君の笑顔は

「いてて…。」

「大丈夫?平助君。」

「ああ!すぐ治るってこんなん…っ!!!」

「ごめん!痛かった?」

「いや、大丈夫大丈夫。」


部活中に思いきり倒れて足を捻った。
土方先生曰く、軽い捻挫ということで冷やしておけば大丈夫かと道場の外にある水道に向かう途中で奈緒に会った。
彼女は帰るところだったんだろうけど俺が足を引きずっているのを見てみるみる心配そうな表情になった。

たいしたことないって言う俺の言葉は「保健室!」という彼女の声にかき消され、半ば無理やり保健室に連行された。
放課後ってこともあって山南先生はいなくて奈緒は俺を椅子に座らせるとてきぱきと湿布や包帯を持ち出し俺の足の手当てを始めた。


「できた…っと。」

「ありがとな。こんなちゃんと手当てしてもらえるなんて思わなかった。」

「だって足だよ?ちゃんとしないと長引いちゃう。」

「お前器用なー。」


俺が笑うと少しだけ頬を赤くするのはずっと変わらない。
その表情に俺が安心してるの気づいてんのかな。

「部活で無茶したの?」

「いや、稽古中にぶつかって転んだんだよ。道場狭いからさ。」

「そうなんだ…。」

表情が曇っていくのを見て慌てて大丈夫なことをアピールしてしまう。

「こ、こんなことよくあるって。みんなあざだらけだしさ!でも戦ってるって感じでかっこいいだろ!?」

「うん。剣道してる平助君かっこいい。」

「お前なあ…。」


反則なんだよ。
その笑顔。
自分で言って照れないでくれよ、俺まで照れるじゃん。


なんとなくお互い視線を外してしまう。
そして訪れる沈黙。
だけどその空気すら嫌じゃなくなってんだよな。


「また見に行っていいかな?」

「え?」

「試合。総司君や斎藤君もいるもんね。」

「あ、ああ。もちろん!」

「みんなの応援したいから差し入れしようかな。」

「まじで?今度の休み試合あるんだよ。」

「そうなの?…行っていいのかな?」

「だめなわけないって!」


また詳しい時間はメールすると約束をして俺たちは保健室をあとにした。
俺は部活に戻る前に奈緒を見送る。
彼女は何度も何度も振り向いて笑って手を振っていた。


「…なんだろう。なんか…。」


もやもやする。
奈緒の笑顔は好きだ。
応援にきてくれるのも嬉しい。
だけど。

――総司君や斎藤君も…


ああ。そうか。
俺だけの応援じゃないからか。
そりゃ当たり前だろ。彼氏彼女じゃねえんだ。
俺だけ応援してくれなんてそんな勝手なこと。


「…俺がはっきりしなくちゃだよな。」


君の笑顔は変わらないのに


ドキドキしたり、もやもやしたり。
全部俺のわがままだ。

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