ後、私の名前を呼んで真っ直ぐに見つめてきた。


「俺さ…考えたんだ。ちゃんと。真剣に。」

「え?」


これって、あの時の返事?
今?!今返事されるの!?
心の準備が…できてないよ!



「もともと奈緒のこと、良い奴だって思ってたし、マイナスなところなんて一つもなくて。好きって言ってもらえて嬉しかった。でもあの時はすぐに気持ちを切り替えられなくてさ。」

「うん。」

「だけどあの時から気づいたことがある。」

「?」

「俺、いつの間にか目で追ってる。ずっとお前のこと考えてる。いつだって会いたいって思うんだ。」



会いたいと思ったらもう好きだ


「奈緒!!!…俺、お前のこと好きだ。」


教室に響く彼の声。
その言葉はずっとずっと聞きたかったものだった。

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