そんなすぐには

今年の春は暖かくなるのが早かったせいか桜はもうほとんど散っていた。
合格発表の時よりドキドキしているんじゃないかってぐらい心臓がうるさい。
掲示板に貼りだされている紙を目の前に自分の名前を探した。


「…二組。」


まずは自分の名前を確認する。
そして一度目を閉じた。今更どうしたってこの結果は変わることはないけれど…。


やっぱり同じクラスになりたい。


「おはよ。奈緒ちゃん。今年もよろしくね。」


掲示板に再び目をやる前に後ろから声をかけられた。
振り向けばにっこりと笑う総司君。


「僕たち今年も仲良く永倉先生のクラスだよ。」

「あ、えっと…。」

「ちなみに平助君は残念ながら…。」

「え…。」


総司君が視線を外して呟いた。
つまり、平助君とはクラスが違うってこと…だよね?


「あまりにも頭が悪くて進級できなかったんだよ、気の毒にね。」

「ええ!?」

「おい!総司!!奈緒に嘘つくなよなー!!!」


少し離れたところから私たちの所に駆け足でやってきたのは平助君だった。
私と総司君の間に割り込むように入ると私の方を向いてニッと笑った。


「今年もよろしくな!同じクラスだぜ?」

「え…進級は…。」

「できたに決まってんじゃん!総司の言うこと信じるなってー!!!」

「まさかそんなはずがないって思われないところが辛いね、平助君は。」

「うるせえよ!」

「あはは…良かった。」

私は本当にほっとしたんだけどそれがさらに彼の機嫌を損ねたらしい。
ぷっと頬を膨らませて拗ねているのが可愛かった。
そんなこと言ったらもっと怒っちゃうから言わないけどね。
三人でそのまま教室に向かう。

それぞれの席に座ると離れていてなんだか寂しくなった。
すぐに席替えが行われるだろうけどしばらくはこのままなんだ…。

「このプリントに目を通しておけとさっき先生が仰っていた。」

「え?」


隣から急に声をかけられてびっくりしてしまう。
ぱっと左を見ればそこには机の上のプリントに目を通している男の子がいた。
あれ…なんて名前だったかな。確か平助君や総司君と仲がいい子で…。


「一君。今年は一緒なんだ。よろしくね。」

私の右斜め後ろから総司君の声がする。
その声に一君と呼ばれた彼は振り向きもせず「ああ。」と一言答えた。
そうそう。一君って呼ばれていたけど名字は確か…。

「斎藤一だ。よろしく頼む。日下。」

「え?どうして私の名前…。」

「総司や平助からよく話を聞いていたからな。」

「そうなんだ…。」

二人ともどんな話をしていたんだろう。

「よろしくね、斎藤君。」

私が言うとちらっとこっちを見てくれた。
平助君や総司君とはまた違ったタイプだけれど斎藤君も綺麗な顔しているんだな。
うらやましい。


「一君!俺も一緒!よろしくなー!!」

私たちのところに突然平助君が現れた。
斎藤君は顔をあげると眉を顰めた。

「平助。自分の席についていろ。そろそろ先生が戻られる。」

「どーせ新八っつあんのことだからすぐには戻ってこないって。俺だけ離れててつまんねえんだもん。」

「平助君プリント読んだの?」

「ああ。連絡事項ばっかりだし。奈緒、一君すっげえ剣道強いんだぜ?」

「そうなんだ。すごいね。」

「そんなことはない。」

「また部活見にこいよな。俺がんばるし。」

「うん。」

私の返事に平助君が笑うと同時に永倉先生が戻ってきた。
席を離れていた生徒が一気に自分の席に向かう。
平助君も「後でな。」と言って戻って行った。


嬉しそうに笑う彼に心があったかくなる。
ああ、やっぱり大好きだな、あの笑顔。
平助君に思いを伝えてからしばらくたつ。
あれから私たちの関係はぎこちなくなることもなくて、前よりたくさん話すようになった。それはとても嬉しいことなんだけどね。


平助君の中で私はどう変わったんだろう?
あの時のまま?
それとも少しは考えてくれているのかな?
真剣に考えたいって言ってくれたから信じてるけれど…。


――意識してほしいな。


そんなこと言えるはずもなくて。


――意識してる?


そんなこと聞けるはずもなくて。


なんとなくこの関係のままなんだ。

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