▼ 記念日は
あれから季節は過ぎて。
私達は三年生になった。
「奈緒!!」
「あ、平助君。おはよう。」
日曜日。私達は駅前で待ち合わせをしていた。
受験生になったから最近は図書館やお互いの家で勉強することが多かったんだけど平助君がさすがに息抜きしたいからと誘ってくれたのだ。
でも、どこ行くんだろう?
「…。」
「どうしたの?」
「いや、今日も可愛いな。」
「え!?あ…ありがとう。」
にこっと眩しい笑顔で言われると恥ずかしくて。
がんばって服選んで良かった。
「平助君。今日は…。」
「今日は思い切り遊ぼうぜ!俺がコース考えてきたからさ。」
「うん。わかった。」
そう言うと平助君は私の手をひいて歩き出した。
手を繋ぐのも自然になったな。
横に並んでももう顔が赤くなることはない。
寂しいような…でも嬉しいことだよね。それだけの時間を一緒に過ごしたんだもん。
「まずは…ここ!」
そう言って平助君が指さしたのは…。
「わーーーー!平助君!とととと止まらない!」
「ははは!いいじゃんそのまま突っ走れって!」
目の前のハンドルを握る手が汗ばんでるのがわかる。
慣れない操作に慌ててしまってコースから思い切り外れていた。
平助君は慣れているのかすいすいと進んでアイテムをとりながら一位を独走中。
駅前の大きなゲームセンターに入った私達は思い切りゲームを楽しんでいた。
もちろん私でもできそうな簡単なものを選んでくれてるんだろうけど。
「奈緒すごすぎ。こんなにゲーム音痴なやつ初めてみた。」
平助君は涙目でけらけらと笑っていた。
「だって…やったことなくて…。」
悔しいけど画面にはビリの文字。
平助君は余裕の一位なんだもん。
「でもそういうとこ可愛いけどな。」
「…ずるい。」
そう言えば私の機嫌がなおるってわかってるんだから。
「じゃあ次は…あれとるか?」
「え?」
平助君が見ている先はプリクラ機。
そういえば私達一度も一緒にとったことがない。
「とる!」
「じゃあいこうぜー。」
機械に入るとお金を入れてスタートする。
最近のは肌も綺麗にうつるしありがたい。
撮り終えて落書きのコーナーに移動すると平助君がペンを持った。
ぺたぺたとスタンプを貼ってどんどん派手になっていく。
男の子って文字とか書かなそうだもんね。
私もペンを持つと他の画像にスタンプを貼った。
ちらりと平助君を見ると日付のスタンプを貼っていて、最後にハートのスタンプを押していた。
…意外かも。男の子がハート使うとか。いや、平助君がハート押すとか。
「奈緒?」
「え?あ、なんでもないよ。」
急いで落書きを終えて私達はゲームセンターを後にし、近くのカフェに入ってお昼ご飯を食べることにした。
注文している間も平助君はどこかそわそわしている気がして。
どうしたのか聞くんだけどなんでもないって逸らされた。
しばらくしてご飯と飲み物が届くと平助君が待ってましたといわんばかりに食べ始めた。
お腹すいてたのかな。
おいしそうに食べてる平助君を見て私もお腹がすいてきてしまった。
お互いに少し分けあいながら食べているうちに私は平助君の様子を気遣うことも忘れていた。
食後のお茶を飲んでいると平助君が大きく深呼吸をする。
「平助君?」
「奈緒。」
そう言うと彼はカバンから白い包みを差し出した。
「これ。」
「何?」
白い包みに入っていたのは学業成就と刻まれた赤と青のお守り。
赤い方を私の掌にそっとのせてくれた。
「俺がんばって奈緒と同じ大学受かるから。だからこれからもよろしくな?」
「ありがとう!私もがんばるよ!!」
「本当はアクセサリーとか買ってあげたかったんだけど…ごめん。こづかい足りなくて。」
「いいよ!嬉しい!…でも一緒に買ってもよかったのに。買ってもらうなんて悪いし。」
そう言うと平助君が困ったように笑った。
「だってお前…今日俺達記念日なんだぜ?」
「え?」
「付き合ってから一年たったんだよ。」
「…ああ!」
「ははっ。やっぱ忘れてた。意外だよなー。奈緒こういうの好きそうだから。」
信じられない。すっかり忘れていたなんて。
だから平助君、プリクラに日付入れてくれたりハートのスタンプ押してくれたんだ。
私、彼女失格だ。
「あ、落ち込んでるだろー。」
「だって…私…。」
「いいじゃん。俺も気づいたの昨日だし。おあいこだろ?それにさ。」
「?」
平助君は私の手を握りしめる。
じっと大きな目で見られると目を逸らせなくなった。
「記念日はさ。これからたくさん増やせばいいじゃん。俺、奈緒といたら毎日記念日みたいなもんだし。」
「平助君…。」
「だからさ。落ち込むなって。な?」
そう言って笑う彼は。
私にとって太陽みたいな存在で。
だからこれからもずっと傍に居たい。
記念日はこれから少しずつ
増えていったらいいな。
増やしていきたいな。
「奈緒。」
「何?平助君。」
「大好きだ!」
終
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