道場を出て少し歩いた木の下に総司は立っていた。
すぐに走ってそこへ向かうと総司が一瞬私を見てすぐに背を向ける。


「総司?」

「…そんなに言えないの?僕と付き合っていること。」

「違うよ、そうじゃなくてね。あんなみんなの前で…。」

「僕は言えるよ。美月のことが大好きで、付き合ってますって。」

「総司…。」

「好きだって思っているのは僕だけなのかな…。誰にも渡したくないって、一緒にいたいって…。」


背を向けていた総司がくるりと振り向いた。
そして私は驚愕することになる。


「そ…総司!?」



だって…総司が泣いてるから。
涙が翡翠色の目から頬を伝っていた。


「総司!ごめん!」


思わず目元を指で拭う。相変わらず総司は悲しそうな顔で私を見ていた。



私は総司にこんなに悲しい思いをさせてしまったんだ。
付き合ってるって言うことは何も恥ずかしいことじゃないのに、どうして躊躇ってしまったんだろう。



「ううん、悪いのは美月じゃなくて僕だよ。僕がしっかりしてないから…。」

「そんなことないよ!」

「じゃあやっぱり僕が一人で突っ走っちゃったのかな?指輪も…右手だもんね。」

「これは!!」


右手にしていたのは未来で総司から婚約指輪を貰った時、二人で結婚指輪を買った時、その時の為に左手はとっておきたいって思ったから。



「別れようか?僕達。」




――別れようか?




その言葉に私は声が出なかった。
なんで?どうして?こんなことに。



まだ目を潤ませている総司は目の前にいるはずなのにものすごく遠く感じた。



嫌だ。
嫌だよ。
そんなの絶対に嫌!!!




「…だ。」

「美月?」

「嫌だ!」



そう言って私は総司の腕を掴んで道場へ歩き出した。



「美月!?どうしたの?」

「いいから。」



ぐいぐいと引っ張って道場の中に入るとみんなが一斉にこっちを向いた。



「お前らどこに…。」

「あの!」


練習を再開しようとしていたのか、土方さんが不機嫌そうな顔で私達に何か言おうとしているのを遮った。


「私…総司と付き合ってます!!!」

「美月…。」



静かな道場に私の叫び声が響いた。
土方さんも、平助も、一君も、原田さんも、永倉さんも…一年生達も。
みんなぽかんと私達を見ていた。



「総司は優しくて、私を大事にしてくれてますから…その、心配いりません!大丈夫です!」

「…。」

「みんなの前で言うのが恥ずかしかっただけで、隠したいとかそんなことなくて!指輪も左手は将来の為にとっておきたかったから…その…。」


私は総司になんとか説明しようと目を泳がせながらも必死に言葉を探した。
すると俯いていた総司が顔をあげる。



「え。」

「っ…くくくっ…。」



ものすっごく笑いをこらえてます。
ものすっっっごく笑顔です。





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